イタリアで磨いたアントニオ・コンテのサッカー観
アントニオ・コンテは1969年、レッチェ出身。地元USレッチェでMFとしてプレー後、1991年から2004年までユヴェントスでプレーし、300近い試合に出場した。
選手引退後はすぐに監督となり、バーリやアタランタを経て、2011-12シーズンからは古巣ユヴェントスに凱旋する。レオナルド・ボヌッチ、アンドレア・バルツァッリ、ジョルジョ・キエッリーニらで構成されるイタリア版BBCを機能させ、就任1年目でユヴェントスを勝利へと導くと、12-13、13-14シーズンも圧倒的な強さで首位の座を譲らなかった。
2014年からイタリア代表監督になると、EURO2016では2-0でスペイン代表に勝利。ベスト8に輝いている。
どの段階でも守備を第一に考えるコンテは、イタリアサッカーのイメージをそのまま植え付けたような名将だろう。コンテのサッカー観はイタリアに育てられ、イタリアを強くしてきた。なお、現在のユヴェントスはコンテの3バックシステムから4バックシステムに移行しているものの、彼から始まったユヴェントスの快進撃を忘れる者はいないだろう。
プレミアリーグ上陸、チェルシーでの3バックシステム
2016-2017シーズンからは不振にあえぐチェルシーの監督となった。当初はモウリーニョやフース・ヒディンクらが用いた4バックシステムを使用していたが、第7節のハル・シティ戦から持ち前の3バックシステム(3-4-3)を採用すると、チェルシーに足りていなかった守備力と中盤での支配力が格段に向上した。
第20節のトッテナム・ホットスパーFCに敗れるまでに13連勝を記録し、就任1年目にしてリーグを制覇するまでになった。
昨シーズンに息を潜めていたアザールも、コンテの3バックシステムにより息を吹き返した。守備のタスクを1列後ろのマルコス・アロンソが肩代わりすることで、攻撃に集中。そのアロンソと入れ替わる形でサイドを駆け抜ける姿も圧巻だった。結果、昨シーズンはリーグ出場31試合4得点3アシストだったのが、このシーズンには36試合16得点5アシストにまで伸びている。
評価を高めたモーゼスとコンテの秘蔵っ子
コンテの就任によって蘇ったのはアザールだけではない。これまで様々なクラブを転々としていたヴィクター・モーゼスはスタメンに定着。これまでの待遇から考えれば嘘のような展開だ。無尽蔵のスタミナを持つ彼の上下動によって、チェルシーは攻守で助けられ間違いなくチームに欠かせない選手となった。
その対となる位置には前述のマルコス・アロンソがいる。彼はセリエAでの経験が長いコンテが目を付けていた選手で、チェルシーにやってきてから一気に芽が出た選手といえる。スピードには欠けるがアザールとの入れ替わりのタイミングの良さ、FKの精度には目を見張る物がある。彼なくしてチェルシーの復活もアザールの復活もあり得なかっただろう。
もっとも、中盤でプレーするエンゴロ・カンテの存在も大きい。彼もコンテたっての希望で獲得した選手で、ピッチ全体を俯瞰することに長ける。前へ走り込むべき時はボールを持ってスルスルと駆け上がり、守備時には相手のパスコースをとにかく走って塞ぎに行き、クリーンにプレスをかけていく。チェルシーはコンテの指導とテコ入れにより、泥臭く走れるようになった。
補強が上手くいかないコンテとチェルシーのフロント
チェルシーで十分過ぎるほどの成果をあげているコンテだが、チェルシーのフロントとの関係はあまり芳しくない。2016-17シーズンのリーグ制覇はコンテだからこそもたらせた功績であるが、この年のチェルシーがCLに出場する負担がなかった、ということも大きい。
昨シーズンとは変わりCLも戦わなくてはならない2017-18シーズンは、戦力補強が絶対に必要だった。コンテは3バックシステムでは中盤の支配力、とりわけウィングバックの存在が重要になると考え、アレックス・サンドロを必要としたが結局この交渉はまとまらず、未完成のスカッドのまま新シーズンに突入してしまう。
チェルシーはこれまでにも幾度となく監督を解任・退任させてきた。このようなチェルシーの風潮は誰もが知る所で、特にオーナーであるロマン・アブラモヴィッチら首脳陣が持つ権限が大きいのが理由だとされている。
コンテもこうした首脳陣からの圧力やままならない補強に満足していないことは明らかで、今後さらに関係がこじれるようなことがあればモウリーニョらと同じ運命を辿るのかもしれない。
テクニカルエリアで必死の形相で声を上げるコンテ、活躍した選手とはしっかりと抱き合うようなコンテが見られなくなるかもしれないのは何とも寂しいものだ。しかしコンテは世界を代表する戦術家だ。他のクラブやイタリア代表からのオファがくる可能性は十二分にある。ユヴェントス、イタリア代表、チェルシーを勝てるチームに育て上げた彼が次に立つ舞台はどこになるのだろうか。