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【タイムリミットはあと少し】リヤド・マフレズの挑戦と残された時間

2017 11/10 12:24dai06
リヤド・マフレズ
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マフレズの生まれとフランスでの日々

リヤド・マフレズ選手(以下、敬称略)は1991年2月21日生まれ。アルジェリア、フランス、モロッコという3ヵ国の国籍を所持している。

代表チームとして選んだのはアルジェリアだが、サッカーを始めたのはフランスのAASサルセルというクラブだった。ユースで技術を磨くと、2009-10シーズンにカンペールでプロデビューを果たす。
当時カンペールはフランスのアマチュアリーグ(フランスリーグの4部相当)に所属するクラブだったが、マフレズは1年の間に27試合に出場する。ゴールこそ積み重ねることはできなかったが、この頃からドリブルスキルには光るものがあった。

その後はル・アーヴルACの下部チームとトップチームでプレーする。2014年冬の移籍市場でレスター・シティFC(以下、レスター)に移籍するまで、トップチームでは60試合に出場した。

移籍で掴んだチャンスと残留目標のレスター

レスターへの移籍は、フランスで技術を磨いてきたマフレズにとっては、チャンスだった。ドリブルスキルだけでいえは、並大抵のものではなかったからだ。しかし、どうしても華奢に見えてしまうマフレズは、プレミアリーグの当たりの強さに勝てるかどうかが心配された。

だが、現実は違った。
マフレズ加入当初のレスターは、フットボールリーグ・チャンピオンシップ(イングランドリーグ2部相当)に所属していたが、プレミアリーグへの昇格に向けて大躍進を遂げていた。マフレズは波に乗るチームを支え、4月の時点でプレミアリーグへの昇格を確実なものにした。

2014-15シーズン、プレミアリーグで戦うことになったレスターは、プレミアリーグ残留を目標に戦うこととなった。これは昇格組にとっては当たり前のもので、いきなり優勝を狙おうなどとは思わないのが普通だ。ましてやレスターは小さなクラブ。2010年には経営難に陥るほどだったのだ。

しかし、残留にかける熱い想いとは裏腹に、レスターは厳しい戦いを強いられる。シーズン閉幕直前には最下位に沈み、降格は確実視された。スタジアムにやってくるサポーターにも諦め顔が増え始めた。
だが、4月に入ってからのレスターは9試合のうち、7勝、2分、1敗という好成績をおさめ見事残留に成功した。2015-16シーズンもプレミアリーグで戦えることが決まったのだ。

ドラマチック!レスター奇跡の優勝

2015-16シーズンもレスターはプレミアリーグでの戦いに臨んだ。前のシーズンはギリギリでの残留だっただけに、このシーズンも残留が目標であり、あわよくば中位を狙えたらというのが大方の見方だった。

しかし、蓋を開けてみると、残留なんてものは眼中に入らなくなった。なぜならタイトルの獲得を狙える位置につけ続けたからだ。ジェイミー・ヴァーディ選手(以下、敬称略)、岡崎慎司選手ら前線の好調に加え、中盤ではエンゴロ・カンテ選手(以下、敬称略)、ダニー・ドリンクウォーター選手(以下、敬称略)らのプレッシング、ボール配給のセンスも光っていた。

タイトルをかけて上位を争うのは、アーセナルFC(以下、アーセナル)、マンチェスター・シティFCといった強豪だ。レスターと比べればその資金力や市場価値でいうところのクオリティは、それら強豪がはるかに上をいく。
13節の時点で一時はリーグ首位に立つも、この2つの強豪と首位を争う展開が続いた。だが、遂に23節に入って首位に返り咲くと、そのままシーズン終了まで独走。2位アーセナルの勝ち点71に対し、レスターは81という圧倒的な差をつけて見事タイトルを獲得した。

人々はこの優勝を「奇跡の優勝」と呼んだ。プレミアリーグ史上、いや全スポーツ界をもってしても、このような素晴らしい優勝は見たことがない。端的に言って、レスターはダークホースのような存在でもなかった。奇跡としか表現するほかないドラマだ。

マフレズのプレースタイルとレスターの戦術

レスターの優勝の裏にはクラウディオ・ラニエリ監督(以下、敬称略)の無理をしない戦術と、選手の献身性、そしてマフレズの素晴らしいプレースタイルが関係している。

くどいようだが、レスターは残留を目標としていたクラブだ。残留のためには勝ち点を積み上げることが必要となるが、必ずしも勝利にこだわる必要はない。プレミアリーグでは37~40点当たりの勝ち点が、残留できるクラブ(ここでは17位)の平均勝ち点数となっているため、この勝ち点さえ稼げれば、引き分けの試合が多くても良いのだ。

このことがわかっていたレスターとラニエリは、守備に関して無理をしなかった。無理に足でさばいていなすのではなく、危ないと感じればボールを大きく蹴ってスローインに逃げるという戦い方を多用した。明らかに自分達よりも技術があるであろう、強豪クラブに所属する選手に対してはこの守り方が無難だ。

しかし、攻撃に関しては貪欲だった。絶好調のヴァーディらにすぐにボールを託し、ゴール前へ一気に迫った。この時にはマフレズが繋ぎ役となることも多く、彼が持ち前のドリブルスキルで相手を一瞬でかわし、サイドを独走。やはりヴァーディらに確実にボールを託し、ゴールをかっさらうような攻撃を連続させた。

攻撃が失敗してもやはり、無難に大きなクロスで相手のリズムを切ったり、中盤のカンテやドリンクウォーターがフィルターとなった。
「堅守速攻」、この4文字がレスターにはぴったりだ。

伝説の終わり、マフレズに残されたタイムリミット

奇跡の優勝を成し遂げ伝説となったレスターだったが、2016-17シーズンは成績を伸ばすことができず、ラニエリは解任された。チームからはカンテという最重要選手が抜けたことで、ゲームを作ることができず、攻撃陣も輝きを失った。

マフレズやヴァーディが、他のクラブに引き抜かれなかったことは不幸中の幸いだったが、やはりどの選手にも移籍の噂は付きまとった。
マフレズもご多聞に漏れず、チェルシーFC(以下、敬称略)やアーセナル、バルセロナFC、ASローマといった強豪からの関心が寄せられた。2017-18シーズン夏移籍市場の閉幕直前には、ドリンクウォーターが駆け込みでチェルシーへ。レスター時代の同僚、カンテと再会することになる。このままマフレズにもサプライズがあるかに見えたが、とうとうどこにも移籍することはなかった。

この市場は多額の移籍金が動くなか、選手の練習ボイコット騒動も相次いで起こった。そんな状況下においても、マフレズは移籍を志願する姿勢こそ見せたものの、黙々と練習に参加。リーグ開幕後もコンスタントにプレーしている。

だが、伝説はもう終わった。レスター奇跡の優勝で名をはせたマフレズも、その名声が一番光り輝く時間は限られている。というよりも、2016-17シーズンの夏がピークだっただろう。

リーグタイトルを当たり前のように狙えるクラブに移籍するのであれば、残されたタイムリミットはあと少ししかない。今後、マフレズはどんな決断を下すのだろうか。