圧倒的な強さで優勝したチェルシー
2016-17シーズン、プレミアリーグを制覇したのは、チェルシーFC(以下、チェルシー)だった。2シーズン振りのタイトル獲得だ。
最終的な勝ち点は93、勝利数は30、引き分けは3、敗れたのはたったの5で、随所で勝負強さを見せつけた。勝利数30はクラブの新記録となっている。
前の2015-16シーズンは10位と沈んでいただけに、ここまでの巻き返しには誰もが驚愕した。他の名門クラブ同様に、一度転落したまま長い間上位には返り咲かないのではとも思われていた。
モウリーニョ監督(以下、敬称略)の下で疲弊し切っていた彼らの姿はもうそこにはない。紛れもない王者としての威厳がシーズンを通して漂っていた。この優勝は不思議なことではない。
名将戦国時代!コンテの導入した3バック
このシーズンで新監督となったのがアントニオ・コンテ監督(以下、敬称略)だ。彼はユヴェントスFC(以下、ユヴェントス)、イタリア代表の監督を経て、チェルシーに招かれた。時を同じくしてマンチェスター・シティFC(以下、シティ)にはグアルディオラ監督(以下、敬称略)が、マンチェスター・ユナイテッドFC(以下、ユナイテッド)にはモウリーニョが、リヴァプールFC(以下、リヴァプール)にはクロップ監督(以下、敬称略)がやってきていた。
プレミアリーグには他にも多くの名将が揃っており、監督たちの戦国時代の様相を呈していた。
どの監督も機知に富み、プレミアの強豪クラブを優勝に導く素質を十分に持っている。ここから頭一つ抜け出すのは非常に難しいことだった。
チェルシー就任当初のコンテは、前シーズンのチェルシーのシステムである4-2-3-1を踏襲した。ただ、このシステムは上手く機能せず、9月末時点でチェルシーは7位。あっという間にコンテの解任説が取り沙汰されるようになった。
ただ、コンテのチャレンジはここからだった。彼は解任説を受け吹っ切れたのか、自身がユヴェントスやイタリア代表監督時代に愛用していた3バックシステムを採用。自分のサッカーを始めた。
3-4-3の陣形は攻撃時には、両翼(WB)が駆け上がり3-2-5と言っても良いような形をとる。そして守備時にはこの両翼が深く自陣まで下がり、5-2-3のような形をとり素晴らしい守りを披露した。
彼の3バックシステムが功を奏したチェルシーは、第7節から第20節まで13連勝を挙げ、一気に優勝候補に躍り出た。前述のシティやユナイテッド、リヴァプールらの成績が伸び悩むなか、彼のチェルシーだけが自身のサッカーを軌道に乗せ勝利を積み上げていった。
モーゼスとアロンソ!新顔の両翼がフィットする
コンテの3バックを語る上では、両翼にいるモーゼス選手(以下、敬称略)とマルコス・アロンソ選手(以下、敬称略)の活躍が欠かせない。
彼らは攻撃時と守備時の自身の役割を正確に理解し、常に自分の仕事をし続けた。WBというポジションは、常に走り続けなくてはならないハードなポジションだが、シーズンを通して疲れを見せないタフさには舌を巻くばかりだ。
モーゼスに至っては、これまでチェルシーの主力選手ではなかった。加入以来あちこちのクラブをたらい回しにされるようにレンタルに出され、到底この先もチェルシーの主力になろうとは誰もが思っていなかっただろう。ポジションの被るサイドアタッカーにはエデン・アザール選手(以下、敬称略)やペドロ・ロドリゲス選手、ウィリアン選手らがいる。残念ながら彼らのポジションは奪えそうにない。
だが、コンテは彼にWBという新たな舞台を用意し、重用し続けた。モーゼスに寄せられた期待は、勝利という形で現れた。前述のサイドアタッカーたちの後ろから突如として現れるモーゼスは、相手の守備陣を戦々恐々とさせた。
新加入のアロンソは、エースであるアザールのことを常に気にかけ続けた。突破力が売りのアザールはどんな局面でも前へ前へと進んでいくため、後ろの守りが疎かになる傾向にある。このスペースを埋めるのが、アロンソの存在意義だった。
しかし彼はそれだけではなく、アザールとのパス交換により突破をサポートするだけでなく、得点力までも発揮し続けた。特に第32節のボーンマス戦で見せた直接FKでのゴールは圧巻だった。
漂っていたモウリーニョの影は消え去った
チェルシーには、いくつもの栄光をもたらしたモウリーニョの影が常につきまとっていた。
2004-05シーズン、彼の最初でのチェルシーの指揮は、連覇を飾るも解任という形で終わった。しかし、それでも帰って来た2013-14シーズンからの2回目のチェルシーで、彼は再び結果を出した。
ただ、選手に厳しい彼は最後は選手たちを疲労させ、またもや解任されてしまった。それでもチェルシーのサポーターたちは、モウリーニョだからこそ成し遂げてきた栄光を忘れはしない。
チェルシーにおける成功の歴史は、そのほとんどが2000年代に入ってからのものだ。強豪と呼ばれるようになったのは特に最近のこと。その歴史にはモウリーニョが大きく絡んでいた。彼無くして今のチェルシーはなかったと、サポーターが考えるのは無理もない。
ただ、このコンテがもたらした新たな栄光は、モウリーニョの影を打ち消すほどのインパクトがあった。サポーターたちの間には、「コンテなら新しい歴史を築けるかもしれない」という希望の明かりが灯った。
モウリーニョが指揮をとるユナイテッドとの試合では、わずかな罪悪感を伴いながら遠慮がちに彼への野次を飛ばしていた。だが、コンテが素晴らしい成績を出し始めてからは、その罪悪感はどこかへ吹き飛んでしまう。自信を持って野次を飛ばし、笑顔でコンテにエールを送る人々の姿が増えた。
全権を託されるであろうコンテとの未来
2017-18シーズンのチェルシーは勝負の年となるだろう。コンテはチェルシーで輝かしいスタートを切ったが、2016-17シーズンはCLも戦っていかなくてはならない。
無理の利いていた選手たちも、さすがにCLも戦わなくてはならないとなれば、ローテーションを上手く組んでシーズンを戦う必要がある。
当然、コンテの御目に適う新たな選手を獲得し、フィットさせる必要があるだろう。
タイトルをもたらした分、コンテに与えられる権限は大きくなることが予想され、彼による彼のための補強と指導が進んでいくはずだ。
イタリアに残してきた家族を想うため、一時は辞任説も取り沙汰されていたが、シーズンの終盤には家族をロンドンに迎え入れる意思を表明した。この決断にサポーターは大いに安堵したことだろう。
後顧の憂いなく戦えるコンテは、チェルシーでどんな歴史を積み上げていくのだろうか。グアルディオラ、モウリーニョ、クロップら他の名将たちも黙ってはいないだろう。まだまだ勝負は面白くなるはずだ。
新しい時代を迎えつつあるプレミアリーグ。彼らの大いなる挑戦に期待が集まる。