Jリーグのクラブに義務付けられている育成組織の保有
日本のプロスポーツの中でJリーグの大きな特徴の1つが、プロチームが若手選手の育成を目的とした育成組織を保有しているという事だろう。
学校教育の一貫としてクラブ活動がスポーツの主流となっている日本では、プロ野球に代表されるように、高校・大学のクラブからプロの世界に飛び込むという形が一般的だ。
しかしサッカーの本場であるヨーロッパでは、学校によるクラブ活動という歴史がほとんどない。ヨーロッパではサッカーチームに入るためには、街のクラブに個人で加入するという形が一般的だ。その為、それぞれのクラブには年代別にチームが構成されている。
これは世界的なプロサッカークラブも同じだ。原点はその街のクラブにあるので原則として年代別のチームを保有し、そこで選手を育成するという形態になっている。
この考え方を取り入れたのがJリーグなのだ。同じサッカーの世界的なスタンダードを導入したため、原則的にはJリーグのチームが年代別のチーム(育成組織)を保有しており、これはJリーグに加入する際のルールとして義務付けられている。
プロチームが育成組織を保有するメリットは、チームにとっても選手にとっても数多い。
今回は2017年にJ1で戦う18チームそれぞれの下部組織出身者の比率を調べてみよう。
J1全体の下部組織出身者比率は23.89%
2016年度の第2種登録チームは日本全国で4111。第2種登録チームとは18歳未満の選手、もしくは高等学校在学中の選手で構成されているチームの事で、いわゆる高校年代のチームにあたる。ここには高校のサッカー部をはじめ、JリーグのU-18チーム、Jリーグに参加していない街クラブのチームも含まれている。
この第2種登録チーム全体におけるJ1クラブのU-18チームの割合は、全体のわずか0.4%にすぎない。そして選手数でいうと、J1クラブのU-18チームは少数精鋭で行っている場合がほとんどなので、さらに大きく比率は下がるだろう。
しかしJリーグ公式ページによると、J1に所属する選手全体での下部組織出身者の割合は23.89%。ほぼ1/5の選手がそれぞれのチームのU-18チームで育成され、現在はそのトップチームでプレーしている。
すぐとなりではトップチームのプロ選手がプレーしている、そしてトップチームに近いトレーニングを積むことができる環境面を考えただけでも、当然の事だと言えるが、この数字を見ると選手側からの視点でプロサッカー選手になるための最短ルートは、それぞれの下部組織に入る事だという事がわかる。
出典:
JFA.jp
2017年J1チーム別下部組織出身者比率ランキング
1位 柏レイソル 53.8%
2位 セレッソ大阪 36.6%
2位 ヴィッセル神戸 35.5%
4位 横浜F・マリノス 34.5%
5位 ガンバ大阪 34.2%
6位 北海道コンサドーレ札幌 28.1%
7位 FC東京 27.3%
8位 大宮アルディージャ 25.8%
8位 ジュビロ磐田 25.8%
10位 鹿島アントラーズ 23.3%
11位 清水エスパルス 20.7%
12位 アルビレックス新潟 17.6%
13位 サンフレッチェ広島 14.3%
14位 ベガルタ仙台 13.8%
15位 川崎フロンターレ 12.9%
16位 浦和レッズ 10.3%
17位 サガン鳥栖 8.7%
18位 ヴァンフォーレ甲府 6.7%
出典:
Jリーグ公式サイト
2017年2月現在
2017年Jリーグ開幕時点での、チーム別下部組織出身者比率ランキングはこちら。
リーグ全体では23.89%となっていた下部組織者比率だが、チームによって大きく異なっている。
26人中14人が下部組織出身者となる柏レイソル
下部組織出身者の比率で最も高いのが、53.8%とずば抜けて高い比率を誇る柏レイソルだ。2017年の開幕時点で登録されている選手数26名のうち、14名が下部組織出身者となっている。
柏レイソルアカデミーと呼ばれるようになったのは、柏レイソルの下部組織が本格的に強化を取り組みだしたのは2000年代に入ってからで、まず行ったのは、柏レイソルアカデミーとしてのプレーモデルを統一させる事だった。
これにより、全カテゴリーの選手が一貫したコンセプトのもとでプレーするようになる。そしてさらに下部組織で積極的な海外遠征を行い、育成年代から世界レベルを体感できるような施策を行なってきた。その後、2015年以降はそのプレーモデルをトップチームにまで導入。
現在では小学生チームから、プロのトップチームまで一貫したコンセプトのもとでプレーしている。この50%を越える数字は、コンセプトによって成立した高い比率だ。
また積極的な海外遠征を行う柏レイソルの下部組織は、世界的な評価も高く育成組織からトップチームを経由せずに、直接ドイツやスペインのクラブに加入した選手も数多く存在している。
関西のクラブが上位に
2番目となる36.6%を記録しているのは、山口蛍選手、柿谷曜一朗選手、杉本健勇選手、丸橋祐介選手など現在のトップチームの主力選手の多くを下部組織出身者で占めるようになったセレッソ大阪だ。
セレッソ大阪は、近年もっとも育成組織の評価を上げているクラブの1で、新たな育成組織として2016年からはU-23チームを編成している。22歳以下の選手を中心に、J3に参入している事も下部組織出身者の比率が高まっている要因の1つだろう。
現在、セレッソ大阪の育成組織には年代別日本代表選手も数多く所属していることを考えると、今後この比率はさらに高まる可能性を秘めている。
3番目となるの35.5%となったのはヴィッセル神戸だ。
関西のJクラブとしては後発となるため、2017年6月時点で下部組織出身の日本代表選手はいないが、豊富な資金力をベースに環境面の充実しているため、今後が楽しみなチームでもある。
5番目、34.2%を記録したのがガンバ大阪だ。
ガンバ大阪は、Jリーグで最も早く下部組織からの育成に力を入れたチームの1つであり、育成組織はクラブの伝統と言っても良いだろう。稲本潤一選手や宮本恒靖氏から宇佐美貴史選手、倉田秋選手、井手口陽介選手と、日本代表経選手も数多い。
また年代別日本代表にも多くの選手を送り出しており、もはやガンバ大阪下部組織出身ということがブランド価値も持つほどだ。
ちなみに中学年代のみとなるが、本田圭佑選手や鹿島アントラーズの昌子源選手はガンバ大阪のジュニアユース出身である。
関東クラブでは
4番目となる34.5%を記録したのは、横浜F・マリノス。
日産自動車時代からの長い歴史を持ち、こちらもいち早くから育成年代の強化に取り組んでいる事が、比率の高い要因だろう。2017年からチームで10番を背負うようになった齋藤学選手や、天野純選手、喜田拓也選手など、チームの主力に下部組織出身者は多い。
7番目となる27.3%を記録しているFC東京は、現在の日本で最も有名な下部組織所属選手、久保健英選手が所属していることでも知られている。
柏レイソルが、理想的な形で下部組織とトップチームの関係をつくりつつある近年。育成組織を充実させ、今後この比率を高めていくのはどのチームになるのか、注目していきたいところだ。