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新たな欧州大会「UEFAネーションズリーグ」への期待と懸念

2018 10/8 11:00SPAIA編集部
UEFAネーションズリーグ
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Ⓒゲッティイメージズ

新たな欧州の国際大会が誕生

2018年、FIFAワールドカップロシア大会に沸いたサッカー界に、新たな国際大会が誕生した。欧州サッカー連盟(UEFA)主催の「UEFAネーションズリーグ」(UNL)だ。

W杯も欧州選手権(EURO)もない空白期間に新たな国際大会を設けようと2014年3月に発足を決定。これは代表戦の価値を高めるための、UEFA肝いりの大会だ。欧州ではクラブサッカーのレベルが高く、EURO予選やW杯の予選よりも、強豪リーグのタイトル争いやチャンピオンズリーグ(CL)の注目が高くなる。

W杯とEUROは偶数年4年ごとに行われるが、UNLはその間の奇数年2年ごとに開催される。第1回大会は2018/19シーズンで、すでに9月6日にグループステージ初戦が行われている。これにより、UEFAのみならず欧州各国の代表チームに多くのメリットがもたらされると考えているようだ。

真剣勝負にEURO出場権まで、メリットずくめのUNL

大会のレギュレーションを簡単に説明する。

UEFAに加盟する55のサッカー協会が、UEFAランキングに従ってA~D4つのリーグに分かれる。各リーグでさらに4つのグループに分かれ、ホーム&アウエー形式でグループステージ(GS)が行われる。

各グループの首位チーム決定後、リーグAではグループ首位の4チームによる最終ラウンド(2019年の6月に予定)を開催。リーグB~Dでは、グループ首位の4チームがひとつ上のリーグへ昇格、グループ最下位のチームはひとつ下のリーグへと降格する。このように、昇・降格がある点で大会への真剣勝負を促している。

また、上位チームには利点がある。各リーグのグループ首位チームによるEURO出場権をかけたプレーオフトーナメントが行われ、勝ち上がったチームはEURO本大会への出場権が与えられるのだ。つまり、これまでのEURO予選では本戦出場する機会がなかったリヒテンシュタインやマルタといったリーグⅮの国々でも、1チームはEURO本大会への出場が可能となる。

そして、この大会の試合は、これまで国際親善試合が組まれていた、いわゆる「国際Aマッチデー」に行われるため、選手たちに新たな負担をかけることがない。

さらに国際大会なので、FIFAランキングに与える影響も大きい。従来の親善試合では1ポイントしか得られないが、UNLではGSで1.5ポイント、決勝トーナメントやプレーオフでは2.5ポイントが得られる。W杯の組み合わせ抽選ではFIFAランキングが大きな影響力を持つため、これまでの親善試合より「戦う意味がある試合」となる。

各国のサポーターにもメリットがある。強豪国対弱小国という退屈なW杯予選ではなく、実力が拮抗した国同士の戦いを、W杯やEURO本大会が無い期間でも継続的に見ることができるのだ。実際に、9月に行われた初戦ではリーグAでドイツ対フランス、イングランド対スペインといった、W杯やEURO本大会レベルの戦いが行われた。サポーターの注目度アップも期待されているのだ。

課題は大会の意味付け「何を決める」大会なのか

では、この大会はメリットしかないのかというとそうでもない。最大の問題はこの大会はいったい何を決める戦いなのか定まっていない点だ。

欧州王者は今までEUROの優勝国だった。大会廃止が決まったコンフェデレーションズカップにも、欧州王者としてEURO優勝国が出場していた。現状でもEUROの地位が大きく下げられる措置はとられていない。UNLの各リーグ首位チームからEURO出場国が決まるというレギュレーションから見ても、EUROの優位性は示されている。

選手の中にはこの大会に意味を見いだせていない者もいる。アトレティコ・マドリーのスロヴェニア代表GKヤン・オブラクは、6か月間の代表辞退を申し出た。9月初頭には負傷により代表辞退をしていたが、その後アトレティコではプレーしており、9月末にはレアル・マドリーとの「マドリー・ダービー」でもゴールマウスを守っていた。

スロヴェニアはリーグCのグループ3に入っており、ノルウェー、ブルガリア、キプロスと同組だ。世界最高峰のGKと評されるオブラクは、今回のUNLはあまり価値が無いと判断したようだ。

また、選手に負担は無いと言われているが、UNLの開催により、今後は毎シーズン6月に何らかの大きな舞台が催されることになるため、ビッグクラブ所属の選手にとっては負担になり得る。EURO本大会は6月~7月に開催、W杯も次回カタール大会が変則開催となるが、これまでは6月~7月に催されてきた。そしてUNLの決勝ラウンドも6月に行われる。

一方で欧州リーグは5月にシーズンを終え、チャンピオンズリーグの決勝戦は5月末か6月初頭だ。強豪国の代表選手はCL優勝を狙えるクラブに多数在籍しており、UNLにも出れば休みなしに働くことになってしまう。UNL王者がどのような意味を持つのか明確にならなければ、出場を辞退するトップ選手が続出する可能性も否めない。

現状では、①拮抗したレベルの国との対戦頻度の増加、②下位ランク国にEURO出場のチャンスがあること、③他地域の国よりFIFAランクを上げられる機会が増えた、というメリットがあるが、実利以外の部分、CLやEURO優勝のような権威や誇り、価値が明らかになっていない。実利の面で有意義なのは間違いない。だが少なくともUEFAには、EUROとUNLの立ち位置を明確にして、UNLをより価値ある大会にしていく必要があるだろう。