スペインの中小クラブにすぎないビジャレアル
上下黄色のユニフォームを身にまとって戦うビジャレアルCF。2015-16シーズンは4位、そして2016-17シーズンを5位で終え、来シーズンのヨーロッパリーグ出場権を獲得したこのクラブの経営規模は決して大きいものではない。
スペイン、リーガ・エスパニョーラでは、レアル・マドリードとバルセロナの予算規模はずば抜けて高い為、この2クラブとその他のクラブを比較する事にほとんど意味は無いが、例えばレアル・マドリードとバルセロナの年間予算が約700億円と言われているのに対してビジャレアルは約65億円。これは浦和レッズと同等で、中国のクラブよりもずっと少ない。
しかし、この規模のチームが素晴らしいサッカーを見せており、2015-16シーズンにはヨーロッパリーグでベスト4に進出している。
レアル・マドリードやバルセロナなど世界規模のビッグクラブではなく、スペインの中小クラブにすぎないビジャレアルこそ、スペインサッカーのクオリティの高さをより感じさせるクラブだと言える。
ビジャレアルを強固なチームにしたマルセリーノ・ガルシア・トラル氏
ビジャレアルが創設されたのは1923年と100年近い歴史を持っているが、リーガ・エスパニョーラのプリメーラ、1部リーグに定着したのは2000年に入ってからと比較的新しい。
それまでは地域リーグからスタートし、3部や2部を争うチームの1つでしかなく、バレンシア州の小さな町ビジャレアルにあるクラブだった。
そこから徐々にディビジョンを挙げたビジャレアルは、後にレアル・マドリードやマンチェスター・シティの監督となり、現在は中国の河北華夏で監督を務めるマヌエル・ペレグリーニ氏と、ファン・ロマン・リケルメ選手、ディエゴ・フォルラン選手らでブレイクするも、その後多くの引き抜きにあい、2011-12シーズンは低迷。終盤には現在東京ヴェルディの監督を務めるミゲル・アンヘル・ロティーナ氏を招聘するも2部降格となる。
2部で戦った2012-13シーズンは1年での1部復帰をめざすものの、徐々に順位を落とすこととなりシーズン途中で監督を解任。そこで招聘したのがマルセリーノ・ガルシア・トラル氏。就任後の後半戦はわずか2敗という成績を残し1部昇格を達成する。
この時マルセリーノ・ガルシア・トラル氏が持ち込んだのは4-4-2システムを使用した堅守のチーム。しかしこのチームは堅守というだけではなく、かつての伝統であったパスワークも兼ね備えるという戦術的にかなり鍛え上げられた近代的なチームだった。
功労者マルセリーノ・ガルシア・トラル氏が電撃解任
マルセリーノ・ガルシア・トラル氏に率いられ1部復帰を果たしたビジャレアルは、安定した戦いを披露し、1部復帰してからはリーグでも9番手10番手の予算規模でありながらその後の3シーズンで6位、6位、4位と安定して上位に食い込む。
しかし、迎えた2016-17シーズン開幕直前の2016年8月11日、チームをここまで築き上げたマルセリーノ・ガルシア・トラル氏を電撃的に解任した。その理由に対して多く語られる事は無かったが、その前シーズンに4位となりチャンピオンズリーグに予備選から出場できるようになったチームに対して監督は積極的な補強を求めたものの、フロントはそれを了承しなかったという、監督とフロントとの意見の相違によるものと言われている。
そして急遽招聘されたのがフラン・エスクリバ監督。名将キケ・サンチェス・フローレスの右腕と言われた人物であるが、就任直後のチャンピオンズリーグ予備選で敗退してしまう。前年同様ヨーロッパリーグに参戦することとなり、シーズン前の期待が大きかっただけにサポーターは失意に包まれることとなる。
この時チャンピオンズリーグの予備選を戦った相手は、フランス・リーグアンを制しチャンピオンズリーグでもベスト4迄進出したASモナコ。
ホーム・アウェイ共に敗れたものの、かなり拮抗した試合だったので、今思えばこの時期からチームとしてのクオリティは維持出来ていた事がわかる。
2016-17シーズンはフラン・エスクリバ監督の下で5位を達成
チームを築き上げたマルセリーノ・ガルシア・トラル氏が解任となり、また久々のチャンピオンズリーグも予備選で敗退した事でフラン・エスクリバ監督への風当たりが強い形で始まった2016-17シーズンだったが、フタをあけてみれば2015-16シーズン以上の勝ち点を獲得し5位でフニッシュした。しかも、2015-16シーズンより得点が増え、失点が減っており、堅守とパスワークを両立したビジャレアルは健在であった。
前線ではセドリック・バカンブ選手やロベルト・ソリアーノ選手が2ケタ得点を記録。またイタリアのサッスオーロから獲得したニコラ・サンソーネ選手も素晴らしいプレーを見せた。ストロングポイントであったブルーノ・ソリアーノ選手、ロベルト・ソリアーノ選手、ジョナタン・ドス・サントス選手、マヌ・トリゲロス選手、サムエル・カスティジェホ選手らの中盤は、安定したプレーをみせた。
Jリーグのサポーターにこそ見てほしいチーム
乾貴士選手が日本人選手として初めて、リーガ・エスパニョーラで2シーズンに渡って主力としてプレーした事で今後は少し変わってくる可能性もあるが、リーガ・エスパニョーラはなぜか日本人選手が活躍できない、鬼門だと言われることがあるが、その理由ははっきりとしている。
実際のところ、華麗な個人技やテクニックが重視されているというイメージがあるリーガ・エスパニョーラは、日本人選手が多くプレーするドイツ以上に戦術的にかなり細かい部分まで作り込まれていて、そこでプレーするにはその能力が求められるからだ。そしてその戦術的能力は、日本人選手にとってあまり得意では無い分野である。
その中でも、最も高いレベルで戦術的に作り込まれているクラブの1つがビジャレアルである。
ビジャレアルの4-4-2は、かなり強固で堅守のチームだといえる。かといって、守備一辺倒でカウンターだけを狙うチームという訳ではない。守備のバランスを考えながら、効果的なポジショニングを取る事で華麗なパスサッカーも両立している。
2017年になってスペイン人監督が多く来日し、J2はちょっとしたブームが起こっている。そんな今こそレアル・マドリードやバルセロナ、アトレティコ・マドリードのようなメガクラブではなく、世界的に有名な選手がそれほどいるわけでもない、スペインの中堅クラブが、実際にどのようなサッカーをしているのかを見てほしい。現在のビジャレアルはそんなクラブである。