一堂に会するスター選手と目標のベクトル
FCバルセロナ(以下、バルセロナ)と、レアル・マドリードCF(以下、マドリード)には、いつの時代もスター選手が存在した。ピッチ内外で影響力を持つ重要な選手のことだ。しかも、その軸というべき選手は1人だけではない。必ず複数人存在する。
2017-18シーズン時点のバルセロナでは、リオネル・メッシ選手(以下、敬称略)、アンドレス・イニエスタ選手、セルヒオ・ブスケツ選手、ジェラール・ピケ選手らがスターだ。
対するマドリードにはクリスティアーノ・ロナウド選手(以下、敬称略)、イスコ選手、ルカ・モドリッチ選手、トニ・クロース選手らがスターだろう。どの選手もワールドクラスの技術を持っている。ここに疑いの余地はない。
彼らはピッチの内では決定的な場面を演出し、ピッチの外ではチームメイトの模範となる。そうしてクラブとしての結束力を強くし、数多のタイトルを獲得してきた。
彼らのようスター選手が複数人いることで衝突がないわけではないが、「勝つこと」がこそがこの2クラブと選手間の至上命題であり、共通認識だ。目標のベクトルが同じ集団は強い。
長年のライバル意識がお互いを強くする
サッカー界に存在するライバル意識のなかでも、バルセロナとマドリードのライバル意識は他とは一線を画している。
このライバル意識はスペインとカタルーニャの歴史に起因する。ここで詳しく述べることは避けるが、カタルーニャの歴史に関心がある方は、一度調べていただきたい。
スポーツに政治的な事象は本来持ち込むべきではないのかもしれないが、バルセロナとマドリードのライバル意識においては、このカタルーニャの歴史が多く関わっている。
故に選手間はもちろんのこと、サポーター間も互いに厳しい目を向けている。どちらを応援するかはアイデンティティの1つでもあり、勝つか負けるかで人々の気持ちに様々な思いが去来する。
当然、この2クラブがぶつかる試合である「クラシコ」が熱くならないわけがない。両クラブが展開する試合のレベルは非常に高く、端的に言ってどちらも強い。選手たちは他のクラブと試合を行う時以上の力を発揮し、数々のドラマを生む。
下部組織からのたたき上げとクラブの戦術
バルセロナとマドリードには、それぞれレベルの高い下部組織、「カンテラ」が存在する。なお、カンテラはスペインにおいての下部組織を指し、イタリアなどでは「プリマヴェーラ」と呼ぶ。
バルセロナとマドリードは、このカンテラの存在を重要視しており、国内外から優秀な若手を集めている。しかもこのカンテラは年齢別あるいはレベル別にいくつものカテゴリーに分けられ、若手は熾烈な競争のなかで育っていく。
カテゴリーのステップアップとともに選手たちに植え付けられるのは、クラブの哲学とアイデンティティだ。どんなプレーが必要なのか、どう振る舞うべきなのか、そのすべてをたたき込まれる。
そしてトップチームに合流する時には、他のクラブの同年代よりも抜きん出た才能を持つ選手が誕生する。長年をかけて磨き上げた技術はどのクラブも欲しがるほどだ。
ただ、バルセロナもマドリードもカンテラ出身の選手でスタメンを構成する割合が減っている。これは2クラブが莫大な資金力を有していることと、常に勝ちが求められることが原因だ。資金力があれば、カンテラ出身の選手以上に即戦力となる選手を、簡単に他クラブから買えてしまう。
それでもカンテラ出身選手は簡単にこれからも輩出されていく。限られた時間でも結果を残すことができれば、トップチームに定着し選手層を厚くしてくれる。そしてその選手層の厚みが強さに繋がるのだ。
優れたブランド力と栄光のサイクル
バルセロナもマドリードも、クラブの優れたブランド力と知名度が強さを底上げしている。サッカーに詳しくない方でも名前だけは聞いたことがある場合も多いはずだ。
こうしたブランド力は、これまで述べてきたビッグスターの有無とタイトルを獲得した歴史が育ててきたものだ。「メッシがいるから彼のユニフォームを買う」、「ロナウドを観るためにスタジアムに行く」、こうした購買行動はブランド力に支えられており、クラブの懐を潤していく。
そうして得た資金力で次のビッグスターを生み、タイトルを獲得しすることでクラブの歴史を鮮やかに飾っていく。
サポーターは世界中いて、ボーダーレスな現代社会においては、クラブに対して様々なアクションを自由に起こせるようになった。グッズを買うにしても試合を観るにしても、インターネットを通せば、時間と場所に縛られることは無い。便利な時代だ。
繰り返される眩し過ぎる栄光のサイクルが彼らにはある。このサイクルが、これからもクラブを大きく強くしていく。
世界中の選手の憧れ、NOの返事はあり得ない
ここまで読んでくださった方であれば、バルセロナとマドリードが魅力的なクラブであることをご理解いただけたはずだ。その感覚は選手たちにも同じようにある。
バルセロナとマドリードは国内だけでなく、欧州のタイトルを数多く獲得してきた。特にCLでは、バルセロナとマドリードに代表されるスペイン勢の活躍が素晴らしい。
2016-17シーズンまでには、バルセロナの5回とマドリードの12回で計17回優勝。その次に多いのがイタリア勢とイングランド勢の12回、そしてドイツ勢の7回だ。しかも2010年代に入ってからの7大会では、5回スペイン勢が優勝している。どれもバルセロナとマドリードによる優勝だ。
このようにデータから見てもバルセロナとマドリードの強さは抜きん出ている。欧州の強豪が一堂に会して戦うCLでのプレーとタイトル獲得、もといこの2クラブでのプレーは多くの選手の憧れだ。どちらかから誘いがあれば「NO」と返事をするのは極めて難しい。
たとえ控えに甘んじようとも移籍しようとする選手は大勢いる。所属しているだけでとても魅力的なステータスとなり、高いモチベーションになるからだ。
声がかかる選手たちは、到底控えに甘んじるようなものではないのだが、バルセロナとマドリードでは話は別だ。前述してきたようにスター選手ばかりのスタメンに名を連ねるのは難しい。クラブ側は宝の持ち腐れと揶揄されようとも、彼らのような素晴らしい選手を何食わぬ顔でベンチに置く。
優秀な控え選手の我慢は、選手層の厚みとなり、限られた時間で爆発する。そうしてまたこの2クラブは勝利を積み上げていくのだ。
バルセロナとマドリード、この2クラブの強さには様々な源がある。彼らの強さは今後も継続されるだろう。この世に永遠など存在しないのだろうが、この2クラブであればその永遠もあり得るのではないだろうか。