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首位独走のJ1広島は堅守だけじゃない。右サイドプレー比率4割が勝利の方程式

2018 5/17 11:00SPAIA編集部
広島のペナルティエリアでのプレー数
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ⒸSPAIA

昨季とはまるで別チーム

サンフレッチェ広島が止まらない。5月13日の第14節終了時点で落とした勝ち点はたったの5。得点22、失点6はどちらもリーグトップ。 昨季15位に終わったチームがわずか半年後に、J1史上最速ペースの勝ち点で首位を独走するとは誰も予想できなかっただろう。広島の強さを支えるものが何なのかデータから探る。

人数をかける右サイドと1対1で勝負する左サイド

広島の快進撃を支えているのは間違いなく強固な守備だ。14試合でわずか6失点、無失点試合が10試合というのは脅威的な成績だ。しかし、ここではあえて守備ではなく攻撃から探る。

広島のサッカーを見ると右サイドからの攻撃が多い事に気がつく。 ペナルティエリア付近でのプレー数でもこの傾向ははっきりと表れており、右サイドで1試合平均29.42回のプレーが行われているのに対して、中央は22.43回、左サイドは14.71回。 実に44.20%のプレーが右サイドで行われている。

第13節仙台戦のペナルティエリアでのプレー数

右寄りの傾向が顕著に表れた第13節仙台戦ⒸSPAIA

※画像はリンク


しかしクロス数では異なる傾向が見られる。 チームトップは左SHの柏好文で47本。これは全体の24%にあたる。

このクロス数につながる要因は、右サイドでプレーする複数の選手の数字を調べると見えてくる。右SHでプレーする川辺駿が20本、柴崎晃誠が19本、右SBの和田拓也が24本。さらに右ボランチの青山が16本。 左サイドではクロスを入れるのはほぼ柏となっているが、右サイドでは川辺や柴崎、和田、青山と複数の選手がクロスを入れているのだ。

さらに他のデータと合わせると左右の違いがあきらかになる。

右サイドのパス数が、左サイドのパス数よりも約1.4倍多い。一方で左サイド柏1人のドリブル数が、右サイド4人の合計ドリブル数よりも約1.5倍多い。

つまり、広島の攻撃は右サイドではパス交換から人数をかけて攻め込むのに対して、左サイドでは柏のドリブル突破から攻め込む形となっているのだ。

第14節までの広島のサイドでのパス数,ドリブル数

第14節までの広島のサイドでのパス数,ドリブル数ⒸSPAIA

逆サイドで待ち構えるパトリック

14節終了時点でリーグトップの10得点を記録しているパトリックにも触れないわけにはいかないだろう。

パトリックのプレーで特徴的なのが、ポストプレーで攻撃の起点にはなるものの、右サイドで行われるパス交換にはほとんど参加していないことだ。左サイドで見られる柏のドリブルに絡むようなプレーも少ない。

パトリックがポジションを取るのはボールと逆のサイド。この動きは徹底されており右サイドでショートパスを繋ぎ攻め込み始めると、パトリックは必ず左サイドへと移動する。

左サイドにポジションを取る理由は、対戦相手の右SBとマッチアップするためだ。CBには高さがある選手が起用されるが、攻撃参加が求められるSBはスピードが優先され、高さがない選手も起用される。

さらに広島は右サイドで人数をかけて攻め込むため、相手守備陣全体がそちらにスライドする。そうなると逆サイドの一番外側でマッチアップするのは、背の高くないSBとJリーグトップクラスの高さと体の強さを持つパトリックになる。パトリックの高さと強さが活かされる形に持ち込むことができるのだ。

攻守が連動する守備

広島の攻撃の形を踏まえ、最大のストロングポイントともいえる守備を探ってみよう。

広島の守備は4-4-2の布陣でブロックを作って守るゾーンディフェンスとなっている。4人のディフェンスラインはペナルティエリアの幅を堅持し中央にスペースを空けない。SBが外に出るのは自陣でサイドを破られてからであり、その場合でもボランチが必ず下がってスペースを埋める。

押し込まれた時にはSHがSBの外に下がってくることもいとわないほど中央のスペースを締めることを徹底する。約束事が明確なので帰陣の速さ、徹底レベルはかなり高い。

しかし広島の守備の固さを支えているのはそれだけではない。

左右で異なるデザインとなる広島の攻撃。その違いから必然的にボールを保持する場所は人数をかけてパスを繋ぐ右サイドとなる。

言い換えれば、ボールを失う回数が多いのも右サイドということだ。つまり、守備が始まるサイドがおよそ決まっている。

広島はこれも活用している。右サイドでは攻撃で人数をかけている分、守備に入ることができる人数も多い。ボールを失うと素早い切り替えで激しいプレッシングをかけてくる。

この戦術を表しているのが選手起用。左SHの柏が全試合先発出場しているのに対して、守備の負担が大きい右サイドでは、SHに柴崎と川辺を併用。FWでも左サイドにいるパトリックが13試合に先発しているのに対して、右サイドではティーラシン、渡大生、工藤壮人の3人を併用。さらにほとんどの試合で60分ごろに交代している。

併用・交代を行うことで試合の右サイド守備強度を高いレベルで維持することが出来ているのだ。

改めて振り返ると、サンフレッチェ広島の快進撃の要因は、勢いや好調、攻撃的・守備的といった形で分類できるものではなく、選手の特徴を活かしきり、高いレベルでまとまった攻守の連動にある。攻守が連続するサッカーという競技の特性を考え尽した戦術であるといえる。

この攻守のバランスを崩されることがない限り広島の独走は止まらないだろう。