映画プロデューサーのラウレンティスとナポリ
SSCナポリ(以下、ナポリ)はセリエAで活躍するクラブです。クラブ収益はセリエAで4番目に多く、水色に「N」の文字のロゴがお馴染みです。
1926年に創設されて以降、数回クラブの名称を変更しています。近年では2004年の財政破綻がきっかけとなり、「ナポリサッカー」となり、その後に再びSSCナポリに名前を戻しています。
財政破綻時にクラブを買い取ったのは、映画プロデューサーのアウレリオ・デ・ラウレンティス氏です。ラウレンティス氏の一族は映画制作を務める家柄で、『ハンニバル』などを手がけたディノ・デ・ラウレンティス氏は叔父にあたります。
会長のラウレンティス氏は豪放な性格で知られ、選手の獲得や移籍に関して少々厳しい発言をしています。ただ、自身が育った地元のナポリというクラブをこよなく愛することでも知られています。Twitterアカウントも開設されており、ナポリに関することや様々な要人との会合の様子などをアップしています。
ナポリはラウレンティス氏に買収される前には、セリエBで10位前後と低迷していましたが、徐々に地力をつけセリエAに昇格。そこからはユヴェントスFC(以下、ユヴェントス)やASローマ(以下、ローマ)らに次いでセリエAの強豪に仲間入りします。
元祖神の子!ディエゴ・マラドーナのクラブ
リオネル・メッシ選手が登場するまでは、ディエゴ・マラドーナ氏が「神の子」として有名でした。小柄ながら筋肉質な身体から繰り出されるドリブルは簡単に倒されることが無く、ゴールセンスも抜群でした。利き足は左利きでこの脚一本で神がかり的なプレーを連発していきました。特に1986年のW杯でみせた60m独走の「5人抜きドリブル」はとても有名です。
そんなマラドーナ氏が最も長く在籍したのがナポリでした。在籍した1984-1991シーズンの間には188試合に出場し、81ゴールを挙げました。放漫な立ち振る舞いから地元メディアに叩かれることもありましたが、常に結果を出し続けたことでサポーターからは「ナポリの王」として親しまれました。彼の加入以降、クラブのシーズンチケットやグッズもよく売れるようになり、クラブの財政が潤ったことも事実です。ナポリのブランド力が高まったのも、このマラドーナ氏の在籍があったからこそでしょう。
2013-14シーズン、マドリーからの来訪者
2013-14シーズン夏の移籍市場では、レアル・マドリードCF(以下、マドリー)から、ゴンサロ・イグアイン選手、ホセ・カジェホン選手、ラウール・アルビオル選手らを獲得します。マドリー以外からは、ホセ・マヌエル・レイナ選手、ドリース・メルテンス選手らなども獲得しています。
資金は前シーズンまで所属していた、エディンソン・カバーニ選手の売却益約72億円から捻出したようです。
これらの選手らは皆ナポリの主力として活躍するようになります。特にゴンサロ・イグアイン選手は2015-16シーズンにリーグ36ゴールを挙げる大活躍をみせました。
イグアイン選手らマドリーからやってきた3選手は、マドリーの厚い選手層に阻まれ、出場機会が満足に得られなかった選手ばかりです。
しかし、ナポリにやってきたことで試合出場の機会も増え、一流の選手であることを証明することに成功しています。クリスティアーノ・ロナウド選手らに出場を阻まれていたカジェホン選手は、ナポリのサイドで躍動し、前線へのボール供給だけでなく、自身で切り込むことを得意としています。
マドリーからナポリへの移籍となると、キャリアダウンのイメージが強いかもしれませんが、そこで新たな才能を発揮したり、次なるキャリアアップへの機会を得ることにも繋がったようです。
宿敵ユヴェントスに渡ったイグアインは裏切り者なのか
2015-16シーズンに36ゴールを挙げたイグアイン選手は、104億円とされる金額で宿敵のユヴェントスに移籍。長年セリエAのタイトル(スクテッド)を争う両クラブの間には、強烈なライバル意識があっただけに、この移籍は禁断でした。
ナポリサポーターは大いに怒り、イグアイン選手のナポリでのユニフォームをゴミ箱や便器に突っ込んだり、破ったり、焼いたりと散々な行為にでています。イグアイン選手はナポリというクラブ、そして街の人々から「裏切り者」の烙印を押されてしまいました。宿敵への移籍というだけでなく、前述したマラドーナ氏と同胞の選手だっただけに、悲しみの気持ちも大きかったのかもしれません。
ですが、イグアイン選手の移籍は本当に裏切りなのでしょうか。イグアイン選手は移籍を恥じるべきなのでしょうか。
結論から言えば全く恥じることはないでしょう。「サッカー界では何が起こるかわからない」、この言葉は多くの選手が口にする言葉で、世界のサッカーを愛する人々の間では共通認識です。
さらには、イグアイン選手が36ゴールを挙げたシーズンは、彼がこんなにも点を挙げたにも関わらずシーズンを無冠で終えました。リーグでは1位のユヴェントスに勝ち点9差をつけられ、国内カップ戦であるコッパ・イタリアも獲られています。
このような状況を鑑みれば、イグアイン選手がユヴェントスに気持ちがなびいてしまうのも無理はないでしょう。選手層が厚くタイトルを狙うビジョンがあり、満足のいく待遇で迎えてくれるクラブからの誘いがあれば、選手は応じたくなるものです。クラブの生え抜きであるなどのよっぽどの理由が無い限り、現代サッカーで一人の選手が1つのクラブに留まり続けるのは難しいことです。
ナポリが優勝する日はやってくるのか、足りないものとは
ナポリのセリエAのリーグタイトル獲得は1989-90シーズンにまで遡ります。もう30年近くに渡りリーグを制することができていません。
おそらく今後も彼らがリーグを制するのは、簡単なことではありません。セリエAでは宿敵ユヴェントスが絶対的王者として君臨していますし、その下にはローマやインテル・ナツィオナーレミラノ、ACミランらも控えています。
イグアイン選手の放出によって、頼れるストライカーも不在です。代わりに加入したアルカディウシュ・ミリク選手は加入当初から点を挙げるも、代表戦で左ひざの前十字靭帯断裂してしまい、今後のプレーが不安視されています。
今後はさらなるストライカーの獲得を目指すとともに、各ポジションによりクオリティの高い選手を揃え、充実のローテーションを組むべきでしょう。それが達成されなければ、ユヴェントスの牙城を崩すことは難しいです。