世界ランキング7位の18歳
「大魔王」―。
卓球王国、中国からこんな異名で恐れられる存在に急成長した日本女子のエースが世界ランキング7位の18歳、伊藤美誠(スターツ)だ。
昨年11月のスウェーデン・オープンで中国の劉詩雯、丁寧、朱雨玲のトップ選手3人を立て続けに破って優勝すると、中国メディアは「大魔王が現れた。彼女の実力は超一流だ」と報道した。1月の全日本選手権でダブルス、混合と合わせ、女子で初の2年連続3冠に輝いたホープは来年の東京五輪へ期待感も高まり「強くなって、もっと大魔王になりたい」と意気込んでいる。
「美誠パンチ」でリオ五輪金の丁寧撃破
強さの原点は器用な手先を駆使した多彩な技にある。その数は「300以上」とも言われるほど。中でも有名なのは「美誠パンチ」と呼ばれる、素早くボールを押し出すように打ち返すカウンター気味の強烈スマッシュだ。
6月の中国オープンでも女子シングルス準々決勝で、当時世界ランキング1位でリオデジャネイロ五輪金メダルの丁寧を4-1で撃破。国際卓球連盟(ITTF)の公式ツイッターサイトは「マンマ〝ミーマ!〟。またしても」と驚きを表現した。完全アウェーの中、東京五輪でもメダル対決が予想される難敵にスウェーデン・オープンに続いて勝利し、高速ラリーで改めて実力を証明した。
2歳から卓球始め、15歳で五輪出場
静岡県出身で卓球選手だった母の英才教育を受けて2歳から卓球を始め、小学生時代から「天才少女」と注目を集めた。2011年に10歳で全日本選手権の女子シングルスで勝ち、福原愛の持っていた最年少勝利記録を更新。14歳だった15年ドイツ・オープンでもワールドツアー初優勝。15歳で出場した2016年リオデジャネイロ五輪では福原愛、石川佳純の二枚看板と団体に出場し、銅メダルに輝いた。
リオ五輪後は、スピードあふれる攻撃力をさらに磨き、打球にパワーもついた。「自分の技術を真似することは無理」と天性の感覚で放つ多彩なテクニックには絶対的な自信を持っている。
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疑惑の判定に泣いた世界選手権
4月の卓球世界選手権個人戦(ハンガリー・ブダペスト)では早田ひなと組んだ女子ダブルス決勝で中国ペアに2-4で敗れたものの、48年ぶりの銀メダルを獲得。だが平成にやり残したことに「世界チャンピオンになれなかったこと」を挙げ、令和では「世界の大魔王になる」と宣言した。
決勝では疑惑の判定に泣いた。ゲームカウント2-2からの第5ゲームで判定を不服として主審に訴えたが受け入れられず、これを機に年内にもビデオ判定が試験導入される見通しになっている。
3冠も視野に入れた世界選手権は女子シングルスで3回戦、混合ダブルスでも準々決勝敗退と課題も残した。昨年は中国勢に勝ち越したが、包囲網は厳しさを増している。
東京五輪金へ「打倒中国」
東京五輪で日本の卓球選手が目指すのはもちろん「打倒中国」。その中でも伊藤は中国への高い壁を崩しつつある。同年代には平野美宇、早田ひなという伸び盛りのライバルがおり、互いに切磋琢磨して技を磨いているのは相乗効果だろう。
昨年はITTFの年間表彰式で世界選手権団体戦の女子の最優秀選手(MVP)に選ばれた。あどけない笑顔とは裏腹な強いハートも武器。「東京五輪は人生の勝負。もっともっとレベルアップできる」と目を輝かせている。