カンテと2人の教員との繋がり
エンゴロ・カンテ選手(以下、敬称略)は、チェルシーFC(以下、チェルシー)に所属する稀代のMFだ。
2015-16シーズン、レスター・シティFC(以下、レスター)優勝の立役者でもあり、翌2016-17シーズンのチェルシー優勝の立役者でもある。
彼はプレミアリーグにやってきてから、2つのクラブでプレーし、その両方でタイトルを獲得したのである。彼がいなくては、両クラブとも栄光を勝ち取ることができなかったと言っても良い。
そんなカンテをプレミアリーグに連れてきたのは、レスターのスカウト兼コーチとして6年間在籍していた、スティーブ・ウォルシュ氏の尽力によるものだ。
レスターでのウォルシュ氏の仕事はすでに終えており、2016-17シーズンからエヴァートンFC(以下、エヴァートン)に籍を移している。エヴァートンのホームタウンであるリヴァプールは、ウォルシュ氏が最初に教員研修を行った、リヴァプール・ホープ大学があり、彼にとって馴染みのある街だ。
なお、カンテを10歳の頃にサッカーの世界に引き込んだのも教員をする人物だった。カンテのキャリアは2人の教員によって導かれてきたものなのだ。
どこでもカンテ!1人で2人以上の活躍とレスター優勝の要因
レスターに移ってからのカンテは、常に獅子奮迅の活躍を続けた。相手選手がボールを持った瞬間、すぐにカンテがマークにつきボールを奪っていった。先ほどまで前線に居たはずの彼が、気付けば自陣に戻り守備に参加しているのだ。その動きはまさに神出鬼没だ。
プレミアリーグにおいては、身長169cmという彼は小柄な部類に入る。ただ、カンテはフィジカルに優れる選手からも、タイミングと正確さに優れたスライディングとインターセプトによってボールを奪うことができた。プレミアリーグに初挑戦する選手が一番初めにぶつかる体格の壁をあっさりと超えてみせた。
また攻撃参加においても秀逸で、ボールを持てば容易に奪われることなく前線に素早く駆け上がり、落ち着いて味方にボールを捌くことができる。攻守で活躍できる彼は1人で2人分の働きができていた。
レスターの優勝の要因には、ジェイミー・ヴァーディー選手やリヤド・マフレズ選手ら前線の選手の活躍も大きいが、それ以上にカンテが黙々とこなしていたこの裏方の仕事も極めて重要だったのである。
自分達が残留争いをして当たり前だと思っていたレスターは、ボールを奪われるとすぐにネガティブトランジション(攻→守への切り替え)を行い、カンテ選手らが落ち着いてボールを捌いていった。安易にズルズルとボールを保持しようとするのではなく、危ないと感じればすぐにロングボールでクリアしていたのだ。
チェルシーでも活きたカンテの動き
2016-17シーズンのチェルシーは昨シーズンの不振を受けて、名将アントニオ・コンテ監督(以下、敬称略)を招聘。シーズン開始直後は危ない一面もあったものの、3バックシステム採用後は圧倒的な強さを発揮してリーグを制した。
このシーズンでは前線のエデン・アザール選手(以下、敬称略)が不調から脱したのが大きな原因である。アザールは90分を通して左サイドに張り続け、タイミング次第で中央にもシフトした動きをする。この時、アザールはあまり守備をしないが、その負担を肩代わりしているのが、マルコス・アロンソ選手(以下、敬称略)とカンテである。
アロンソはアザールと同じ左サイドでプレーするWBの選手で、アザールとパス交換を繰り返しながら左サイドを駆け上がっていく。ただ、アザールが攻撃の色を強めた瞬間には、サッと下がり空いたスペースを素早くカバーすることができる。
また、アザールが中央にシフトした時には、カンテと同じ中盤でプレーするネマニャ・マティッチ選手(以下、敬称略)がアザールを追い抜く形で攻撃参加する。当然、マティッチが上がれば、中盤にスペースが空くがここをカバーするのがカンテだ。持ち前の運動量を武器に、タッグを組むマティッチと見事な互換性を発揮する。
コンテ監督就任後のチェルシーは攻守で無駄のないチームとなった。カンテ自身も、レスター時代より互換性の高いチームメイトが増え、守備だけでなく前線への攻撃参加も増えている。
偉大な先輩!クロード・マケレレとの比較
カンテにはクロード・マケレレ氏(以下、敬称略)という比較対象が存在する。マケレレはカンテと同じフランス代表や、レアル・マドリードCF(以下、マドリード)とチェルシーで、プレー経験がある。
マドリードに所属した2000-03シーズンは、同クラブが「銀河系軍団」とも呼ばれた時代で、多くの攻撃的選手らで構成されていた。その状況下では、守備へのおぼつかなさが不安視されるところであったが、ここにフィットしたのがマケレレだった。カンテと同じくどこでも顔を出し、巧みにボールを相手選手からさらっていくことができた。身長は170cmでカンテと似通う点が多い。
2003-04シーズンにはチェルシーに移籍し、新オーナ―就任直後のクラブを牽引。今日のビッグクラブとしての位置付けとなるまでに成長させた立役者となった。
カンテが去った後のレスターは一気にクオリティが落ち低迷したが、マケレレが去った後のマドリードも同じく調子を落とした。
これらのエピソードも、カンテとマケレレが比較される要因の一つとなっている。どちらもチェルシーに至りさらなる名声を得ていることからも、両者の運命は驚くほど重なっているようだ。
カンテの快進撃は今後も続くのか?
2016-17シーズンのカンテは、昨シーズンに引き続きプレミアリーグの年間ベストイレブンに選出。さらにはPFA年間最優秀賞も受賞した。カンテの活躍は今後も続くように思える。
ただ、プレミアリーグにやってきてからの彼は、あまりにも酷使されている。もちろん、試合に出場すれば疲れなども微塵に感じさせないような働きをするが、いつ負傷離脱をしてもおかしくない状況にある。彼は元々負傷の少ない選手ではあるが、今いるのはプレミアだ。
新シーズンもタイトル争いを狙うチェルシーには、多くのクラブから厳しい視線が寄せられる。当然、カンテへも負傷の危険をはらんだ執拗かつ、力強いプレッシングがあってもおかしくない。
チェルシーはカンテの起用法を考えるだけでなく、彼が負傷離脱した場合の穴埋めをどうするかも考えなくてはならないだろう。幸いなことに2016-17シーズンはセスク・ファブレガス選手がその穴にはまったが、彼は控えに甘んじるような選手ではなく、今後の去就は不透明だ。
カンテはこれからも、優勝の立役者でいられるだろうか。