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FCバルセロナが哲学継承者にオランダ人を任命 クライフの再来なるか

2019 8/4 11:35Takuya Nagata
元オランダ代表FWのパトリック・クライファートⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

クライファートが育成部門ディレクター就任

FCバルセロナは7月25日に記者会見を行い、元オランダ代表FWパトリック・クライファート(43歳)が育成部門「ラ・マシア」のディレクターに就任することを発表。契約は、2021年6月までの約2年間。会見には、育成部門の責任者であるシルヴィオ・エリアスとチャビエル・ビラホアナも同席した。

「私の思い入れのあるクラブのホームに戻ってくることが出来て、とても幸せです。バルサが世界最高のチームであり続けるための挑戦が楽しみです。」と話すパトリックは、1998~2004年に選手としてFCバルセロナに所属。308試合に出場し、145得点を記録した。今年7月19日に閉幕したアフリカ選手権では、カメルーン代表でクラレンス・セードルフ監督のアシスタントを務めていた。

現在、FCバルセロナの「インファンティルB (U12)」でプレーしているシェイン・パトリック・クライファートは、パトリックの息子である。小柄ながら技術力は高く、父親譲りの才能の片鱗を見せている。今までは父兄として試合を観戦していたパトリックだが、今後は育成する側として関わることになるだろう。

バルセロナの哲学を守ることが重要

今でも使われている「クライフターン」という言葉を聞き思い出される伝説の人物が、サッカーの技術革新に大きな影響を与えたヨハン・クライフだ。

新ディレクターとなったパトリックは次のように語る。

「私自身はアヤックスのアカデミーで育ちましたが、ラ・マシアにとても似ているので、若い選手たちの成長に大きな貢献ができると思っています。主な仕事は、ヨハン・クライフの哲学を守ることです。 アヤックスとバルセロナでプレーした私にとっては、難しいことだとは思いません。両クラブは、ほぼ同じプレースタイルです。フレンキー・デ・ヨングの加入でそのつながりは、より強いものになっていると思います。」

アンドレス・イニエスタといった数々の名選手を輩出してきたラ・マシアだが、最近は昇格した選手がブレークすることも少なくなった。 パトリックはバルセロナの根底にあるクライフの哲学を守ることが成功への重要な任務だと考えているようだ。

オランダで生まれた育成システム

ヨハン・クライフがプレーしていたオランダでは当時、選手間で頻繁にポジションチェンジを行い、組織的に連動するトータル・フットボールという考え方が生まれていた。天才ヨハン・クライフがその最先端の戦い方を体現した結果、アヤックスは1970年代前半にヨーロピアン・チャンピオンズカップ(欧州チャンピオンズリーグの前身)3連覇を果たした。

この活躍が認められ、1973年にFCバルセロナに移籍することになったクライフ。ピッチ上での存在感は抜群で、それは選手や監督の人選といったチーム運営にも影響を及ぼした。1978年、まだ余力を残しながらも一度、バルセロナで現役を引退。

その後、現役復帰を経て1985年にはアヤックスのテクニカルディレクターに就任。下部組織からトップチームまで、プレースタイルを共有。チームづくりを行う手法を導入し、大きな成果をもたらした。このようなトップチームの力と育成を直結させる運営システムは、スポーツ先進国であるアメリカで学んだようだ。

今も昔も、ドイツ、フランス、イタリア、イングランドといった欧州の主要リーグに囲まれている図式が変わらないオランダリーグ。国の規模が小さいため、年俸での競争は到底かなわず、いい選手はどんどん引き抜かれていく。このような厳しい経済状況にもかかわらず、世界的に名の知れたクラブであり続けているアヤックスは、若手選手主体ながら昨季の欧州CLで準決勝に進出した。

このチームの強さの源泉となっているのは間違いなく「育成」だ。

バルセロナを蘇えらせたクライフ、その哲学はクライファートにより蘇生するか

1988年、選手とクラブフロントが対立し内紛状態にあったFCバルセロナの監督に就任したクライフ。当時のスペインリーグは、レアル・マドリ―の一強状態にあった。

チーム確立までには時間を要したものの、1990-91シーズンには育成組織生え抜きのジョゼップ・グアルディオラを抜擢しリーグ優勝。翌年2連覇を達成し、ヨーロピアン・チャンピオンズカップで初優勝した。世にいう「ドリームチーム」の完成だ。

結果が出るまで時間がかかったのは、結果偏重ではなく自身の哲学を浸透させることを優先させたからだ。元々天才肌のクライフは、FWとMFをしていたせいか理想主義者。真骨頂は、ボールポゼッションによる攻撃サッカーで、ショートパスをつなぎ相手を圧倒し、攻めさせない。攻められなければ失点も無く、たとえ失点したとしてもそれより多くの得点を奪えばよいという信念を持っている。

それから数十年が経っているのに、まるで今日のバルサのサッカーを形容しているかのような内容だ。空飛ぶオランダ人と形容されたクライフは、2016年に昇天した。そして、伝統の哲学を継承するために、再びオランダ人がバルセロナにやってきた。