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「スーパーリーグはあり得ない」 UEFA会長が新提案も内容にECA案と類似点

2019 7/10 11:00Takuya Nagata
UEFAのアレクサンデル・チェフェリン会長ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

スーパーリーグはあり得ない

欧州サッカーの今後の大会のあり方を巡り、論争が沸き起こっており、様々な団体が意見を発信している。そして、ここに来て最高権力者であるUEFA(欧州サッカー連盟)のアレクサンデル・チェフェリン会長が見解を述べるに至った。

「スーパーリーグは、私の在任中に、開催されることはありません」

チェフェリン氏は、2016年にUEFA会長に初当選し、2期目の選挙は対抗馬なく再選され、次の4年間も続投することが決まった。今回の選挙前には、スーパーリーグの創設には、基本的に反対としていたため、欧州全土がそれを支持したとも見ることが出来る。

CL出場権を付与し選手流出阻止、弱者守る手段

チェフェリンUEFA会長は一方で、スーパーリーグ案に一見すると近づくかのような新たな提案を英タイムズ紙に明かしている。

「今年で言えばアヤックス、以前のモナコやレスター・シティのようなチームを守りたいと我々(UEFA)は考えています。アヤックスは、準決勝を戦い、そして今、選手達を売却せざるを得ない状況にあります。理由は、来年、欧州チャンピオンズリーグ(本大会)に出場できるか分からないからです。過度に閉鎖的になるため、あまりに沢山のクラブを保護するべきだとは思いませんが、ある程度の保護が必要だと考えます。一つのアイデアとして、大会の一定のステージまで進出したクラブは、翌年も出場権を得るというものです。しかし、まだ議論中です」

現状、欧州チャンピオンズリーグ(CL)では、優勝チーム以外は、翌年の出場が保証されず、出場権を得るには国内リーグ等で好成績を収める必要がある。

オランダリーグは、UEFAランキング11位のため、今年エールディヴィジを優勝したアヤックスでも、欧州CL3次予選から勝ち抜かないと、CL本大会には出場できない。今年、際立った活躍をしたアヤックスの若さ溢れる選手たちは、豊富な軍資金を持つビッグクラブの引き抜きのターゲットになっている。

日本代表の岡崎慎司が活躍したレスター・シティは、世紀の番狂わせとなった 2015-16シーズンのプレミアリーグ初制覇後、2016-2017シーズン欧州CLでも準々決勝進出と大躍進した。一方で、同シーズンの国内順位は12位と低迷し、翌年のCL出場は果たせず、財政的にもビッグクラブには遠く及ばない状況は同じまま。優勝の立役者となったエンゴロ・カンテやダニー・ドリンクウォーター、リヤド・マフレズなどの活躍した選手たちは次々にビッグクラブに引き抜かれていった。

欧州CLの現在の出場基準と今後のシミュレーション

欧州CL本大会に出場するための従来の基準とUEFA提案に基づいた仮説を書き出した。

【チェフェリンUEFA会長の提案から考えられる欧州CL本大会出場基準】
・UEFAランキング1位〜4位の国から、国内リーグ上位3クラブ(計12クラブ)
・UEFAランキング5位〜6位の国から、国内リーグ上位2クラブ(計4クラブ)
・UEFAランキング7位〜10位の国から、国内リーグ1位クラブ(計4クラブ)
・UEFAランキング11位以下の国から、国内リーグ1位クラブのうち予備予選を突破したクラブ(計2クラブ)
・UEFAランキング5~15位の国から2~3位クラブのうち予備予選を突破したクラブ(計1クラブ)
・欧州CL前季上位4クラブまたはUEFAランキング11位以下の国から国内リーグ1位クラブ(計4クラブ)
・UEFAヨーロッパリーグ前季1位クラブまたはUEFAランキング5位の国の3位クラブ(計1クラブ)
・UEFAランキング1位〜4位の国内リーグ4位クラブと欧州CL前季準々決勝で敗退した4クラブによる特別プレーオフに勝利したクラブ(計4クラブ)
合計:32クラブ

【従来の欧州CL本大会出場基準】
・UEFAランキング1位〜4位の国から、国内リーグ上位4クラブ(計16クラブ)
・UEFAランキング5位〜6位の国から、国内リーグ上位2クラブ(計4クラブ)
・UEFAランキング7位〜10位の国から、国内リーグ1位クラブ(計4クラブ)
・UEFAランキング11位以下の国から、国内リーグ1位クラブのうち予備予選を突破したクラブ(計4クラブ)
・UEFAランキング5~15位の国の2~3位クラブのうち、予備予選を突破したクラブ(計2クラブ)
・欧州CL前季1位クラブまたはUEFAランキング11位の国の1位クラブ(計1クラブ)
・UEFAヨーロッパリーグ前季1位クラブまたはUEFAランキング5位の国の3位クラブ(計1クラブ)
合計:32クラブ

様々なシナリオが考えられるが、仮定として4強が翌シーズンの本戦出場権を直接得て、8強止まりが特別プレーオフという仮定で、このようにシミュレーションした。特別プレーオフについては、シーズン終了前に行うことで、翌年の本戦に出場できるか否かが早期に確定し、出場を決められれば選手流出を食い止めるのにいくらか有効だろう。

意見に食い違いも提案内容が不思議と摺り合うUEFAとECA

興味深いのは、この案がスーパーリーグ創設論者であるECA(欧州クラブ協会)のアニェッリ会長の案と似ていることだ。

近いレベルのクラブの対戦、市場の確保と新市場開拓といった理由から、アニェッリ会長は、ほぼ独立した形のスーパーリーグを提唱。しかし否定的な意見が多いことから、次のような妥協案を示したとされる。

【アンドレア・アニェッリECA会長の提案】
・チャンピオンズ・リーグとヨーロッパ・リーグ・トップディビジョン(名称仮)、ヨーロッパ・リーグ・セカンドディビジョン(名称仮)の3部制
・初回の2024-25シーズンは過去4季の国内リーグ順位でチャンピオンズ・リーグ出場24クラブを決定
・大会予選で出場4クラブを決定
・ヨーロッパ・リーグはトップ・ディビジョンが32クラブ、セカンド・ディビジョンが64クラブで、昇格・降格はそれぞれ4クラブ
・2025-26以降は毎年8クラブがチャンピオンズ・リーグから降格 ・トップ・ディビジョン上位4クラブがチャンピオンズ・リーグに昇格
・トップ・ディビジョン上位4クラブ以外で予選を行い昇格4クラブを決定

UEFAとECAは、お互いに根拠は異なるものの、描いている青写真は、不思議と近づいている。UEFAはスーパーリーグを否定しながらも、ビッグクラブも小さなクラブも納得がいく落としどころを何とか見つけようとしているのかもしれない。

チェフェリンUEFA会長は、9月11日に各リーグやクラブとこの件について話し合う機会があるとしている。今後も熱い討論が続きそうだ。