ジェラードと歩んだリヴァプールFC
リヴァプールFC(以下、リヴァプール)はプレミアリーグのビッグ5の一つだ。プレミアリーグの前身であるフットボールリーグ時代には、最多のリーグタイトル獲得数を誇る。
その一方で「ヘイゼルの悲劇」や「ヒルズボロの悲劇」といった悲しい歴史を持つクラブでもある。
しかし、リヴァプールFCは常にサポーターと共に歩んできた。そして、その先頭を歩いていたのはスティーブン・ジェラード選手という一人のレジェンドだった。彼は2015年にMLS(米国のサッカーリーグ)に渡ったが、今も多くのサポーターにとっての英雄だ。
「You'll never walk alone」。常に皆で一緒に歩いてきた。
スタジアムにこだまするチャント
リヴァプールのサポーターは、本拠地であるアンフィールドで『You'll never walk alone』という歌をチャントとして歌う。この歌はリヴァプール出身のGerry and the Pacemakers(ジェリー&ザ・ペースメイカーズ)がカバーし大ヒットさせたものだ。
スタジアムは独特の緊張感と高揚感で包まれ、試合前の選手の気持ちを高める助けとなっているようだ。
歌の大意は「共に歩こう、君は一人じゃない」だ。サポーターはこの歌を通して、クラブと選手に愛情を注いできた。ちなみにジェラード選手が2016年に出版した自伝にも、日本語で「君はひとりじゃない」という言葉が添えられている。
キャプテンのジェラードとイスタンブールの奇跡
ジェラード選手は1980年生まれ、リヴァプールの下部組織出身のMFだ。下部組織時代も含めると1987?2015ものシーズンをリヴァプールで過ごし、その歴史を傍で見守って来た選手でもある。
デビュー当時はSBだったが、やがてセントラルMFにコンバートされると、正確なロングパスと、強烈なミドルシュートとFKで貢献し始める。リヴァプールで過ごした晩年の2013年夏以降のデータでは、約18.7%もの確率でFKをものにしてきた。この成績はリーグで2位だ。1位は20%でファン・マタ選手だったが、歳を重ねても未だ技術が衰えてはいないことを証明した。
2003?04シーズンの途中からはキャプテンを任され、チーム内での影響力を強めていく。レアル・マドリードCFやチェルシーFCからの関心が騒がれるが、記者会見を開き否定したことでも話題となった。
2004?05シーズンはCLの決勝戦に進出。決勝戦のACミラン戦では前半で0?3と大ピンチに陥るが、後半の6分間で一挙3得点を挙げる。この反撃の狼煙をあげたのがジェラード選手のヘディングシュートだった。そしてPK戦でミランを下し、見事ビッグイヤーを獲得。この試合は「イスタンブールの奇跡」と呼ばれている。
暴れ馬とジェラード
リヴァプールには2011?14シーズンにルイス・スアレス選手が、2013?16シーズンにはマリオ・バロテッリ選手が在籍していた。彼らは「暴れ馬」と言われることもあるほど、やんちゃな選手だった。スアレス選手は相手選手へのかみつきや、バロテッリ選手はプレー面、精神面の両方で幼稚さが目立っていた。
しかし、ジェラード選手はこの暴れ馬たちに熱心に話しかけ、批判されがちな二人の支えとなり続ける。
特にバロテッリ選手は当時の監督だったブレンダン・ロジャーズ監督の手には負えないほどだった。この時ジェラードはロジャーズ監督とバロテッリ選手についてよく話し合ったことがあり、擁護したこともあるようだ。もちろん中には苦言もあったようだが、偉大なキャプテンはチームメイトの人柄を冷静に見抜き、その才能を発揮できるように取り計らっていたようだ。
旅立ちのジェラード
イスタンブールの奇跡以後、リヴァプールは名門としてふさわしいタイトルは獲得できていない。2013?14シーズンにはスアレス選手らを筆頭に攻撃陣が好調、リーグタイトルまであと一歩にまで迫るもこれを逃す。
2015年、ジェラード選手はリーグの栄冠を勝ち取れぬままチームを去ることになる。
宿敵エヴァートンFCとのダービー・マッチである「マージーサイド・ダービー」では、両クラブのサポーターから歓声が送られ、偉大なキャプテンの旅立ちを惜しんだ。彼は間違いなくリヴァプールの歴史をつくった選手だし、これからも人々の記憶に残ることだろう。一途にリヴァプールを愛し、一途にリヴァプールで生きた男だった。
レジェンドの後継者、ジョーダン・ヘンダーソン
ジェラード選手の退団後は、ジョーダン・ヘンダーソン選手がキャプテンを努めている。彼は2011年からリヴァプールに所属しており、ジェラード選手と同じくセントラルMFとしてプレーしている。ジェラード選手のように派手なFKなどは持っていないが、豊富な運動量とあらゆるプレーもそつなくこなせることが持ち味だ。
2016?17シーズン5節のチェルシーFC戦では、PA外からスーパーゴールを決めた。チェルシーFCの選手からのこぼれ球を右足でコントロールシュート。ボールは綺麗な弧を描き、ゴールマウス右端に飲み込まれていった。この時には多くのサポーターがジェラード選手をヘンダーソン選手に重ねたことだろう。彼は立派にレジェンドの後を継ぎ、チームに貢献している。
かつては戦力外となり移籍も噂されたが、数少ない出場機会で評価を確立していった。彼がキャプテンとなれたのは、プレーだけでなく強い精神力も加味されてのことだろう。
リヴァプールはタイトルを獲れるのか?
リヴァプールの当面の目標はリーグタイトルの獲得だろう。そのために必要な人材は揃ってきている。
攻撃陣にはコウチーニョ選手やサディオ・マネ選手らテクニカルな選手が名を連ね、中盤にはヘンダーソン選手、アダム・ララーナ選手、ワイナルドゥム選手が居並ぶ。CBの層の厚さとガラスのエースことスタリッジ選手が心配なところではあるが、決してタイトルを狙えないメンツとは言えない。
クロップ監督のゲーゲンプレスは徐々に浸透してきており、試合を通して選手たちはよく走る。素早く執拗なプレスは、リヴァプールの攻撃のチャンスを増加させ得点を量産していく。2016?17シーズンは21節終了時点で勝ち点45のリーグ3位。得点数は49でリーグトップだ。
首位のチェルシーFCは52点だがまだまだ追い付けない点ではない。エースであるジエゴ・コスタ選手の移籍騒動真っただ中のチェルシーFCを出し抜くことも可能だろう。リヴァプールは栄冠に向かって、これからも歩き続けることだろう。