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落日の名門クラブ、復活の糸口ここにあり

2017 8/17 16:20dai06
manchester united
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落ちぶれる名門クラブ、難航する復活

サッカー界で名門とされるクラブ。 イタリアのACミラン、イングランドのマンチェスター・ユナイテッド。 これらのクラブはいずれも「名門クラブ」だ。ご存知の方も多いことだろう。 ただ、名門クラブは時として落ちぶれてしまうことがある。 過去の栄光は遠い日に。在りし日の選手の輝きは霞み、クラブの行く末も暗雲の中に沈んでいく。
監督を変えど、戦術を変えど、選手を変えど。 成績は低迷し、なかなか浮上することができないことも珍しくない。 強豪であるが故に、サポーターからは大きな期待を寄せられ、メディアも毎シーズンのタイトル獲得をめぐって、大々的な報道を展開していく。そんな状況で負けが続けば、名門クラブに浴びせられる言葉も日に日に厳しくなる一方だ。

そこに選手獲得のコンセプトはあるか

名門に限らず、クラブが不調から脱する時、あるいは好調を維持し続けるためには、選手獲得が欠かせない。 クラブの哲学にフィットしそうな選手、監督の期待に応えられるクオリティを持つ選手を探す。
しかし、この時に選手獲得のコンセプトがあるかどうかで、クラブの調子は左右される。 選手は獲得しただけでは意味がない。争奪戦を制し獲得した後、試合で力を発揮してこそ初めて意味のある獲得となるのだ。 クオリティが高く金額も高い選手が活躍できなければ損になるだけなのだ。
だからこそ、選手を獲得する際にはコンセプトが大切だ。「得点が足りないから、豊富なシュートパターンと決定力のある選手を獲得しよう」、「守備が甘い。特に高さで競り負けてしまうから、強いフィジカルと物おじしない貪欲さを持つ選手を獲得しよう」。こういった、クラブの現状に応じたコンセプトを設定した獲得を行うべきなのだ。

苦しい懐事情と選手獲得

2011?2012シーズン以降、ACミランでは選手獲得のコンセプトが揺らいでいる。 これには財政上の理由もあるが、安く買えるという理由だけで選手を獲得する事例が散見される
。2016-2017シーズンもACミランに在籍する本田圭佑選手や、リカルド・モントリーヴォ選手は、いずれもフリー移籍だった。つまり、移籍金が発生していない。 もちろん、お金のかからない移籍で選手が期待以上の働きをしていれば問題はない。だが、ACミランの成績を振り返ると、かつての黄金時代の影はなく、試合内容にも面白味が失われている。
近年、選手獲得には非常に多額のお金がかかる。一人の選手の獲得には数十億円というお金が動き、時にその額は百数十億円にまで膨れ上がる。そんな状況だからこそ、金額の如何に関係なく、クラブが求める人材を獲得する必要がある。高ければ良いということはないし、安ければ良いということでもない。

チェルシーFCが見た悪夢

試合の采配や選手の起用や獲得は、クラブを率いる監督に大きな権限がある場合がほとんどだ。だが、クラブによっては監督に全権がなかったり、監督以外のスタッフとの連携が成り立っていなかったりする場合もある。 同時に監督の解任が突如として行われることもある。 イングランドの名門であるチェルシーFCは、2013?2014シーズンにかつてオーナーと仲違いしたとされる、名将モウリーニョ監督を復帰させた。
長らく満足のいく結果を出せなかったチェルシーは、モウリーニョ監督の下で着実に調子を上げ、2014-2015シーズンには5年ぶりのリーグタイトルを獲得した。ただ、翌年の2015-2016シーズンは悪夢の年に。チームは得点力を欠くばかりか、失点を重ね続けた。シーズン途中にモウリーニョ監督は、事実上の解任となった。

モウリーニョ監督とスカウト部門エナメロの不一致

クラブが調子を落とした時、監督への責任は小さくない。 しかし、調子を落とす前に前項のモウリーニョ監督が訴えていたのは、「ディフェンス陣の若返りとクオリティアップ」だった。 事実、チェルシーFCのディフェンス陣は高齢化が進んでおり、危うさは前のシーズンからあったのだ。幸いなことに優勝した前年の2014-2015シーズンは経験値がその危うさを隠しきっていたのだった。 シーズン開幕からモウリーニョ監督は新しいCBの選手を探し動いた。ただ、それは思うようにいかず、移籍市場はどんどんと閉幕に近づいた。
そんな中やっとのことで獲得できた選手の一人がパピ・ジロボジ選手だった。 ジロボジ選手はCBとしては貴重なレフティかつ、高い身体能力を有する選手だ。フランスのリーグ・アンからやってきた。移籍当時は26歳だった。 念願のCB獲得だったが、なんとこの選手はモウリーニョ監督が望んだ選手ではなかったのだ。クラブの強化・スカウト部門のエナメロ氏たっての希望と言われており、モウリーニョ監督が目を付けていたわけではなかった。
結果、ジロボジ選手の出場機会はほぼ皆無。チェルシーFCのディフェンス陣は若返ることなく、悪夢を見たのだ。モウリーニョ監督だけを不調の原因として責めることはできないだろう。

クラブに魔法をかける、柱となる選手

クラブには勝者のメンタリティを持つ柱となる選手の存在が必要だ。 金額が高ければ良いというわけではないことはすでに話したが、時には柱となる選手を高値であっても買うことが必要だ。 どれだけ監督の意向に沿った補強をしようとも不調を脱せない時、好調が維持できない時の最終手段として有効なのが柱となる選手なのだ。
その点で言えば、ズラタン・イブラヒモヴィッチ選手がまさにそれだ。 彼はユヴェントスやインテル、バルセロナ、ACミラン、パリ・サンジェルマンといった多くのクラブを渡り歩いてきた。いずれも元々名門かつ強豪のクラブだったが、彼が発揮する圧倒的な攻撃力と存在感がクラブを勝利に導いてきた。これは「魔法」と言っても良いだろう。 そして度重なる勝利とタイトルの獲得は、イブラヒモヴィッチ選手の「勝者のメンタリティ」を築き上げてきたのだ。2016-2017シーズンからはマンチェスター・ユナイテッドに在籍。数シーズン不調にあえぐユナイテッドでは、時折不調になりつつも得点を量産。14節中13試合に出場。8得点を獲得している。
ユナイテッドは今も不調から脱し切れてはいないが、クラブ全体の機運は高まりつつある。若手選手の中にも、生ける伝説とも呼べるイブラヒモヴィッチ選手との共演を嬉しく思っている選手が多い。若手選手が彼のようなベテランから学ぶべきものは多い。それはプレー面はもちろんのこと、選手としての立ち振る舞いに関してもだ。
勝者のメンタリティは一人だけのものではない。クラブの選手、監督、スタッフと共有できるものだ。そのメンタリティは周囲に徐々に浸透しながら、名門クラブの復活を促していくことだろう。

復活を難航させる多数の要因と、名門としてのプライド

名門のクラブであればあるほど、復活は難航することがある。 それは、これまで紹介してきた多数の要因によって不調がもたらされているからであり、名門クラブであるが故のプライドというものがあるからだ。 試合の勝ち負けにおいては、サポーターやメディアからの大きな期待を背負っている。仮にクラブのクオリティが落ちていようとも、「○○だったら勝てるはず」というプライドがある。そのプライドが選手の本領の発揮を妨げる。「なんでうちほどのクラブが」と著しく自信を失う選手も居る。
さらには選手の獲得においても、名門のプライドが関わってくる。名門クラブなので生半可な実力の選手や無名の選手は獲得しづらく、起用もしづらいのだ。少々お金がかかろうと、あるいはかからなかったとしても、すでに名のある選手の獲得を目指す。その選手がクラブにフィットするかどうかはさておき、だ。
これが仮に弱小のクラブであったり、不調を通り越してどん底にまで落ちたクラブなら話は別だ。良い意味でプライドは削がれているため、「再出発」という意味で大鉈を振るうことができる。

名門クラブの不調は多方面から観察する必要アリ

名門クラブが不調に陥った時、単に選手のクオリティ不足や監督の不甲斐なさを責めるのはナンセンスだ。 今回紹介したような様々な要因からその不調が起こっており、それらを是正していくことで復活の糸口とすることができる。 あるいはそういった不調も、時間の経過とともに解消されていくこともある。
それは選手のプレーや監督の采配が、時間の経過でフィットしたからというのが主な原因だろう。つまり、不調に陥った時は安易に改革を推し進めるのも危険なのだ。私達サポーターは、多方面からクラブの状況を観察し、その行方を優しく見守る姿勢が求められるのではないだろうか。