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レアル・マドリー逆襲へ ジダンとスタジアムのデジタル化が立て直しのカギ 

2019 4/11 07:00Takuya Nagata
サンティアゴ・ベルナベウ,
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スタジアムのデジタル化、電撃発表

スペインリーグのレアル・マドリ―が、本拠地サンティアゴ・ベルナベウの次世代型デジタルスタジアム構想を発表した。5億2500万ユーロ(約666億円)の予算を投じ、今季終了後に着工し、2023年に完成予定だ。

観客収容人数は増やさずに8万1000人を維持するが、開閉式の屋根により悪天候でも観戦しやすくなる。また観客席を360度囲むようにスクリーンが設置され、スタジアム外壁はチタンで覆われる近未来的デザインだ。

観客動員低迷、スタジアム改修で財政建て直し

レアルは、スタジアム併設のミュージアムやレストラン等、試合以外のアトラクションも充実させ、売り上げの増加と安定を目指す。

フロレンティーノ・ペレス会長は「ここをすばらしい次世代のデジタルスタジアムにして、改修により得る収入で、その費用を支払いたいと考えています。サッカー界で確実なものがなくなっていく中で、レアル・マドリ―に更なる競争力をもたらします」

今季のレアル・マドリ―のホーム戦の観客動員は、過去10年で最低水準に低迷し、5万人を割った試合もある。その原因の一つは、スター選手のクリスチアーノ・ロナウドの退団だ。今季昇格したばかりのSDウエスカ戦の観衆は49,293人だった。これは、Jリーグであれば、トップクラスの動員だが、銀河系軍団にとっては、閑古鳥が鳴いている状態だ。

スタジアム近代化の予算は、借り入れによりまかない、今後30数年をかけて返済する計画だ。スタジアムを目玉にすることで、人気選手の出入りに大きく左右されない安定した収入源を確保し、借金返済は長い年月をかけてコツコツと行う。世界有数の経済力を誇るレアルなら、もっと短期で返済することもできるだろうが、これは非常に手堅い方法だ。

スタジアムを建てたがゆえにチームの強化費用が賄えなくなり、極端な例では降格することもある。立派なスタジアムを建てても、下部リーグで客席がガラガラになっては、元も子もない。

レアルの予算規模なら、今回のスタジアムリニューアルによる強化予算への影響は比較的小さいと考えられる。とりわけ、今夏はチームの補強が急務なため、これは大きい。

将軍ジダン復帰でチーム再建

レアルは、今季、国内と欧州でタイトルレースから脱落しており、監督がコロコロと挿げ替えられる異例の事態となっている。この悪い流れが始まったのは、2018年にジネディーヌ・ジダンが監督を退任してからだ。ジダンは指揮官として輝かしい成績を収めながら、休養が必要と判断しクラブを去った。

レアルがジダンに監督復帰を打診したことは、自然な成り行きだろう。第一次ジダン政権当時の黄金時代を築いた選手たちも高齢化が進んでおり、攻守においてパフォーマンスが低下し、成績も伴っていない。今季の残りは、消化試合と化しており、さすがのジダンもチームの統率に苦戦している。

今夏、思い切ったチームの刷新が行われる可能性は十分にありえる。高給取りのベテラン選手たちがエスタディオ・サンティアゴ・ベルナベウを後にするかもしれない。シーズン終了前のこの段階でジダンがレアルに戻ったことで、来季に向けた準備のための十分な時間ができたことは好材料だ。

電光石火の早業でライバルの先行許さず、チームづくりも先手

前人未到の欧州チャンピオンズリーグ4連覇を目指したが、完全に息切れし果てたレアル。しかし、転んでもただでは起きないのが白い巨人だ。

今回のスタジアム改修は、発表から工事の開始が驚くほど早い。大規模な内容なため、昨日今日決まった内容とは考えにくい。スペインリーグの宿敵バルセロナが、本拠地カンプ・ノウの改修を同じく今季終了後に開始し、2022年完成予定だが、かなり前に発表されていた。

カンプ・ノウは、観客収容が99000人から105000人に拡大し、多目的な利用を促す設計で収益増加を見込む。予算は3億6千万ユーロ(約457億円)で、日本の日建設計が中心的な役割を担っている。

レアルは、敵の出方を入念にうかがい、予算においてはバルサを上回るこの大々的なプランを着工直前に発表し、電光石火の如く実行する。着工が同時期になったのは、偶然とは考えづらい。ライバルのスタジアムの優位性を相殺するための対抗策ではないだろうか。

強靭な財務体質をつくり、思い切って早期にチームづくりを始めたレアル・マドリ―。来季以降の逆襲に向け、着々と準備を進めている。