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ブラジリアン・ドリーム目前で… 名門CRフラメンゴのユース10人が火災の犠牲に

2019 2/14 11:00Takuya Nagata
フラッグ,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

ブラジルのフラメンゴで火災、ユース選手10人死亡3人負傷の大参事

サッカーの神様ジーコら、数々の名選手を輩出しているブラジル・リオデジャネイロを本拠地とする名門CRフラメンゴのニーニョ・ド・ウルブにある練習施設の宿舎で、2月8日に火災が発生し、14歳から17歳の所属選手10人が死亡、3人が重軽傷を負う大惨事となった。

123年のクラブ史上最悪の事故、宿舎は違法建築だった

避難した選手の一人は「エアコンから出火しているのを確認し、即座に逃げた」と証言している。その後の調査で現場は建設許可を得ておらず、駐車場として登録されており、宿舎としての新たな申請もなかったことが分かった。リオデジャネイロ当局によると、フラメンゴはこの練習施設の違反で31回罰金を科され、そのうち21回は支払いが済んでおらず、2017年10月には一時閉鎖に追いやられる事態となっていた。

しかし、フラメンゴのレイナルド・ベロッティ社長は「宿舎はしっかりとした構造だった。練習場を合法化する手続きを行う必要はあるが、9つの認可が必要で、すでに8つまでは取得していた。消防局と協力して進めていること。これらの少年たちはフラメンゴ最大の宝であり、ケアを怠るということはありえない」とし、火災とライセンスの問題は無関係だと主張。その前に発生した嵐で電気の供給が不安定になったことが原因ではないかと指摘。火災の前には、大雨が降り洪水や市民に死者が出るほどの被害があったが、今回の火災との関係は不明だ。

運動神経に優れた10人の若者を犠牲にしたことで、建物の素材に問題がなかったかという点も気になる。建築に使用されたコンテナの製造元メーカーは「内部の素材は防火仕様だった」とし、建物自体に問題はなかったと強調している。 フラメンゴのロドルフォ・ランディム会長は、「123年のクラブの歴史上、最悪の悲劇だ。」とうなだれる。

家族の支えになるはずだった選手達、ジーコらOBも悼む

今回犠牲となった選手たちとも年齢の近いレアル・マドリーのヴィニシウス・ジュニオール(18歳)は「なんという悲しい知らせだろうか。皆のために祈る。そこで寝起きした日々を思い出す。まだ信じられない」とメッセージを送った。

ジーコは「亡くなった子供たちの家族に神様の慰めがありますように。将来を夢見る若手選手たちで、その多くが家族を助ける存在になるはずだった。その命が失われてしまった」と嘆いた。

貧困克服目前に命ついえる、言葉で表現できない悲劇

ブラジルでは、人口の実に3分の1が貧困層と言われている。サンパウロに次ぐブラジルで2番目の大都市リオデジャネイロに暮らす600万人の4分の1が「ファヴェーラ」と呼ばれるスラム街に住んでいる。 リオにはブラジル最大規模のファヴェーラである「ホシーニャ」というエリアがあり、不当に建てられた建物が軒を連ねる。衛生状態も悪く、麻薬ギャング等の犯罪組織が牛耳っており、警察機動隊と白昼に銃撃戦を行うこともしばしばだ。

教育制度の整備が立ち遅れているブラジルでは、貧困を抜け出すことは容易ではない。そこに射す一筋の希望の光がサッカーなのだ。お金、教育がなくても、裸足のまま路地裏で技を磨き、体ひとつで実力を示せば、強豪クラブの門をくぐることが許される。

そこでは、クラブの支援で学校にも通うことができて、プロとして活躍すれば家族全員の生活を一生支えるだけの大金を稼ぐことが約束される。 今回犠牲になった少年達の14歳から17歳というのは、プロ契約する目前の年齢だ。家族一同の期待を背負い、日々鍛練を積んでいた若者の夢と家族の希望が一夜にして絶望に変わってしまった。この苦痛と悲しみは言葉では到底表すことのできないものだ。

貧困脱却施設の意味合いがあるブラジルのサッカークラブで、スターの卵を襲った悲劇。あと一歩のところで日の目を見ることなく、かけがえのない多くの若い命がついえた。