久保のマドリー移籍で思い出すあの処分
“日本の至宝“久保建英がレアル・マドリーに移籍。このニュースは日本中、そして世界中を駆け巡った。日本人選手のマドリー移籍も大ニュースだが、バルセロナのユース出身である久保が、ライバルであるマドリーに移籍したという点でもニュースになった。そして”久保建英“、”スペイン“、”移籍“というキーワードで思い出されるのが、久保がバルサを出ることになった処分のことだ。
2014年4月、バルサは18歳未満の選手獲得・登録に関する規定に違反したとして、その夏と次の冬の移籍市場で、選手移籍を禁止する処分をFIFAから下された。それに伴い、久保を含め、規定に抵触していたとされる18歳以下の選手たちは公式大会へ出場できなくなってしまった。彼らは処分決定後、それぞれ時期は異なるがバルサを後にしている。
対象とされたのは久保を含む10選手。あれから5年が経ち、彼らは18~23歳に成長した。彼らのその後を見ると、前途有望と言える選手は多く見積もっても3人。バルサが見込んだ若者であっても、順風満帆なサッカー人生が約束されたわけではないということだろう。
日本復帰でこれまでの久保は順調
15年、日本に復帰した久保は、かつて下部組織に所属していた川崎フロンターレではなくFC東京に加入。ここでU15、U18、U23と飛び級でステップアップしてきた。17年にプロ契約を結ぶも、当初はJ3の試合を主戦場とした。
J1でのプレーにこだわり18年に横浜Fマリノスにレンタル移籍すると、J1でも通用する実力を持つことを証明。FC東京に戻った19年前半はトップチームでの出番を掴んだ。代表でもU20、U23を飛び越え、コパ・アメリカを戦うA代表に招集されている。
スペインからJリーグに移ったことで、1部リーグでの経験を詰めている。この点でいえば久保は着実に歩みを進めていると言える。だからこそ、レアル・マドリー移籍が実現した。
成功者はCLベスト4の守護神
バルサを去った10人の中で、現時点で最も成功を掴んでいるのがカメルーン人GKアンドレ・オナナだ。2010年にバルサの下部組織に13歳で入団。15年2月、19歳のときにオランダの名門アヤックスへ移籍した。
移籍直後の2月からオランダ2部所属のBチームでプレーを始めると、高い身体能力と将来性を評価され、すぐにAチームの第3GKとしてメンバー表に名を連ねた。
16年夏に正GKのオランダ代表GKヤスパー・シレッセンがバルサへ移籍したのを機に守護神の座を掴む。クラブでは16-17シーズンから3季にわたりゴールマウスを守り、18-19シーズンにリーグと国内カップの2冠、そしてCLの大躍進の立役者となったのは記憶に新しい。
16年5月にはカメルーン代表に初選出、9月の親善試合では代表デビューを果たすなど代表キャリアも順調だ。ポジションもタイトルを掴み実績も積んでいる。ビッグクラブへの更なるステップアップもありえるだろう。
“韓国のメッシ”が味わう苦悩
久保より3歳年上のFWイ・スンウ。久保同様にバルサ下部組織で成長を続けていたため“韓国のメッシ”と呼ばれ、おそらく10人の中で最も期待されていた選手だったが、その期待通りのキャリアは歩めていない。
13歳の時点で日本復帰を決めた久保と異なり、イ・スンウは18歳になるまでバルサに残ることを選んだ。公式大会に出場できない辛い立場ながら練習を重ね、ユース最終年の16年1月には18歳の誕生日を迎えついに選手登録されると、3月にはバルサBで途中出場を果たした。
だがバルサでの公式戦出場はこの1試合にとどまり、トップチーム昇格の可能性は低いと報じられると、17年夏にエラス・ヴェローナ(イタリア)へ完全移籍。移籍1年目はリーグ戦14試合(うち先発出場1試合)1ゴールに終わり、チームもセリエBへ降格してしまう。翌18-19シーズンも23試合出場1ゴールと、苦しい日々を過ごしている。
一方、代表でのステップアップは順調だ。世代別韓国代表に選出されたのち、18年にはA代表に初選出される。ワールドカップロシア大会のメンバーにチーム最年少で選ばれ、本大会には2試合に出場。同年にインドネシアで行われたアジア競技大会に出場すると4ゴールを決める活躍で、チームの優勝に貢献。これにより兵役免除を勝ち取った。イタリア2部リーグは若手発掘の場でもある。来シーズンはリーグで活躍し、さらに上のステージに登れるかが問われる。
多くが下部組織での日々を過ごす
その他の選手は苦しんでいる。下部組織所属や母国に帰ったと報じられた選手、なかには無所属の者もいるようだ。その中でまだ明るい話題があるのは2人。イングランド人のFWイアン・カルロ・ポベダ・オカンポ、韓国人MFペク・スンホだ。
19歳のポベダは現在マンチェスター・シティに所属し、18-19シーズンは主にU21チームでプレー。またカラバオ・カップのバートン戦ではトップチームデビューを果たした。順調に行けばシティ期待の若手MFフィル・フォーデンのように徐々にプレミアの舞台でも出場機会が増えるかもしれない。
一方22歳のペク・スンホは“ネクスト・シャビ”とされた中盤のプレーメーカーだ。17年にジローナ(スペイン)に移籍し、2シーズンはセグンダB(3部)を戦うBチームのペララダでプレーした。18-19シーズン1月には国王杯でトップチームデビューを飾り、19年6月には親善試合イラン戦で先発出場しA代表デビューと、少しずつステップアップしている。しかしジローナは2部へ降格しており、今後の去就は不透明だ。
現時点では、久保は10人の中で順調にステップアップしてきたと言える。だが久保の次なるステージは世界最高峰のクラブ、レアル・マドリーだ。再び下部リーグでの戦いとなるが、J2、J3とはレベルが違う。トップチームの壁は今までにない高さと分厚さであり、さらにラ・リーガ(1部)デビューを狙うライバルは各国の至宝たちだ。
久保は、これまで日本人選手が経験したことのない戦いに身を投じることになる。サンチアゴ・ベルナベウのピッチに立つ姿を見る日は来るだろうか。