「ストーミング」と「ポジショナルプレー」
Jリーグ2018年の最初のタイトル、YBCルヴァンカップ決勝が10月27日に埼玉スタジアム2002で行われる。
平成最後のルヴァンカップ決勝に進出したのは、準々決勝で前年度チャンピオンセレッソ大阪を下した湘南ベルマーレ。同じく準決勝で歴代最多6度の優勝経験を持つ鹿島アントラーズを下した横浜F・マリノスだ。
決勝戦は神奈川県にホームを置くチーム同士のダービーマッチとなったが、それ以上に今回の対戦は戦術面で注目だ。
2018年に入ってヨーロッパサッカーでよく使われるようになった言葉に「ストーミング」というものがあるのをご存知だろうか。
ストーミングは比較的新しい言葉だが、今や一般的なプレー思想である「ポジショナルプレー」の対抗軸として注目を集めている。
湘南、横浜FMの対戦は「ストーミング」対「ポジショナルプレー」の対決でもあるのだ。
「ポジショナルプレー」の横浜
まず最初にもともとはチェス用語として使われていた言葉であるポジショナルプレーについて説明すると、サッカーを陣取りゲームとして捉え、選手のポジショニングにより優位性を作り出そうとする考え方である。
ポジショナルプレーでは5レーン理論という言葉が出てくるが、これはピッチを5つのレーンに分けそれぞれのレーンに選手を配置することで守備側に常に複数の選択肢を突きつけるというもの。
ボールを保持しパスをつなぎ、選手のポジショニングを整えることで、相手の守備陣形を混乱させるのだ。
これを最も効果的に行っているのがマンチェスター・シティの監督であるグアルディオラだと言われており、マンチェスター・シティグループの一員である横浜FMは今季まさにこのサッカーにチャレンジしている。
新しい取り組み故にシーズン序盤は思うように勝ち点を重ねられず残留争いに巻き込まれることとなったが、ここに来て徐々に浸透しはじめ、第30節終了時点で11位とJ1残留も目の前だ。
「ストーミング」の湘南
そしてもう一方のストーミングだが、言葉自体は「ストーム(嵐)」から取られており、まるで嵐のように相手に襲いかかることに由来している。
ポジショナルプレーはボールを保持し相手守備に複数の選択肢を突きつけることで主導権を握るものだが、このストーミングは逆側からのアプローチだ。
相手がボールを持った瞬間に嵐のように激しくプレッシングを仕掛けることで攻撃側から時間とスペースを奪う。
これにより相手に混乱を生じさせ、ボールを奪い返すやいなや一気に相手ゴールに迫るというものだ。
ストーミングの代表格はクロップ監督率いるリバプール。ドルトムントを率いていた当時、香川らを中心にゲーゲンプレッシングとして注目を集めていたプレッシングをさらに進化させたものだと言える。
そしてこのストーミングと曺貴裁監督が率いる湘南のサッカー「湘南スタイル」とは実は深い関係がある。
曺貴裁監督は以前からオフシーズンになると毎年ヨーロッパに視察に向かい、そこでの情報をチームにフィードバックするというやり方を採っているのだが、現在の湘南スタイルへと進み始めるきっかけを得たのはドイツだった。
クロップ監督がドルトムントの前に率いていたマインツや、レッドブル・ザルツブルクやバイヤー・レバークーゼンでゲーゲンプレッシングを実践していたロジャー・シュミット監督との出会いにより今の湘南スタイルが始まったのだ。
ストーミングと湘南スタイルのルーツは同じなのである。
欧州サッカーの構図が日本にも
昨年のUEFAチャンピオンズリーグ準決勝でも激しい試合を繰り広げたマンチェスター・シティとリバプールに代表されるように、現在ヨーロッパサッカーでよく目にするポジショナルプレー対ストーミングの構図。
平成最後のルヴァンカップ決勝でも、ポジショナルプレーとストーミングを武器とするチームが争うことになる。
湘南はJリーグ昇格初年度の1994年度第74回天皇杯で優勝経験はあるものの、ルヴァンカップではクラブ史上初の決勝進出。横浜FMはリーグ戦では3度、天皇杯では2度の優勝経験はあるが、ルヴァンカップでは2001年の初優勝時以来17年ぶり2度目の決勝進出となる。
この決勝戦では今季リーグ戦最初の対戦となった第9節のような4-4の激しい打ち合いになるか。それとも2度目の対戦となった0-1の第21節のように中盤で激しくぶつかりあう試合になるか。
どちらにしても、白熱した試合になることは間違いなさそうだ。