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「ポスト・メッシ」と「クラブ哲学」 失意の王者バルセロナが抱える2つの課題

2019 6/5 07:00橘ナオヤ
FCバルセロナのロゴⒸDENOZUKE/Shutterstock.com
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ⒸDENOZUKE/Shutterstock.com

連覇を達成も失意のシーズン

リーガ・エスパニョーラで首位を独走し連覇達成したFCバルセロナは今シーズン、全大会でわずか7敗しかしていない。にもかかわらず、失意のシーズンを送ったと言わざるを得ない。何故ならそれは、チャンピオンズ・リーグ優勝という目標をクリアできなかったからだ。

昨シーズンのローマ戦に引き続き、今年もリヴァプールに大逆転を許したバルサは、準決勝で敗退を喫した。4シーズンぶりのCLタイトル獲得はクラブの悲願だっただけに、選手は勿論、ファンの落胆は大きかった。

さらに、6年連続で決勝進出を果たしたコパ・デル・レイ決勝では、1-2でバレンシアに敗れ5連覇ならず。そして、国内2冠でCL敗退の失望を和らげることにも失敗した。2年連続大逆転による敗退と、この締めくくり。チームの方向性に疑問が投げかけられるのも無理はない。

「バルサが抱える問題」それを一言で表せば、チーム作りに終始するのだが、もう一歩踏み込んで見てみると、2つのことが見えてくる。クラブ哲学が感じられなくなった中盤、そしてメッシ依存のままここまで来てしまったことだ。

中盤で失われたクラブ哲学の要

世界トップクラスの強豪クラブ・バルサ。そのため、世間からは当然のように全ての試合で勝利することが求められる。そして、クラブはさらに「常勝以上」を選手に求めている。

クラブ哲学でもある「常勝以上」は、「完璧な優勝」を意味する。つまり、ピッチ上では常に試合の主導権を握り、細かく刻むパスでボールを支配し、美しく得点をあげるような完璧なプレーで得た優勝ということだ。これを実現するためには、選手全員の足元の技術が高くなければならない。また、中盤には並外れたパスセンスと戦術眼を持つコンダクターが必要だ。

カンテラーノ(下部組織出身)のアンドレス・イニエスタとシャビ・エルナンデスが揃っていた時代は、それが現実のものになっていた。だが、シャビが去りイニエスタが神戸へ移籍したことで、中盤で指揮を執れるのは2014年にセビージャから加入したイヴァン・ラキティッチだけとなった。

昨季、ラキティッチとコンビを組んだのはパウリーニョ、今季はアルトゥーロ・ビダルか若きアルトゥールだ。パウリーニョとビダルは、近年のバルサでは異色の肉体派MFで、攻撃参加やインテンシティの高い守備で貢献している。これまでのバルサにない戦術のバリエーションをもたらしたと言える。

だが、以前のように中盤で、繊細かつ正確なゲームメイクを担える選手ではない。そのため、スピードを活かし手数の少ないカウンターや、2列目からの攻め上がりを利用した波状攻撃といった攻めの形が増え、「美しく勝つ」よりも「圧倒的に勝つ」チームへと変貌を遂げた。

一方、アルトゥールは中盤でリズムを作り出せる選手であり、イニエスタの後継と目される。そして、加入が内定しているフレンキー・デ・ヨングも、ラキティッチとポジションやプレースタイルが類似すると評される選手だ。中盤のレギュラー陣はいずれも30代。世代交代としてアルトゥールとデ・ヨングのコンビが相性よく一層花開けば、再び美しくボールを支配するバルサの哲学がよみがえる可能性はある。

残念なのは、その役割を担うのが下部組織カンテラの出身選手ではないことだ。厚すぎるトップチームの壁を前に、多くのカンテラーノが出場機会を求め他クラブへ移籍していった。そんななか、今シーズン最もプレー時間を与えられたカルレス・アレニャ。来シーズンは、さらに出場機会を増やせるのだろうか。

前線にポスト・メッシの絵は見えない

もう一つの問題は「メッシ依存」だ。 今季、ラ・リーガとCLで、得点王と3年連続ヨーロッパ・ゴールデンシュー(欧州得点王)を獲得したメッシ。今年で彼も32歳、やがて「ポスト・メッシ」の時代がやってくるだろう。しかしその時、カンテラーノはもちろん外部から獲得した選手にも、クラブを支えるエース候補はいない。

メッシが30代を迎える2、3年前から、バルサの「メッシ依存」は加速している。この3シーズン、リーガで計275得点をあげているが、うち107点を決めているのはメッシだ。これでは、彼に頼るなと言う方が無理な話だ。

メッシに次ぐ得点も年上のルイス・スアレスは負傷で移籍が噂され、メッシの後を期待されたネイマールは王になるべくパリへ去り、負傷しがちなウスマヌ・デンベレはコンスタントな試合出場がままならない。そして、マウコムに至っては未だ満足な出場機会を得れておらず、適応に苦しんでいるフィリペ・コウチーニョは放出候補とされて久しい。

加入濃厚とされるアントワーヌ・グリーズマンは、中央、ウィング、トップ下、偽9番としての適性があり、バルサに適応する能力を備えたフォワードだ。だが、28歳の彼がバルサに加入しても、ポスト・メッシのバルサを牽引する時間よりも、メッシと共存を模索する時間の方が長いだろう。

クリスティアーノ・ロナウドが抜けたレアル・マドリーでは昨季の94得点に対し今季は63得点と約30点の減少。ロナウドが生み出していた26点以上の得点減となっている。このことから、ロナウドの穴を埋めることもチーム再編もできないままシーズンを終えたことが分かる。

「メッシ依存」を強めるバルサにとって、ライバルであるレアル・マドリーのこの惨状は他人事ではない。30点を得ることができる選手を数年以内に見出し確保するのか、あるいは規格外の選手に頼らず組織的な美しいサッカーで勝利するスタイルに回帰するのか、はたまた全く新しいバルサ像を築いていくのか。いずれの道を選ぶにせよ、「ポスト・メッシ」に向け、今から動かないと取り返しのつかないことになる。