果たして、サッリ監督は解任されるべきなのか
順調なスタートを切ったはずだった。
2018-19シーズンからチェルシーの指揮を執るサッリ監督は、瞬く間にチームのスタイルを変貌させることに成功した。ナポリ時代同様にジョルジーニョをアンカーポジションに据え、魅力的なポゼッション型のサッカーを展開した。内容だけでなく結果も両立させ、リーグ前半戦を上位で終えた。一時は、優勝争いも不可能ではないとさえ思わせた。
しかし、後半戦に入ると、その勢いは大きく失速してしまう。1月19日に行なわれたプレミアリーグ第23節。チャンピオンズリーグ圏内のリーグ4位を争っていたアーセナルとの試合を2-0で落とすと、1月30日リーグ第24節のボーンマス戦はなんと4-0で敗戦。
極めつけは、リーグ第26節マンチェスターシティ戦での6-0という歴史的大敗だ。チェルシーが6失点以上で敗れるのは、28年ぶりのことだった。さらにその数日後に開催されたFAカップ5次ラウンドのマンチェスターユナイテッド戦も、2-0で落とした。
連敗が続き、チャンピオンズリーグ圏内であるリーグ4位から脱落したこともあり、サッリ監督には早くも解任のうわさが出ている状況である。
しかし、本当にサッリ監督は解任されるべきなのだろうか。
グアルディオラでさえ結果の出なかった1年目
チェルシーの現在の状況を見て思い起こされるのが、グアルディオラ監督就任1年目のマンチェスターシティだ。
2016-17シーズン、グアルディオラ新監督を迎えたマンチェスターシティは、開幕から破竹の勢いを見せリーグ首位を快走。「さすがグアルディオラ」と誰しもが思った。
しかし、それも長続きはしなかった。徐々に苦しむ試合が増えていき、思うように結果が付いてこなくなる。
チャンピオンズリーグでの対バルセロナ戦やプレミアリーグの対エバートン戦では、4-0という大敗も喫した。カウンターを得意とするレスターシティにも4-2で敗戦していた。
最終的に、ペップシティ1年目は無冠で終えることになった。
しかし、そんな時期を経て、新記録を多数樹立した2シーズン目のリーグ優勝がある。
強豪相手にも自分たちのスタイルを貫ける強さを持つ、今のシティがある。
実際、戦績を比べてみても2つのチームはよく似ている。
サッリ監督のチェルシーは、ここまでの43試合で28勝6分9敗。一方、グアルディオラ監督のシティ1年目の最初の43試合は、27勝9分7敗という成績だった。
新監督、それも特に強い個性を持つ監督を迎える場合、そのスタイルがチームに完全に浸透するまでには時間がかかるのが当然だ。
一時的には順調に思えても、徐々にウィークポイントが見えてきてしまう。相手チームに対策されれば、すぐにうまくいかなくなってしまう。1年目ならその程度の完成度であることが、むしろ自然だといえる。
昨シーズンまでのチームから大きくスタイルを変えたチェルシーの場合は、なおさらそうだろう。
スタイルを刷新することを前提にサッリを呼んだのなら、我慢の時期が必要だと考えるべきだ。リーグ下位にまで落ちるほど低迷したならば話は別だが、現段階での解任は時期尚早すぎるだろう。
仮に解任することになれば、次の監督選びに求められること
もしサッリ監督を解任するのなら、次の監督選びは、“これからのチェルシーがどんなサッカーを目指していくのか”をしっかりと考えた上で、一時の低迷も覚悟して行うべきだ。
そもそもチェルシーは、頻繁に監督交代を続けているクラブである。
過去10年を見ると、アンチェロッティ→ビラス・ボアス→ディ・マッテオ→モウリーニョ→コンテ→サッリと、6人もの監督が入れ替わっている。
監督を信頼し、より長い目でその働きぶりを見守ることが、まずクラブに求められる。
今プレミアリーグの上位に位置しているのは、クロップ4年目のリバプール、グアルディオラ3年目のマンチェスターシティ、ポチェッティーノ5年目のトッテナムと、いずれも長い時間をかけて監督のスタイルをしっかり浸透させてきたチームだ。
もちろん、時間をかけたからといって、手強いライバルの多いプレミアリーグで結果を出せるかどうかは分からない。
しかし、少なくとも今の状況で解任されるのは、サッリにとってあまりにも酷だといえる。
加えて言えば、このまま解任が実現すれば、チェルシーを率いたいと考える監督がいなくなってしまうリスクさえある。