プレミアリーグで唯一補強ゼロ
新シーズンに向けた準備が行われる夏の移籍市場では、多くの選手とお金が動く。どのリーグ、クラブも多額の資金を投じて必要な選手を集めようとする。
しかし、今年のトッテナム・ホットスパーFCは周囲とは真逆の道を選んだ。
プレミアリーグのクラブで唯一補強をしなかったのだ。
トッテナムの補強がなかったことも影響し2018年夏のプレミアリーグは、数年ぶりに前年の補強費を下回り、前年比2億ユーロ減。リーグ全体で約13億5000万ユーロ(約1715億円)となった。
新スタジアムに700億円。使わないのではなく、使えなかった
トッテナムは2016-17シーズンを最後に約118年間使用してきたスタジアム、ホワイト・ハート・レーンに別れを告げた。新スタジアムの。翌2017-18シーズンはウェンブリー・スタジアムをホームスタジアムとして借りて戦っている。2018-19シーズン途中からは2018年完成予定の新スタジアムが本拠地となる予定だ。
もともと、財布のひもが固いトッテナムだが、新スタジアム建設に約4億ポンド(約722億円)の金額を要したことも要因の一つだろう。
監督のマウリシオ・ポチェッティーノは今の戦力で満足している旨を語っていた。使える予算内でめぼしい選手がいなかったというのもあるかもしれない。
補強ゼロの代わりに得た高い継続性
補強を行わなかったトッテナムだが、選手の放出もなかった。
マンチェスター・ユナイテッドFCが関心を示していたトビー・アルデルヴァイレルトやダニー・ローズらを留めることに成功し、その陣容に変更はない。
陣容に変更がないことは悪いことばかりではない。監督の志向や同僚の動きへの理解度は日に日に高まり、今後もそれを継続して戦えるのは大きなメリットだ。
前線にはイングランド代表のハリー・ケインとデレ・アリが、後ろにはベルギー代表でタッグを組むアルデルヴァイレルトとヤン・フェルトンゲンがいる。いずれも今夏のロシアワールドカップで活躍した選手だ。他のポジションにも韓国代表のソン・フンミン、デンマーク代表のクリスティアン・エリクセンなどの各国のエースがいる。
いずれも約100試合以上に出場しており、しっかりと成績を残している選手がそろっている。
戦術の練度も文句なし。柔軟性とハリー・ケインが武器
トッテナムは4-2-3-1を基本システムとして戦う。各ポジションには前述した練度の高いメンバーが揃っており、それぞれが互いのことをよく理解した上で動いている。
相手がプレスを厳しくかけてくるのであれば選手間の距離を短くし、ショートパスでこれを回避。相手がゾーンで守るようであればエリクセンらがボールを左右に振りながら、穴を作りそこから攻める。選手が互いのことをよく理解しているため、とっさの状況判断・行動にも鼻が利く。
そして試合を決定づけるトッテナムのエース、ハリー・ケインの存在は大きい。
中盤からフィジカルに優れるデンベレの攻め上がり、ポストプレーも得意なデレ・アリの落としのパス「レイオフ」に対しては、足元にボールを確実に収められる。そこからひとりでボールを持ち込むこともできるし、そのままシュートも可能だ。
サイドのエリクセンやソン・フンミンとの連携にも文句はない。「バックドア」と呼ばれる動きも一流。自分に迫るマーカーの動きを読み、即座にその裏に抜け出していく。
これらの動きをトッテナムの選手らは呼吸をするように行う。
補強ゼロの答え合わせは冬の移籍市場で
トッテナムの陣容・戦術は高い完成度を誇る。現時点で大きな問題はなく、その継続性は強みだ。
もっとも、陣容に変化がないことで他のクラブに対策されやすいという危険はある。シーズン開幕当初には問題が見られなくとも、いくつかの試合を経て年末までには課題が噴出しているかもしれない。
ここ数年はリーグ順位5位以内という好成績が続いていたが、補強ゼロという選択が正しかったのか、答え合わせは冬の移籍市場で行われる。