ガンバ大阪監督にレヴィー・クルピ氏が就任
2017年12月3日、ガンバ大阪は2018シーズンの新監督としてレヴィー・クルピ氏の就任を発表した。クルピ氏といえばブラジルを代表する名将の1人であり、セレッソ大阪を3度指揮した監督である。日本になじみ深いクルピ氏が、ガンバ大阪の監督として日本に戻ってくるのだ。
2013年にセレッソ大阪の監督を退任しブラジルに帰国する際に「次に日本に帰ってくるときはガンバの監督です」とジョークを飛ばしていたが、そのジョークが現実のものとなった。
Jリーグ開幕前には、ヤンマー(セレッソ大阪の前身)のレジェンドである釜本邦茂氏がヤンマーの監督を務めた後に、Jリーグ開幕に合わせてガンバ大阪の監督に就任したこともあったが、Jリーグ開幕以降は大阪を本拠地とするライバルクラブの両方で監督を務める初めての人物となる。
若手を抜擢し使い続けることが出来る監督
クルピ氏といえば、セレッソ大阪を2度のAFCチャンピオンズリーグ出場へと導いただけでなく、香川真司選手、乾貴士選手、清武弘嗣選手、柿谷曜一朗選手、山口蛍選手など、多くの若手選手を日本代表選手にまで育て上げた手腕も広く知られている。
クルピ氏がこれだけの選手を育て上げることができたのは、選手を見極める目が優れているということはもちろんだが、経験の少ない若手選手であっても優れていると判断すれば、すぐに先発に抜擢し使い続ける決断ができるからである。
クルピ氏はチームに戦術を落とし込んでいくタイプではなく、ブラジル人監督に多い選手の組合せでチームを作り上げるタイプの監督だ。試合の中でチームを作り上げていく形をとるので選手を固定する形になるのだが、若い選手であっても躊躇なく抜擢し使い続ける。
また、攻撃も守備もある程度の枠は作るのだが、その枠の中のルールさえ守っていれば後は選手の自主性に任せられる。それにより若手選手がグングン成長していく。
自身の著書、「伸ばす力 レヴィー・クルピ 世界で輝く「日本人選手」育成レシピ」の中でも「まだ若いから、時間をかけてじっくり育てよう」という考え方もあるかもしれないが、クルピ氏は「サッカー選手は「能力」が全て。15歳であれ、40歳であれ、実力があれば起用する」と語っている。
レギュラー第一主義の11人の監督
2013年の帰国時もそうだったが、クルピ氏はメディアに対してジョークを飛ばすことも多く、サポーターには常にフレンドリーに接する。まさに「陽気なブラジリアン」といったイメージなのだが、実際に監督としてのクルピ氏はそのイメージとは全く異なる。
サッカーの監督には選手との距離を近くし兄貴的な存在となるタイプもいるが、クルピ氏はそれとは異なり選手との間に完全に線を引き、ボス的な存在として監督と選手という立場を明確にわける。
そのため、練習中に選手に対してはジョークを飛ばす姿など見えず、個別にコミュニケーションをとることすらほとんどない。さらに特徴的なのは練習中でも直接指示を出すのはレギュラー組となる11人(プラスアルファ)のみ。サブ組には声をかけることは、ほぼない。
セレッソ大阪の選手としても、GMとしてもクルピ氏と共に仕事をした梶野智氏は著書「世界に通用する セレッソ大阪の「育てて勝つ」流儀」の中で、クルピ氏のことを「レギュラー第一主義の11人の監督」と表現している。
クルピ氏のチームづくりにおけるマイナス面
クルピ氏の特徴的なやり方は、プラス面もあるがマイナス面ももちろんある。例えば「レギュラー第一主義の11人の監督」という部分。
セレッソ大阪の監督時代、このクルピ氏のやり方に慣れていない新加入の選手は、加入直後にポジションを獲得できないと戸惑いを見せ、チームの戦力となるのに時間がかかってしまうことも多かった。
また、若かりし日の柿谷選手が遅刻を繰り返し徳島ヴォルティスに放出されるということもあったように、クルピ氏には規律に厳しいという一面もある。
これは選手と監督の関係の中でも同様で、選手が監督に対して起用法について意見をすることも、選手の枠を越えた行為だとして規律違反だと判断し、2011年には当時のエースだった乾選手を1ヶ月近くチームの全体練習に参加させなかった。
戦い方の面でマイナスもある。チームを作り上げる為には選手を固定する必要がある。そのためシーズンが進むにつれ相手チームからの研究も進むのだ。
その結果ほとんどのシーズンでかならずシーズン中盤をすぎた頃に一度失速してしまう時期を迎えるのだ。そこからの改善方法も、選手を入れ替え試合の中でブラッシュアップしていく形をとるため時間がかかってしまう場合もある。
クルピ氏が率いたセレッソ大阪では、開幕前のチームビルディングにかかる期間と、シーズン中盤に訪れるチームを改善する期間をどれだけ短くすることができるか、その間にどれだけ勝ち点を重ねることができるかが、チームの成績に直結していた。
日本人コーチに求められる役割
クルピ氏が率いたセレッソ大阪では、この様なマイナス面をカバーするために小菊昭雄コーチが重要な役目を担っていた。多くのブラジル人監督がそうであるように、クルピ氏も今回ガンバ大阪でもコーチに就任することが発表されたマテル氏という腹心がおり、チームに関わる決断のほとんどはマテル氏との2人で行い、日本人コーチはその輪の中に入る事はまずない。
そのため日本人コーチの主な役割は、チームの潤滑油となること。特に先発11人から漏れた多くの選手がモチベーションを維持することができるかどうかは、日本人コーチの重要な役割となる。
それは2018年からクルピ氏が就任するガンバ大阪においても同様だ。11人以外の選手に目を向ける事ができる日本人コーチが、どれだけ役割を果たせるかが重要なポイントとなることは間違いない。
ガンバ大阪には将来有望な若手選手が多く在籍している。彼らのうちの何人かはクルピ氏によって大きなチャンスをつかむことになる可能性が高い。また、クルピ氏はベテランを重用しないイメージもあるかもしれないが決してそんなことはない。
2017年は10位に終わってしまったガンバ大阪。クルピ氏が就任する2018年はどんなチームが出来上がるのだろうか。