因縁の対決はごく最近にできあがった?
宿敵であるマンチェスター・ユナイテッドFC(以下、ユナイテッド)とのライバル対決が有名なマンチェスター・シティFC(以下、シティ)。
ただ、このシティの躍進は主に2000年代後半に入ってからのものであり、以前は昇格と降格を繰り返すクラブでしかなかった。創設は1880年とユナイテッドと差はないが、資金面や育成のシステム面かれみても大きな後れをとっており、到底ライバルと呼べるような関係ではなかった。
現にサー・アレックス・ファーガソン監督率いるユナイテッドが大いに名を挙げた、1998?99シーズンのシティは英国の3部で戦っているほどだった。当時のユナイテッドはベッカム選手やポール・スコールズ選手など、クオリティは一線級。他の追随を許さない強さで3冠を達成した。
シティが強くなったと言われるのはごく最近で、しかも2000年代後半になってからのことというのは、間違ったことではないのだ。
金満クラブへの歩み、爆買いのシーズンがやってくる
より具体的にシティが強くなり始めたシーズンを言及するならば、2008?09シーズンがターニングポイントとなる。
このシーズンはオーナーが中東UAEの投資グループだ。名前をアブダビ・ユナイテッド・グループといい、その資産総額は100兆円を超えるとされる。なお、このグループはJリーグの横浜F・マリノスやMLS(米国のサッカーリーグ)のニューヨーク・シティFCなどの運営にも関与している。
大富豪を味方につけたシティは若い時から驚異的な反応をみせたGKシェイ・ギヴン選手やファンタスティックなドリブルをみせたロビーニョ選手を獲得。安定した守備と変幻自在の攻撃はシティにハイクオリティなサッカーをもたらしたが、リーグは10位で終わった。前シーズンが10位でのフィニッシュであったため、当然この結果に満足はしない。
2009?10シーズンには資金をさらに市場に投下し、カルロス・テベス選手やアデバヨール選手、コロ・トゥーレ選手を獲得。2010?11シーズンには、ダビド・シルバ選手、ヤヤ・トゥーレ選手を獲得。2011?12シーズンには後にヒーローとなるセルヒオ・アグエロ選手やサミル・ナスリ選手を獲得したのだった。4,5シーズン前には考えもしなかった連続の巨額投資により、シティは確実にタレントを揃えていった。
直面した大舞台と新戦力アグエロ
2011?12シーズンに加入したセルヒオ・アグエロ選手は、前評判に劣らない活躍を続けていた。柔らかいタッチから繰り出されるドリブルは相手選手を軽くいなし、相手陣営を破壊。守備の綻びをつくった後は、自分で決めることも仲間にキラーパスを出すこともできる選手だった。
宿敵ユナイテッドとのダービーマッチ(9節)でも1?6の勝利に貢献。ホームで燦々たる結果となったユナイテッド陣営の有様はひどいものだった。選手は落胆しサポーターは呆然とし、ただただスコアボードをむなしく眺めることしかできなかった。
このシーズン以降、アグエロ選手はシティの絶対的なエースとして君臨し続けている。シティは毎シーズン多額の移籍金でFWの選手を何度も買っているが、アグエロ選手がファーストチョイスであることに変わりはない。2015?16シーズンからは背番号10を身に着け、名実共にエースとなった。
試されるエース!伝説の最終決戦
ダービーマッチでは圧勝でも、リーグのタイトルは最終節までユナイテッドと争う形となった。
最終節の試合は格下で降格候補のQPR戦だ。だが試合は終始QPRペースで進み、シティは1?2で後を追うことになった。しかも、QPRは選手を一人欠いているにもかかわらず序盤から試合を支配する。調子の良かったシティのシーズンもこれまでかと思われた。
しかし、試合はAT(アディショナルタイム)に入ってから大きく動く。まずエディン・ジェコ選手がお得意のヘディングで同点にする。すぐさまボールを戻し、残りの時間も選手は走り続ける。最後にみせたのがアグエロ選手だ。彼は執拗にマークにつく相手DFを突破、落ち着いて右足を振り抜いてゴールを決めた。
試合はこのまま終了。ピッチには大勢のサポーターがなだれ込み、選手、スタッフ、サポーターが歓喜の渦に飲み込まれた。
なお、この試合のAT時には宿敵ユナイテッドも最終節に臨んでおり、試合は0?1でユナイテッドの勝利となっている。つまり、シティは意地でも勝たなくては、タイトルの獲得はできなかった。このシーズンはシティにとって44年ぶりのリーグタイトルとなり、最終節はサッカー史に残るほどの伝説的な試合となった。
ペップ・グアルディオラの招聘とブランド価値の向上
シティは毎シーズン常に巨額の投資を続けている。そんな中長年問題だったのがクラブのブランドとしての価値が足りないことだった。約10シーズンという短期間で急成長を遂げたこともあり、ブランド価値が追いついておらず金満クラブだけのイメージが強かったわけだ。真のビッグクラブになるためには、資金面だけでなくブランド価値の向上が欠かせない。
そこで2016?17シーズンにペップ・グアルディオラ監督を招聘。FCバルセロナで一時代を築いた彼は、多くのクラブが招聘を狙う、紛れもない名将だった。サッカーの世界では、名将を置くことでブランド価値の向上だけでなく、選手獲得のための交渉も成功しやすくなる場合がある。同シーズンにはドルトムント愛の塊だと思われていたイルカイ・ギュンドアン選手や逸材レロイ・ザネをシャルケ04から引き抜いた。彼はいずれもグアルディオラとプレーできることに魅力を感じてやってきた選手だ。
また、冬の市場で合流したネイマール2世と呼ばれるガブリエル・ジェズス選手も同様だった。彼は2016年のリオ五輪でも大活躍しており、ブラジルの至宝、宝石、フェノメノ(異常気象)とも称される。
グアルディオラ監督は試合で選手を指揮するだけに留まらない影響力を秘めているのだ。
噂されるメッシの獲得、クラブはさらなる高みへ
グアルディオラ監督が在籍していることで、度々噂されているのがリオネル・メッシ選手の獲得だ。FCバルセロナで神がかり的な活躍を見せるこの天才アタッカーは、グアルディオラ監督の教え子だ。当然誰もが相思相愛とみているし、グアルディオラ監督も方々で教え子を称賛するコメントを残している。
メッシ選手のFCバルセロナとの契約は2018年夏までとなっており、その延長交渉はなかなか進まないでいる。もし交渉がまとまらなければ、恩師もおり、獲得資金も工面できるシティに移籍するということも、可能性としてはゼロではない。
獲得には100億円を超す金額が必要になることが予想されるが、関連グッズやユニフォームの販売で多額の金銭の回収も可能だろう。
メッシ選手が獲得できれば、マンチェスター・シティFCのブランド価値はうなぎ登りとなるし、リーグタイトルだけでなくプレミア勢悲願のCL制覇も狙えるだろう。