テニスだけでなく、スポーツ全体に影響を及ぼすメンタルの力
スポーツ全体に当てはまることですが、試合などで望む結果を出すためには心の状態が整っていなければなりません。それは、よりレベルの高い試合になるほど顕著に表れます。昔からの言葉に「心技体」というものがありますが、お解りのように技(テクニック)や体(フィジカル)より心(メンタル)という言葉が先についています。心の状態が整っていなければ華麗な技を繰り出すことも、体を自在に動かすことも難しくなるのです。
テニスというスポーツは、基本的にどちらかがポイントを取るまで動き続ける必要があります。足を止めてしまえば相手にポイントを取られますし、腕を振らなければボールを返すことができません。疲労が全身を駆け巡ってもプレーを続けられるのは、まぎれもなくメンタルの力によるものです。
テニスという競技に作用するメンタルの力
テニスの世界でも「メンタルが強い」とされる選手がいます。メンタルの強さが試合の勝敗を分けた、という評価を見聞きすることもあります。では、メンタルの強い選手はその力を相手選手に発揮することで勝利するのでしょうか。
経験のある方ならお分かりになると思いますが、選手個人のメンタルは相手に直接作用することはありません。メンタルが作用するのは相手選手ではなく、自分自身です。
テニスはよく「ミスの少ない方が勝つ」といわれます。相手よりもミスを少なくすれば、より勝機を得ることができるスポーツです。しかし、レベルが上げれば上がるほど相手のミスは減ります。つまり、レベルが上がるにつれ、自身にかかるプレッシャーは増大していくのです。そしてそれを克服できるのがメンタルの力です。
錦織圭選手の飛躍に大きな貢献を果たしているもの
錦織圭選手は、言わずと知れた日本を代表するテニスプレーヤーです。世界ランキングの最高は4位、現在でも5位とトップクラスに君臨しています。身長178cmは、日本人でも特別大きい部類ではありません。世界の強豪がひしめく中、体格面では不利な立場です。
錦織選手はリターンやバックハンドを筆頭に、ストロークで非常に高い技術力を持ちます。しかし技術力だけで世界の五指に入れるほどテニスの世界は甘くありません。錦織選手の強さを支えているもの、それは高い技術をコンスタントに発揮するだけのメンタルに他なりません。
特に、2013年12月からコーチとしてタッグを組むマイケル・チャン氏の存在が、錦織選手のメンタル強化に多大な影響を及ぼしています。
マイケル・チャンコーチが錦織選手に取り入れたメンタルトレーニング
錦織選手の専属コーチに就任したマイケル・チャン氏は、錦織選手について「メンタルが弱い」と指摘しています。そして、その弱点を克服するべくトレーニングを課しました。
1つめは「自分を信じる」こと。これを言葉だけで考えるのは簡単ですが、心からそう信じ切るのは容易ではありません。マイケル・チャンコーチは、時に1日5回もこの言葉を錦織選手に投げかけています。
2つめは「肯定的な言葉を使う」こと。試合で負けてしまった時など自己を分析する場面はありますが、敗戦に固執し過ぎると自分の中に否定的な言葉が浮かんできてしまうものです。錦織選手はこの部分に改革を施しました。
3つめは「明確な目標を持つ」こと。常に自分の新たな目標を打ち立てることで、現在地との差や達成までの道筋が立てられます。これは重要なことを成し遂げるには必須のメンタル能力です。
錦織選手のメンタルに対する語録
全米オープンで準優勝の快挙を果たし、世界ランキングで5位と躍進した2014年、日本記者クラブの会見で錦織選手はメンタル面の変化について下記のようなコメントを残しています。
- 自分自身を追い込むというか、メンタル的に強くならないといけないと、たぶん感じ始めていたのが、その発言が出たきっかけだと思うんですけど。
※全米オープンで「勝てない相手はいない」と発言した真意について
- 「自分を信じる」というところを、本当に何回も言われたので。彼にはメンタル面でもいろんな助け、アドバイスをいただいて、それで自分が強くなってきていると思うので、テニス以外でも支えになっています。
※マイケル・チャン氏の言葉とその影響について
- でもやっぱり決勝まで行けたので、目標になってくるのはグランドスラム優勝。
※2014年の結果を受けての新たな目標について
まとめ
テニスは肉体へのダメージが非常に大きいスポーツのため、一般的にはフィジカルに優れる欧米の選手が有利とされています。
しかし、錦織選手のように高い技術と、それを支える強いメンタルが備われば、世界の選手とも互角に渡り合えるのです。
錦織選手をはじめ、これからも強靭なメンタルを備えた日本人選手が世界で活躍する姿を応援したいですね。