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FIFAが徹底管理主義へ、大型移籍やビッグクラブの動き牽制

2018 10/4 11:00Takuya Nagata
FIFA
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サッカー界の大改革、VARは成功も移籍規制については議論の余地

FIFAは前政権で失墜した権威を取り戻そうと、ジャンニ・インファンティーノ会長就任以来、大改革を敢行している。

その一つが先のロシアワールドカップでも効力を発揮したVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)だ。誤審や選手が審判を欺く行為を防ぐことに焦点が当てられているが、実はもう一つの効果がある。不可解な判定があった際に、即座に映像というメスが入るため、審判の買収とその影響を抑止できるのだ。

FIFAはその他にも様々な提案を行っており、最近では高騰を続ける移籍金と多用される期限付き移籍を制限する動きも出ている。移籍市場のインフレにより悪習が助長され、選手の青田買いや公正な競争の喪失を招いているというのがFIFAの言い分だ。

世界全体の2017年の移籍金は51億2000万ユーロ(約6860億円)で、2016年から32.7%上昇した。そのうち、イングランドだけで9億8800万ユーロ(約1324億円)が費やされ、移籍金上位50件の平均は4840万ユーロ(約65億円)で、2012年の2040万ユーロ(約27億円)の2倍以上となっている。

ちなみに発展の初期段階にある女子サッカーの移籍金は、男子の約1500分の1の規模で、移籍金が支払われる移籍の割合も、男子の約15%に対し女子はわずか約3%だ。

移籍の投機市場化は問題にあらず、計算に頼らず人間性を見直して

FIFAのインファンティーノ会長は「移籍市場は投機市場と化してしまっている。これはプロスポーツの基礎をなすフットボールクラブや草の根の活動にフェアではない」と理由を説明。移籍金の計算に透明性と客観性を満たすメカニズムの検討が必要だとし、FIFAタスクフォースから選手の価値を導き出すアルゴリズムや計算式、移籍金を抑制するぜい沢税が提案されている。

選手の価値を計算式やアルゴリズムで出すのには、市場の原理からは乖離する行為だ。見積もりを立てる原則的な数式はあるだろうが、クラブが実際に選手を獲得する動機には様々なものがある。

プレースタイルがチームに向いている、監督と馬が合う、精神的な大黒柱や人気選手が欲しい等、数値化できない要素が多くあり、到底計算で出せるものではない。それをトップダウンのソロバンで一方的に値段を決めては、実際の評価額と異なる場合に交渉が成立せず、選手やクラブが不幸になる。

定価でしか選手を売れなくなったら、サッカーが規格品化され、味気ないものになってしまう。クラブの格差を是正したいのであればリーグの分配金に工夫を加え、その中にぜい沢税的な要素を採り入れ、草の根に還元するというものがあってもよいだろう。

そもそも移籍金の高騰は問題なのだろうか。経済は投機的だから資本が集まり成長していく。財政的に厳しい南米のクラブは将来得られる移籍金を頼りに、その権利を投資家に販売して食いつないでいる。移籍金を抑制することは、必ずしも弱小クラブの救済にはならない。

問題は移籍金の高騰ではなく、選手を人としてではなく、商品としてしか扱わない一部の関係者がいるという、人間性の問題ではないだろうか。

期限付き移籍は最高の育成方法、上手く調整を

期限付き移籍については、レンタルに出す選手の数を6~8人に制限し、受け入れクラブ側も同じクラブから受け入れ可能な人数を最大3人までに制限するという案だ。2011年から2017年にかけて146人の選手を期限付き移籍させたクラブの例があったとされる。

それと関連し、チームサイズの制限も提案されている。選手を囲い込み、期限付きで移籍させることは不安定な状態でプレーすることにつながり、特に若い選手に有害だとしている。

しかし、それも一概には言えないのではないだろうか。若手有望選手を多く所有し、下位リーグや他国リーグの公式戦で出して育て、伸びてきたら呼び戻して起用するという手法をとるビッグクラブがある。選手にとっては、サブでくすぶっているより、実戦を積みながらいつかビッグクラブに戻ってプレーするという目標を持つことができ、励みになる。小規模クラブとしても低予算か無償で良い選手を連れてきてチーム強化ができ、双方にメリットがある。

同一クラブからあまりにも多くの選手が一つのクラブへ集中して期限付き移籍をすると、間接的に移籍先クラブを影響下に置く状況が生まれてしまう。スポーツにおける競争の健全性を損なう可能性も考えうるので、期限付き移籍先1クラブに加入する人数を制限することは理解できる。しかし、1クラブが放出する期限付き移籍の総数に制限を加えるのは、必ずしも弱者保護にはならないだろう。

FIFA方針は日本の推進する道と逆行、今後の方向性は?

興味深いことに日本のサッカー界では、自由な競争を是正しようとするFIFAの保護主義とは逆の流れがあることだ。まだ追いついていないという表現が正しいかもしれない。

移籍に関しては国内のみ有効な移籍規則により、クラブは長期契約しなくても選手の引き抜きをある程度防ぐことができたが、2010年からは国際移籍ルールに準じて移籍を自由化した。

また、2017シーズンから10年間、約2100億円で英国パフォーム・グループのDAZN(ダゾーン)と放映権契約を締結し、その資金で選手の獲得や取引を活性化させようとしており、外国籍枠撤廃の議論も起こった。元祖イングランドにならった流れだが、本場欧州では待ったがかかっている。国内外の今後の動向が注目される。