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東京オリンピック卓球団体戦は第1試合のダブルスが鍵

張本智和と丹羽孝希Ⓒマンティー・チダ
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Ⓒマンティー・チダ

Tリーグは第1マッチにダブルス、第1マッチを制すれば勝率は70%を超える

2シーズン目を迎えた卓球Tリーグ。2019年12月30日現在で、首位は男子が木下マイスター東京、女子が日本生命レッドエルフ。共に昨シーズンの優勝チームだ。

今シーズン、特に顕著なデータが残っている。それはTリーグの試合方式に隠されていた。現在Tリーグは以下の形式で試合を行っている。

第1マッチ ダブルス3ゲーム
第2マッチ シングルス5ゲーム
ハーフタイム
第3マッチ シングルス5ゲーム
第4マッチ シングルス5ゲーム
(※マッチカウント2-2の場合、ビクトリーマッチと呼ばれる延長戦シングルス1ゲームを実施)

その他、各マッチ最終ゲームでは6-6からスタートする特別ルールもある。ここで改めて、今シーズンにおけるTリーグの勝敗を調べてみると、第1マッチの勝敗が試合の勝敗にほぼ直結していることがデータから弾き出された。12月末日現在、男子・女子それぞれで第1マッチの勝敗と試合の勝敗を並べてみる。

Tリーグ男子2019年12月30日現在ⒸSPAIA
Tリーグ女子2019年12月30日現在ⒸSPAIA


こうしてみると、第1マッチを獲得したチームの勝率が男女とも7割を超えているのだ。簡単に言えば、第1マッチのダブルスを勝てば、自ずとチームの勝利に近づく。各チームの監督も第1マッチの重要性を認識していた。木下マイスター東京の邱建新(チウ・ジェンシン)監督は、12月29日で岡山に勝利した要因を「ダブルスを勝ったこと」と話した。張本智和や丹羽孝希という東京オリンピック男子シングルスに選出されている選手を抱えても、ダブルスを最重要ポイントとしていた。日本生命レッドエルフ村上恭和総監督も「Tリーグはダブルスで勢いをつけた方が大体有利になっている」とこちらも同じような感触を得ていた。

ダブルスが1番手になっているところもTリーグの魅力と考えてよいだろう。シングルスで勝てるからと言って、ダブルスで力を発揮できるとは限らない。シングルスは台の手前半分を一人で支配し相手とも1対1の対戦になるが、ダブルスは2人で自分たちの台を守り、交互にボールを打っていく。右利きや左利きによって立ち位置も変わり、右利き左利き、左利き同士においてもそれぞれボールの迎え方が違ってくる。そして、ペアとなる選手のプレースタイルを理解した上で、得点を稼がないといけない。そのダブルスが勝利の鍵を握っているのだ。

これは卓球に限った話ではないが、どんな試合でも立ち上がりは気になるものだ。立ち上がりを良い形で進めば、選手やチームは安定した気持ちで試合を進める事が出来る。出だしをうまく決められなければ、追いかける展開となり、相当なパワーが必要になる。

Tリーグで考えれば、第1マッチのダブルスを落とすと、残りの3マッチを悪くても2勝1敗で乗り切り、1マッチのビクトリーマッチまで持ち込まないといけない。T.T彩たまの坂本竜介監督も「ダブルスで負ければチームとしても落ち込んでしまう」と以前、試合後に漏らしていた事があった。「ダブルスで負けた後、シングルスで3勝するのは相当なパワーが必要。だからこそ最初のダブルスは重要」と力説する。勝率がそれを証明するように、1番手のダブルスを如何に勝てるかがカギとなるわけだ。

木下マイスター東京の田添健汰と宇田幸矢Ⓒマンティー・チダ

Ⓒマンティー・チダ

東京オリンピック団体戦を勝ち抜くためにも初戦のダブルスは重要

Tリーグはダブルスが大事だとしたが、この件は今夏に行われる東京オリンピック団体戦にも直結する。改めて、1月6日に発表された東京オリンピック日本代表候補選手は以下の通り。

【男子】
張本智和(木下グループ)
丹羽孝希(スヴェンソン)
水谷隼(木下グループ)

【女子】
伊藤美誠(スターツ)
石川佳純(全農)
平野美宇(日本生命)

(※リザーブの選手は男女各1名ずつ。JOCへのエントリー期限直前となる5月中旬に発表予定)

団体戦においては、2018年にロンドンで行われたチームワールドカップからABCXYZ方式の新オリンピックシステムが採用され、シングルスとダブルスの試合順が変更となった。昨年、東京オリンピックのプレ大会として行われた「JA全農 ITTF 卓球ワールドカップ団体戦 2019 TOKYO」でも採用された。このシステムの対戦形式は以下の通り。

AチームをABC、BチームをXYZとして当てはめる。
第1試合 ダブルス  B&Cペア VS.  Y&Zペア
第2試合 シングルス A VS. X
第3試合 シングルス C VS. Z
第4試合 シングルス A VS. Y
第5試合 シングルス B VS. X

まず、重要な事はダブルスが第1試合に組み込まれていることだ。前回男女ともメダルを獲得したリオデジャネイロオリンピックでは、第3試合がダブルスだった。シングルスを2試合した後のダブルスと、出だしのダブルスでは意味合いが違ってくる。リオデジャネイロオリンピックでも第3試合のダブルスで勝負を決めることもあったが、第1試合としてのダブルスは前回大会より重要度を増す。そして、AやXに入る選手はチームのエース格が入り、男子は張本智和、女子は伊藤美誠が有力。いきなりエース同士の対戦から始まるのがこれまでの主流だったが、今度はダブルスの出来如何で試合の流れが決まる。今回発表された代表候補選手で団体戦のダブルスに当てはめれば、男子は丹羽/水谷ペア、女子は石川/平野ペアが有力視されている。

もちろん、エース格となるAやXの選手が2勝し、それ以外の選手がシングルスで1勝すれば良いが、そこはTリーグと同様で第1試合のダブルスを敗退してから、残りのシングルスを3連勝して逆転、あるいは2勝1敗でゲームカウント2-2から第5試合で勝負という事も考えられるが、それ相応のパワーが求められる。

シングルスは地力の差が出やすい為に“番狂わせ”というのは難しいとされているが、ダブルスは地力よりもペアのコンビネーションが重要になる。シングルスで力を発揮できても、ダブルスで力を発揮できるとは限らない。今回のオリンピック代表選考は、世界ランキングを基準にシングルスの代表選考が先に決まったように、あくまでも選手個人の実力が重要視されている。ダブルス巧者と呼ばれる選手が選ばれない事情からも、個の力で選出された選手によるダブルスだからこそダブルスがカギを握るのだ。

Tリーグは1月末から再開する。東京オリンピック団体戦をより一層楽しむためにも、試合の勝敗に直結する第1マッチのダブルスに視線を注いで欲しい。気持ちでも優位に立つ為に必死で戦うダブルスの攻防は見物だ。