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昨季王者川崎Fの今シーズン未勝利の原因は?スタッツはそれほど悪くないが……

2019 3/28 15:00中山亮
田中碧,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

得点以外は決して悪くはないスタッツ

Jリーグ連覇を達成した王者川崎フロンターレが、今シーズンはまだ勝てていない。第4節を終えた時点で3分1敗と未だ未勝利。得失点差は3得点4失点となんと-1である。

昨季はリーグ最多の1.68得点/試合(34試合57得点)、リーグ最少の0.79失点/試合(34試合27失点)だったのに対して、今季は0.75得点/試合(4試合3得点)、1.00失点/試合(4試合4失点)。この数字を見れば4戦未勝利というのも不思議ではない。

しかし、悪い数字ばかりではない。例えばボール支配率はリーグ3位の57.0%、パス数はリーグ2位の652.5本/試合。敵陣30m以内プレー数306.0回/試合、ペナルティエリア内プレー数36.5回/試合はリーグトップである。それに、シュート数17.25本/試合はリーグ2位、枠内シュート数6.0本/試合はリーグ4位。被シュート数9.25本もリーグで3番目の少なさである。 つまりこの数字だけで見ると、思い通りの試合が全くできていないわけではないのだ。

しかし得点は減少し失点は増加している。それはなぜか? 特に深刻なのは得点だろう。致命的な数字ともいえる2つの項目がある。それが、シュート数あたりの得点率4.35%(リーグ平均9.39%)、枠内シュート数あたりの得点率12.50%(リーグ平均28.25%)がリーグワーストの2位であること。この2つが今の低調な川崎Fを表している数字であろう。

左サイド偏重のボール保持

決定力を表す数字が下がる理由としては、単に選手の問題ということも考えられる。しかし、昨季から主力選手がほとんど入れ替わっていない川崎Fの場合はチームとしての問題であろう。シュートを打つ時の状況、シュートに持ち込むまでに不安点がありそう。

この4試合で、気になるのは攻撃が左サイドに偏っていることだ。これはデータにも現れている。 ミドルサード(ピッチの「真ん中の3分の1」エリア)で左右のSBがパスを出した数を見ると、右SBでプレーしたマギーニョ、馬渡、鈴木の4人のミドルサードパスは67本で1試合あたり16.75本。 一方、左SBで全試合プレーしている車屋のミドルサードパスは149本で1試合あたり37.25本。鹿島戦では85分に馬渡に代わりFWの知念が投入されているので5分ほど右SBのプレー時間は少ないが、倍以上異なるパス数が記録されている。

しかし、こうなるのはある種当然なのである。なぜなら、ここまでの4試合で右SHで先発しているのは小林と家長(共に2試合)だが、小林は前線でプレーすることを好み、家長は中央でプレーすることを好むからである。

片方のサイドに選手を集める戦術は欧州では近年注目を集めている戦術でもある。 しかし、現在の川崎Fは左サイド偏重攻撃によるデメリットが大きく表れている可能性が高いのだ。

片側のサイドに偏重するメリットとデメリット

片側のサイドに選手を集めると当然ながら選手間の距離は狭くなる。この状況は川崎Fの様にパスのうまい選手が多いチームにとっては大きなメリットである。なぜなら、パスをつなぎやすくなるからである。その結果ボール支配率は高くなるし、ボールを前へ前へと送ることができる。

さらにボールを失った時も近い距離に多くの選手がいるため、プレッシングもかけやすい。これも川崎Fの戦い方から考えると大きなメリットで、昨季から大きな武器となっている素早い守備の切り替えがしやすい。

しかし、この戦術はいいことばかりでもない。この形は相手選手も密集させてしまうという側面も持つ。 ということは前線にボールを運んだとしても、シュートを打つ時に相手DFがすぐ近くにいてじゃまになる。また、素早い守備への切り替えからボールを奪い返したとしても、相手が近くにいるため、スペースがなくショートカウンターがしにくいのだ。

川崎Fが陥っているのがまさにこの状況である。 欧州で同サイドに人を集める戦術を取っているチームは、実はその逆サイドにできる広いスペースでの1対1こそがストロングサイドになっている。 逆サイドのSHには抜群の突破力を持つ選手を起用し、片側のサイドに人数を集めることで相手を引き付け、その逆側で1対1を仕掛けやすくしているのだ。

しかし、川崎Fの場合は逆サイドで起用されているSHがFWの小林であったり、同サイドでのボール回しにまで関わってくる家長であったりと、逆サイドを使うにはSBのオーバーラップしかないという形になってしまっている。

そしてこの弱点を見事に突いたのが第4節の相手、G大阪である。 川崎が人数をかける左サイド、G大阪にとっては右サイドのSBに本来CBの三浦を起用したのだ。これで右サイドの守備力を高め、さらに左SHには本来FWのアデミウソンを起用した。これがうまくはまったのだ。

ちなみに三浦は精度の高いロングボールを蹴ることもできる。川崎Fが素早くプレッシングをかけてきてもそれを外す事ができるようになっていた。 川崎Fがボールを支配しながらも攻め切れず、最後の失点で敗れてしまったのは決して偶然ではない。

昨季前半戦、勝ち点を伸ばせず苦しい戦いを続けながらも、試合を重ねる中で戦術を進化させ一気に逆転した経験を持つ川崎F。 今季も序盤戦は厳しい展開となっているが、試合を重ねていく中でさらに戦術を進化させることができるのか。左サイドで人数をかける戦い方を続けるのであれば、その反対の右サイドでどういった形を作ることができるのかがポイントとなるだろう。