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アンドレス・イニエスタ 神戸で魅せた珠玉の36分間

2018 7/25 12:47SPAIA編集部
イニエスタ,ヴィッセル神戸
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Ⓒゲッティイメージズ

イニエスタのデビュー戦は黒星スタート

明治安田生命J1リーグ第17節、ヴィッセル神戸対湘南ベルマーレ戦の59分、ヴィッセル神戸は渡邉千真に代わってアンドレス・イニエスタを投入。Jリーグデビューを果たした。

最初に断っておくが、この試合は湘南ベルマーレが見事な試合運びでヴィッセル神戸を下した試合。夏の移籍期間でJ2徳島ヴォルティスから加入した山﨑を1トップに入れた湘南は前線からのプレッシングで神戸を圧倒。イニエスタが投入されるまでに既に2点リードしており、イニエスタ投入後の67分にも菊地がダメ押しの3点目を決め、湘南の曺貴裁監督自らが監督会見で「素晴らしかった」と自チームを讃えた試合だった。

そして後半投入されたイニエスタは得点もアシストも記録できず、またチームを勝利に導くこともできなかった。しかしイニエスタがプレーした36分間は今後に大きな期待を抱かせるものだった。

イニエスタは何が凄いのか

イニエスタはボールを失わない。的確にパスを出す。ドリブルも上手い。とにかく何でも上手い。とはいえ特別足が速いわけでもなく、力強いわけでもない。また派手なフェイントも行わない。なので、なぜボールを失わないのか、なぜパスを出せるのか、なぜドリブルでかわせるのかがわかりにくい。「凄さ」が表現しにくい選手でもある。

しかし実際に我々の日常であるJリーグでプレーする姿をみることで、その秘密が垣間見える部分がいくつもあった。

イニエスタのプレーはシンプルだった。相手から強いプレッシャーをかけられていると、簡単に味方を使う。そしてもう1度ボールを受けることができるポジションへと移動する。

そしてこの相手からのアプローチに少しでも距離があるとスッと前を向く。イニエスタがボールを受けた時は、ゴール方向に向かってアプローチをかけてくる相手と正対している場面がかなり多かった。これはボールを受ける前の状況判断、正確なボールコントロールがあるからこそ為せる技なのだが、この「相手と正対すること」はイニエスタのプレーの大きな特徴でもあった。正対することで相手は安易に飛び込めばかわされてしまう。相手DFがプレッシャーをかけられない状況を作っていた。これが「ボールを失わない」ことに繋がっているのだ。

この「プレッシャーがかかっていない状態」であればイニエスタはなんでもできる。常に複数の選択肢を持っている。なので相手は常に後手を踏んでいる状態になっている。だからこそイニエスタは身体の向き一つで相手を翻弄することもできる。

そしてその中で選択するプレーも非常にシンプル。味方が動き出せばスグにボールを出すし、その後自分も動き直してボールを受けることができるポジションに移動する。決してボールを止めることが無いのでチームの攻撃も加速する。常に複数の選択肢をもっており、その中から最適なものを導き出すことができるのだ。

もちろんそのベースとなっているのは技術であることは間違いない。高い技術を持っているからこそ、ターンできるし複数の選択肢も持てる。しかし本当に優れているのはその先。湘南の曺貴裁監督が試合後に語ったように「小さいころから積み上げた、技術と呼ぶにはおこがましい状況判断、その力が類まれにある」のだ。イニエスタは一人で試合を決める様な選手では無いが、チーム全体のクオリティを高めることができる選手なのだ。

わずか36分間のプレーだったが、バルセロナのユニフォームを着ていなくても、周りにメッシやブスケツがいなくても、ノエビアスタジアム神戸のピッチにたっていたのは変わらずあのイニエスタだった。