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奇跡はどうなった?レスターシティFCの2シーズンを解説

2017 8/17 16:20dada
leicester
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まさかの大躍進!奇跡の2015?16シーズン

2015?16シーズンはレスターシティFC(以下、レスター)にとってかけがえのないシーズンになった。創設132年目の小さなクラブは並み居る強豪を抑え、堂々のリーグタイトルを獲得した。ヴァーディー選手やリヤド・マフレズ選手、エンゴロ・カンテ選手らがシーズンを通して好調を維持し、得点は増やし失点は抑え続けた。
開幕当初の「頑張って残留を目指そう」という想いは、「もしかしたらタイトル獲れるかも」といった自信に変わり、それはついに現実のものとなった。
世界では「100年に一度の奇跡」と取り上げ、大きな話題となった。クラウディオ・ラニエリ監督は選手たちと良好な関係を築き上げ、伸び伸びとプレーできる環境の構築にも熱心だった。この努力はやがて固い絆となり、目に見えない大きな力としてクラブの力となったことだろう。

岡崎慎司はなぜ評価されたか?

日本の岡崎慎司選手はレスターに移籍して最初のシーズンにプレミアリーグタイトル獲得に貢献した。彼は32試合に出場し、見事チームにフィットしてみせた。しかし、FWとしては5得点と物足りない印象を受ける。にもかかわらずなぜ岡崎選手が評価されたのかについて考えてみるべきだろう。
岡崎選手がレスターで担った役目は、得点を量産する「ストライカー」というよりは、おとりである「シャドー(影)」が主だった。
豊富な運動量を持ち味に常にオフサイドラインに顔を出し続けた。この動きは相手DFを引きつけたり、撹乱させたりする意味がある。当然、その分だけレスターの他の攻撃陣へのマークが薄れ、ドリブルやシュートのコースが生まれる。岡崎選手のように点を獲らずともFWは活躍できるのだ。日本の多くのサポーターは、「点が獲れないFWは役立たず」と非難することがあるが、これは間違いだろう。岡崎選手のように影として活躍する選手の動きに目を向けてみるべきだ。

正直さと自重がもたらした堅い守り

レスターの守備は「自重」と「正直さ」で非常に堅いものになっていた。CBのモーガン選手とフート選手は、ビッグクラブのCBのように足元の巧い選手ではない。彼らは自分達の実力をわかっていたのか、無理なチャレンジをしなかった。自信過剰なCBは、体による競り合いだけでなくドリブルやフェイントで相手FWをかわそうとする。しかし、本来それは危険なチャレンジであり、技術の伴わない選手がやるべきことではない。
モーガン選手とフート選手はその危険性をわかっていた。故に危ないと感じればすぐさま大きくクリアすることを心がけ、みすみす奪われてしまうようなことが少なかったようにみえる。自分の実力に正直になり自重したプレーをすることで、レスターの守備は非常に堅いものとなっていた。

カンテの流出は一大事!かけがえのないオーガナイザー

2016?17シーズンを迎えるにあたって、レスターとラニエリに課せられたのは、「タレントの慰留」だった。特にヴァーディー選手、リヤド・マフレズ選手、カンテ選手は必要不可欠な存在であり、彼らなしでのレスターは考えられないほどだった。
結果としてカンテ選手はチェルシーFCの手に渡ったが、残りの2選手は残留を決定。いくつかのメディアは「流出を一人に抑えられたことは評価できる」と報じたが、これは恐らく誤りだろう。
レスターが優勝できたのは、前線へのヴァーディー選手やマフレズ選手の存在が欠かせなかった。しかし、それ以上に大切だったのはカンテ選手が担っていた「オーガナイザー」としての役割だ。
カンテ選手はクリーンにボールを奪えるだけでなく、ドリブルでボールを運ぶことも得意としていた。目立ったドリブルスキルは無いものの、優れた戦術眼で敵陣をかいくぐることができたのがカンテ選手だ。その推進力の高さはチーム随一で、レスターの攻撃に多様性をもたらし、「カンテは2人分の働きをする」とラニエリ監督が名指しで称賛するほどだ。
ちなみに2016?17シーズンの21節チェルシーFC戦では、試合前にラニエリ監督がカンテ選手にヘッドロック(もちろんおふざけ)。今も親しい関係であることを表した光景だった。
カンテ選手が抜けた穴には同胞のメンディ選手が入ったが、前者ほどのインパクトは残せていない。

待たれる復活、シンデレラボーイのヴァーディー

奇跡のシーズンに瞬く間にシンデレラボーイとなったヴァーディー選手は、2016?17シーズンは不調に陥っている。得点が挙げられないばかりか、ドリブルやシュートにも切れがみられない。もちろん、前述のカンテ選手を起点としたカウンター戦術が使えないのも得点を挙げられない原因の一つだが、18試合で5得点は少な過ぎるだろう。
過去には工場で勤務しながら、選手生活を続けていたヴァーディー選手は、トントン拍子で現在の栄光を掴んだ。シンデレラボーイとして注目を集め、映画の上映まで決まっている彼の現状は好ましいものではない。
21節終了時点でレスターは勝ち点21の15位、降格圏内である18位のハル・シティは16点でその差は5点。この差は決して大きいものではなく、あっという間にレスターが降格圏内入ってもおかしくはない。

危惧される流出の連続、再びの奇跡は極めて難しい

このままのレスターの不調が続けば、環境を変えたいと思う選手が出てくるのは時間の問題だろう。不調に陥っているとはいえ、ヴァーディー選手やリヤド・マフレズ選手に興味を示すクラブは他にいくらでも存在する。レスターで得ることができないような高額の契約金を求め、移籍を志願する可能性もあり得る。
また、アフリカネーションズカップ2017では、1月15日のグループステージでマフレズ選手が実力を発揮。コントロールしたシュートは見事ゴールマウスに収まった。こういったメジャー大会で露出が増えれば、一層他クラブからの関心は強まる。カンテ選手の流出に続き、この2選手までレスターを去るとなれば奇跡の再現は難しいものになる。2015?16シーズン当初の目標であった「残留」が至上のクラブに戻ってもなんら不思議ではない。
もちろんクラブでは知名度が高まったことで、収益が増加している。その収益を上手く運用し次なるシンデレラボーイを発掘することが、これからの目標になるのではないだろうか。