四股名を知れば力士がわかる
力士の名前「四股名」には本当にいろいろな名がある。入門時は苗字をそのまま四股名にしていた力士が、番付をあげていって入幕や十両昇進などを機に改名することもよくあることだ。そんな四股名だが、命名にはいくつかのパターンがあるのだ。そんな四股名について解説していく。
力士の名前「四股名」には本当にいろいろな名がある。入門時は苗字をそのまま四股名にしていた力士が、番付をあげていって入幕や十両昇進などを機に改名することもよくあることだ。そんな四股名だが、命名にはいくつかのパターンがあるのだ。そんな四股名について解説していく。
四股名とは、力士が現役時代に名乗る名前のことである。他のスポーツで例えるならば、プロレスのリングネームのようなものだ。力強いイメージの言葉や、自身や所属する相撲部屋に所縁のある文字、尊敬する先輩などから文字を借りることもある。
四股名と聞くと、名字の部分だけだと思うかもしれないが、実際はその下の名前を含めたフルネームすべてが四股名に含まれる。例えば第72代横綱の「稀勢の里寛」関は、「稀勢の里」だけでなく、「寛(ゆたか)」の名前の部分までを含めて四股名なのだ。
日本人力士の場合、名前の部分は本名をそのまま使うことも多く、「寛」は稀勢の里関の本名をそのまま使用している。外国人力士の場合、下の名前も名字に当たる部分と同様に、師匠からあやかる、母校から字をもらうなどして付けることが多い。
力士になる道のひとつに、相撲部が強い中学・高校に入り、学生相撲で研鑽を積み、新弟子検査に臨むというものがある。
例えば大関・豪栄道や元栃栄の三保ヶ関親方の四股名にある「栄」は、埼玉栄高等学校にちなんで使われている。埼玉栄高等学校は国内でも屈指の強豪相撲部を擁しており、タイトル数はインターハイ9回・選抜9回で全国最多。多くの力士を輩出している。
また、元朝青龍のドルゴルスレン・ダグワドルジさんの四股名「朝青龍明徳」の明徳は、母校明徳義塾にちなんでいる。明徳義塾は高知県にある私立の中高一貫校で、ここの相撲部も強豪校だ。四股名に母校名を込めたのは朝青龍さんだけだが、OBには朝赤龍関、琴奨菊関、栃煌山関らが名を連ねている。
こうした四股名の力士はそう多数ではないが、強豪校出身として、母校の誇りを四股名にも込めて戦っているのだ。
ふるさとの地名を四股名に込めて、故郷に錦を飾るべく土俵に入る。出身の地名を四股名に使った力士は大勢いる。中にはスケールが大きすぎて「ちょっとザックリしすぎでは……」というものもある。
代表的な例は元力士・水戸泉の錦戸親方。出身地の茨城県水戸市の「水戸」と、本名の小泉から「泉」をとって「水戸泉」となっている。隠岐の海関の四股名も同様に、出身の島根県隠岐の島からとっている。御嶽海関の「御嶽」は、出身の長野県木曽郡にある御嶽山から名づけられた。
これらの四股名は、ふるさとをイメージできるように付けられているのだ。
元・大関の把瑠都さんは、エストニア出身。エストニアはリトアニア、ラトビアと合わせて「バルト三国」と呼ばれ、隣接する海域は「バルト海」。ここから取り、当て字で「把瑠都」。スケールが大きい。
またスケールの大きさを比較するならなんと言っても元・琴欧洲の鳴戸親方だ。ブルガリア出身の親方の四股名は「琴欧洲」。佐渡ヶ嶽部屋の力士がつける「琴」に、ヨーロッパ出身だから「欧州」(のちに琴欧洲に改名)を続けてつけられた。
しかし、いくらヨーロッパの国ブルガリアの出身とはいえ、ヨーロッパは既に大陸。ヨーロッパの範囲をどこまでとするかによるが、50か国近くある。スケールの大きさは随一だ。
相撲部屋ごとに決まった漢字がある部屋もある。
たとえば、竹縄親方が現役時代つけていた「栃乃洋」や二十山親方がつけていた「栃乃花」にある「栃」の字は、春日野部屋の伝統的な漢字だ。その由来は、部屋の開祖である8代春日野親方の出身地、栃木から。8代目春日野親方の現役時代の四股名も「栃木山」だった。現在春日野部屋に所属する力士にもこの伝統は続いており、ジョージア出身の栃ノ心関や栃煌山関の四股名に「栃」の字を見ることができる。
他には、佐渡ヶ嶽部屋では「琴」の字を四股名につける力士が多い。鳴戸親方の「琴欧洲」、琴奨菊関、琴勇輝関などがある。この「琴」という字の由来だが、部屋の第11代目佐渡ヶ嶽親方(第53代横綱・琴櫻の鎌谷紀雄さん)の故郷、香川県観音寺市にある琴弾八幡宮というお宮に由来している。
そのほかにも武蔵川部屋の「武(蔵)」(元大関武蔵丸関)や、井筒部屋の「鶴」(横綱鶴竜関)など、伝統の漢字がある部屋がいくつもあるのだ。
部屋ごとの伝統の漢字には、部屋の歴史や偉大な先輩、師匠から受け継ぐ部屋の誇りがある。その字が持つ意味に恥じない取り組みをしようと気が引き締まるのだ。
現在の角界で四股名を語るうえで忘れてはならないのが、式秀部屋の”珍四股名”だ。元北桜の9代目式秀親方が部屋を継いだのが2013年。以降、所属力士に変わった四股名をつけることで話題となっている。
1人目は「爆羅騎 源氣(ばらき・げんき)」。なんとこの「爆羅騎」という名前は本名で、父親が強い人間になって欲しいと1970年代のハリウッド映画「バラキ」のタイトルからつけた。(本名「伊藤爆羅騎」)「源氣」のほうも漢字の使い方も独特だが、なかなか難読の四股名である。約167cmと低身長の力士ということでも知られ、新弟子検査では伸ばした髪を束ねて固め、めいっぱい背伸びをする姿が話題になった。
2人目が「宇瑠虎 太郎」。こちらは読めると思うが「うるとら・たろう」だ。もちろん由来はあのスペース戦士。名付け親はなんと式秀部屋の女将さんだ。なんでも「3分間全力で土俵の上を動き回ってほしい」という思いで名付けた。超軽量級の力士で、そのためかケガに泣くことが多く、2017年の三月場所現在、まだスペース戦士ほどの活躍を見せられていない。
次は「冨蘭志壽 学」。こちらも読めるだろうが「ふらんしす・まなぶ」である。彼はフィリピンのラグナ州出身東京都育ちの外国人力士で、本名がテオドロ・フランシス・ロバート・ヴァリエスと言い、本名から「冨蘭志壽」と当て字の四股名をつけている。平成10年生まれという若手も若手。式秀部屋の期待の存在だ。
式秀部屋きっての思い切った四股名といえば、「桃智桜 五郎丸」だろう。「ももちざくら・ごろうまる」と読む。なんと「桃智桜」の由来はアイドルの嗣永桃子さんの愛称「ももち」から。桃智桜自身が嗣永さんのファンで、四股名に入れてもいいかと親方に尋ねたところ了承が下りて元の四股名「式乃川 知和」から無事改名した。その際、名の部分も本名の「知和」から「五郎丸」に改名。好きなアイドルの愛称を四股名に入れるのは、他の部屋では考えにくいことだろう。
ほかにも、大当利 大吉(おおあたり・だいきち)、育盛 義洋(そだちざかり・よしひろ)など、面白い四股名の力士が多く所属している。2017年三月場所現在、式秀部屋の力士は爆羅騎の三段目が最高位。”珍四股名”を広めるためにも、もう一歩結果を残してほしいところだ。
伝統的なものから珍しいものまで、さまざまな四股名の命名について見てきた。四股名を知ることで、その力士のバックグラウンドやどんな思いが込められているかを知ることができる。
気になる力士が見つかったら、ぜひ四股名の由来も調べてみて、力士の人となりを知ってほしい。新しい発見が相撲がもっと奥深いものにしてくれるだろう。