山間の小さな街にあるクラブ
Jリーグファンも気軽に観戦できるようになったリーガ・エスパニョーラで現在注目をあつめているのが乾選手の所属するSDエイバル。
本拠地はバスク州のエイバルという山に囲まれた盆地にある小さな街だ。小さな街と言ってもおそらく皆さんが想像しているよりもさらに小さな街で、人口はわずか2万7千人ほど。日本では栃木県那須烏山市や奈良県生駒郡斑鳩町が同じぐらいの人口の街だが、どちらも近隣の方でないと名前と場所が一致しないのではないかというほどの小さな街だ。
こんな小さな街のクラブだから、スタジアムもかなり小じんまりしたものでわずか6200席ほどしかない。
そのエイバルがこれまで戦っていたのは2部や3部。クラブの規模から考えるとそれでも十分な強さを持っていると言えるが、小さな田舎町なので夜遊びの心配もなく、また若手選手も経験を積めるということで、大きなクラブの若手選手がプロになりたての時の修行先として活用されており、シャビ・アロンソ選手やダビド・シルバ選手もかつてエイバルでプレーしていた。
奇跡と言われた2014年の1部昇格
エイバルに転機が訪れたのは2012年、かつてエイバルにも所属していた事のある ガイスカ・ガリターノ氏が監督に就任したことで、大きくチームが動き出す。
就任当初3部リーグで戦っていたエイバルは、堅守をベースに2位でシーズンを終え2部昇格。そしてその翌シーズンにはなんと2部で優勝を果たしクラブ史上初の1部昇格を決める。
この大躍進はクラブ幹部の想像を超えるもので、予算が無く優勝パレードで使用されたのは何とトラック。荷台に選手を載せてパレードが行われた。使用した紙吹雪はこのシーズンに1部で最後まで優勝争いを繰り広げながらも、惜しくも優勝を逃したFCバルセロナから譲って貰ったものを使用するという驚きの状態だった。さらに、翌シーズンに1部で戦う為には資本金の増加が必要だったため、クラブは急いで新規株式を発行。かつてエイバルに所属したシャビ・アロンソ選手らがPR活動を手助けすることで、何とか資本金の問題をクリアするというドタバタ劇だった。
初の1部となったシーズンは降格圏の18位でシーズンを終えるが、13位だったエルチェCFが経営問題で2部降格。その為入れ替わりで1部残留となり、2年目の昨シーズンに乾貴士選手が加入。14位で無事に1部残留を達成する。
ホセ・ルイス・メンディリバル監督によるハイプレスサッカー
昨シーズンからエイバルの監督を務めているのは、ホセ・ルイス・メンディリバル氏。
前監督のガリターノ氏が選手時代にもエイバルの監督を務めていた人物で、その後アスレチック・ビルバオ、レアル・バリャドリード、CAオサスナの監督も務めた、地元バスク州出身の人物だ。
メンディリバル監督がエイバルで作り上げたのは、高い位置からの強い守備とその勢いのまま両サイドから攻撃する攻撃的サッカー。スペインのお祭りで、大きな石を持ち上げたり、大きな丸太をノコギリで切り落とすといった映像を見た事がある方もおられるかもしれないが、あのお祭りはバスク地方のもの。そのお祭りからも垣間見える、力強くて実直だと言われるバスク人の気質にあった、激しく力強い、そして攻撃的なサッカーを見せる。
そのサッカースタイルを象徴するのが、先制点の多さ。キックオフ直後からガンガン飛ばして攻守において前へ前へと迫るので、開始20分以内に先制点を決め、その勢いのまま押し切るというのが勝ちパターンだ。
しかし、その特徴は、終盤まで拮抗した試合になるとチームがガス欠を起こしてしまうことにもつながり、終盤はバタバタになってしまう事もある。
エイバルの選手たちを紹介(アタッカー編)
日本人にとってチームで最も有名なのはもちろん乾貴士選手。抜群のテクニックを発揮する左サイドアタッカーとしてチームの信頼を獲得している中心選手の1人だ。また、乾選手の人懐っこいキャラクターと、他に類を見ないほどのサッカーに対する情熱はクラブ内部だけでなく、街の人にも愛される存在となっている。
右サイドアタッカーとしてプレーしているのが、ペドロ・レオン選手。かつてレアル・マドリードにも所属していたクラブ史上最高のタレントで、右サイドからの攻撃はエイバルの大きな武器となっている。右足の精度も高く素晴らしいキッカーでもある。
前線に入るのは、セルジ・エンリク選手とキケ・ガルシア選手。セルジ・エンリク選手は昨シーズンからプレーするセンターフォワードで、とにかく強く身体をはってボールキープしてくれ、クロスボールから得点を量産できる選手だ。
キケ・ガルシア選手はストライカータイプ。シーズン後半に入り得点を量産している。
またもう1人キケ・ガルシア選手に代わって入ることがあるのが、中盤の攻撃的選手であるアドリアン・ゴンサレス選手。攻守において気の利くプレーができる選手で、父親はかつてレアル・マドリードで活躍したミチェル氏だ。
また乾選手とポジションを争う存在なのがべべ選手。10代でマンチェスター・ユナイテッドに青田買いされた経験を持つパワフルなドリブラーだ。
エイバルの選手たちを紹介(ミッドフィールダー編)
セントラルミッドフィールダーを務めるのは、キャプテンでもあるダニ・ガルシア選手とアルゼンチン出身のゴンサロ・エスカランテ選手。
2012年からエイバルでプレーするダニ・ガルシア選手は、攻守において頼れるリーダー的存在として中盤をコントロール。目の覚めるようなロングシュートも武器の1つだ。
エスカランテ選手は豊富な運動量とハードなボール奪取が得意な潰し屋タイプの選手。しかしそれだけでなく、ボカ・ジュニアーズの下部組織出身だけあって足元のテクニックもある。
この2人に続くのがフラン・リコ選手とクリスティアン・リベラ選手。フラン・リコ選手はグラナダからレンタルで加入している、中盤ならどこでもできる選手で、攻撃的なポジションを務める事もある。またリベラ選手は19歳の新星で、年代別代表にも選出されている。
エイバルの選手たちを紹介(ディフェンダー編)
サイドバックを務めるのは右がアンデル・カパ選手、左がアントニオ・ルナ選手。
カパ選手はサイドアタッカーからコンバートされた選手で、積極的なオーバーラップが魅力だ。一方、ルナ選手はセビージャの下部組織出身でイタリアやイングランドでもプレーした経験豊富な選手。両者ともにクロスの精度も高く、ペドロ・レオン選手、乾選手とのコンビネーションも抜群だ。
センターバックは、イヴァン・ラミス選手とルジューヌ選手。2人とも若くしてイングランドのクラブに買い取られた経験があり、ルジューヌ選手は現在スペインでもメキメキ評価を高めている注目の選手だ。
ゴールキーパーはヨエル・ロドリゲス選手。シーズン序盤は昨シーズンの守護神アシエル・リエスゴ選手が抜群の反応を武器にポジションを掴んでいたが、怪我で離脱後は安定感のあるヨエル選手がポジションを奪う形になっている。
今シーズンのエイバルはヨーロッパの舞台が現実的なものとなる勝ち点を積み重ねており絶好調。現地でも注目を集めており、バルセロナやレアル・マドリードとはまた異なるスペインサッカーの一面を感じられる魅力的なチームだ。