動いた夏!マドリーとチェルシーのGK問題
レアル・マドリードCFはケイラー・ナバスに代わるGKを探し続けてきた。ナバスは実力も実績もある選手だが、安定感に欠ける上に年齢も若くはない。彼の第約として白羽の矢が立ったのは、チェルシーのGKティボー・クルトワだ。
マドリーからクルトワが狙われていることを知ったチェルシーは、HG枠問題に苦慮するなかマドリーが追っていたケパ・アリサバラガを獲得。問題の解決には至らなかった。
2人のGKを巡って2クラブはどのように動いたのか、その背景にどんな思惑があったのかをご紹介していく。
クルトワの移籍理由とチェルシーサポーターの憂鬱
ティボー・クルトワは、チェルシーFCとの契約延長に首を縦に振ることはなかった。彼はアトレティコ・マドリードでの武者修行時代にスペインで家族をもうけ、チェルシー復帰後も家族をスペインに残したまま、戦い続けていたのだ。2014-15シーズンにはそれまで正守護神だったペトル・チェフをベンチに追いやり、プレミアリーグを制覇している。
クルトワはメディアに延長交渉について問われるたびに、「どうなるか見てみよう」と同じ台詞を繰り返した。そのたびにチェルシーサポーターはやきもきさせられ、来たるべき時を想像し不安にかられてきた。「あのチェフを宿敵アーセナルにやってまで彼を戻したのに」、「彼の代わりをどこから連れてくるのか」と。
ロシアワールドカップ終了後にクルトワはクラブに合流することはなかった。話し合いの席を設けようとしたマウリツィオ・サッリの希望むなしくマドリーへ移籍。契約が残り1年しか残されていなかった彼の移籍金は、約3500万ユーロ(約45億円)にしかならなかった。
マドリーのGK探しは水面下で二転三転
マドリーはナバスが活躍するさなかで、2015年夏にはダビド・デ・ヘアの獲得に迫っていた。しかし、この移籍はマンチェスター・ユナイテッドFCと書類のやり取りが思うようにいかず破断に。
その後も水面下でGK探しに動いたマドリーだが、2018年1月にはアスレティック・ビルバオのGKケパ・アリサバラガの獲得も取りやめている。これはチームの調和を重んじるジダンが、シーズン途中の加入をよく思わなかったからだ。ケパの加入はナバスの序列が下がることを意味する。
よってケパの加入は2018年夏になるとされたが、彼はビルバオと契約を更新しジダンはマドリーを去った。最終的に獲得したのはティボー・クルトワ。ケパと違いスペイン人選手ではないものの、スペインでの生活経験がある上に今のサッカー界で最高峰のGKだろう。ロシアW杯でのゴールデングローブ賞獲得もよい土産だ。
特に味方のカウンター攻撃の先駆けとなるキャッチングとハンドリングの技術はピカイチで、日本対ベルギー戦で逆転劇の起点にもなった。
ケパ・アリサバラガの移籍と、チェルシーの窮屈なHG枠
ビルバオと契約を更新していたケパの契約解除金は、マドリーが獲得を狙っていた頃よりも跳ね上がった。約2000万ユーロ(約27億円)だった解除金は、約8000万ユーロ(約105億円)となり、チェルシーはそれを満額払うことで獲得にこぎつけている。
クルトワの代役探しはなんとかなった。2018年夏はリヴァプールFCがアリソン・ベッカーを約95億円でASローマから獲得したが、ケパの金額はそれを上回り史上最高額となる。
しかし、チェルシーにはチームの構成上大きな問題がある。それは「HG(ホームグロウン。21歳の誕生日を迎えるシーズン終了までに3年間の国内クラブ経験を持っていること)の選手が非常に少ないこと」だ。
プレミアリーグには25名を出場選手登録することができるが、最低8名はこれに該当する選手でなくてはならない。残り17名がHG枠外の選手でよいということになるが、国外から選手を獲得することの多いチェルシーはこの枠がもういっぱいいっぱいだ。
昨夏のロス・バークリーとダニー・ドリンクウォーターのギリギリの獲得もこうした理由が背景にある。チェルシーも少しでも多くのHG枠に該当する選手でチームを回そうとしてきたが結果を残せていない。今回のケパ獲得の前にはジャック・バトランドの獲得に動いていたが、これもHG枠を考慮してのことだ。
それでもチェルシーはケパを選んだ。契約は7年と非常に長く移籍金の高さと相まって、彼に大きな期待を寄せていることがよくわかる。
ゴールエリアのどっしり構えることの多いケパは、そこから横っ飛びしてシュートを防ぐことも、足元に放たれたシュートを即座にしゃがんで防ぐこともできる。
チェルシーのゴールが堅牢になることは間違いないが、選手のやりくりからも柔軟性が失われてしまった。
喜ぶマドリーと悩むチェルシー、新シーズンが始まる
マドリーもチェルシーもGKの去就で悩むことはしばらくなさそうだ。クルトワは臨んでいた新天地で安定感のあるプレーを、ケパは金額に見合うだけの活躍をしなければならない。
クリスティアーノ・ロナウドを失ったマドリーは、クルトワの獲得で再び前を向ける。その一方でチェルシーはHG枠を意識したマネージメントが求められる。
ロシアワールドカップの閉幕から早1カ月。2018-19シーズンも各クラブ三者三様の様相を呈し面白くなりそうだ。