車椅子テニスが2バウンドの返球を認めている訳とは
車椅子テニスは、通常のテニスとの違いがいくつかある。その1つが「2バウンドでの返球が認められる」という点だ。テニスではノーバウンドか1バウンドで返球しなければならないのに対し、車椅子テニスは2バウンドまでがルール上認められている。また、2バウンド目はコートのライン外でも可とされている。
相手が放ったボールに対して自分の足で走ったりステップを踏むテニスとは違い、車椅子テニスは反応してから車椅子を操作することになる。その一瞬の差がスポーツの世界では決定的なタイムラグとなる。また、車椅子テニスを操作しながらラケットを構えて振り抜くまでにもタイムラグが生じる。このような事情により、車椅子テニスでは2バウンドの返球が認められているのだ。
さまざまな特殊性を持つ競技用車椅子の基本ポイント
2バウンドまでの返球が認められているとはいえ、元々動きの激しいことで知られるテニス競技の性質上、足代わりの車椅子構造にはさまざまな工夫が施されている。
当然、日常生活で使う車椅子にはブレーキが装備されているが、車椅子テニスで使用する競技用車椅子には装備されていない。これは、車椅子の軽量化と競技ルールに対応した結果だ。車椅子テニスではプレー中のブレーキ使用が禁止されているのだ。
競技用の車椅子を前から見ると、左右の車輪は八の字に傾いているのがわかる。これは車椅子を倒れにくくしているほか、回転性能を向上させる役割も果たしている。また生活用の車椅子と比べ、競技用の車椅子は重心が前にくるよう設計されている。これも回転性能の向上に配慮したものだが、その分後ろに倒れやすくなる。そのため、リアキャスターがついているのも特徴の1つだ。
トップ選手になるには必須の「チェアワーク」
車椅子テニスにおける車椅子は、器具ではなく選手の体と同一に見なされる。つまり身体に適用されるルールはすべて車椅子にも適用される。たとえばボールが車椅子に当たった場合は失点になる、といった具合だ。
車椅子を「器具ではなく体の一部とみなす」とするこの規定だが、実際のプレーを見ると、各選手が操作する車椅子は本当に体の一部かのように、非常にスムーズな動きを見せる。トップクラスになるほど、選手は見事なチェアワークを披露している。
車椅子の操作技術を「ウィーリングスキル」と呼ぶが、これにはさまざまなテクニックがある。ストロークでのボールスピードが通常のテニスと変わらないレベルにまで到達した車椅子テニスは、チェアワークが伴わなければ大会に勝ち抜くことは困難になっている。
クァード、ニューミックスといった独自のカテゴリーが存在
車椅子テニスには男子、女子、ジュニア、クァード、ニューミックスといったカテゴリーが存在する。このうちパラリンピックの正式種目には男子と女子、クァードでシングルスとダブルスが行われる。
ジュニアカテゴリーは18歳未満という年齢制限があり、男女でクラス分けされている。ただし、極めて能力の高い選手は、18歳未満でも制限フリーの男女各カテゴリーに出場するケースがある。
クァードとは四肢麻痺の略称で、重度の障がいを持つ選手たちのカテゴリーだ。クァードには性別の区分がないため、ダブルスの試合で男女がペアを組むことも認められている。また、選手の状態に応じて、ラケットと手をテーピングでつなぐことが許されている。
ニューミックスは障がい者と健常者によるダブルスのカテゴリーで、親善試合やエキシビションを中心に行われる。
腕にかかる負担の大きさは車椅子テニス選手の宿命
通常のテニスと車椅子テニスで共通するものもある。コートのサイズ、ネットの高さ、ラケットやボールなどがそれにあたる。
テニスで肘や肩、手首を故障する選手は少なくないが、車椅子テニスではこの傾向がより顕著に表れる。本来テニスのスイングには下半身の捻りが根幹にあるが、車椅子テニスでは下半身を使ってボールを打つことができない。移動以外では足を地面につけることも許されない。そのため上半身、特に腕を襲う衝撃や負担は非常に大きくなる。
国枝慎吾選手は、蓄積した肘への負担が2015年秋頃から故障に悪化し、翌2016年4月には手術に踏み切った。これがこの期間に成績が低迷した主要因といわれている。
まとめ
年を追うごとに競技レベルが向上している車椅子テニス。リオパラリンピックで観戦した方も多いのではないだろうか。
世界の主要大会には通常のテニスと同じように4大大会やマスターズも開催されている。
テレビで放送されるケースもあるので、見たことがない方もぜひ一度観戦いただきたい。