オフシーズンで最も注目を集めた中村俊輔の移籍劇
昨シーズン終盤、これまで多くのベテラン選手がチームを引っ張ってきた横浜F・マリノスはそのベテラン選手に対して、来シーズン厳しい条件を出しているというニュースが飛び交った。チームの象徴であり、現役日本人選手の中でもレジェンドプレーヤーの1人中村俊輔選手に関する報道もその中の1つ。移籍の可能性があるとの情報だった。
38歳のベテラン中村俊輔選手はチーム内で最も年俸の高い選手の1人。横浜F・マリノスのチーム状況を考えるともちろん移籍の可能性があるだろうということは想定できることだ。
そうはいっても中村俊輔選手は、セルティックで伝説的なプレーをみせ、そしてクラブに戻ってきた中村俊輔選手だけは、最終的にチームに残るだろうとほとんどの方は考えていたのではないだろうか。
しかし時間の経過と共にその報道は具体性を持つようになり、加熱。すると2017年1月8日ジュビロ磐田は中村俊輔選手の獲得を発表。それはスポーツ紙やスポーツニュースだけでなく、一般紙や通常のニュース番組でも取りあげられるという大きなニュースだった。
決め手になったのは名波浩監督
報道によると、契約延長を希望した横浜F・マリノスが中村俊輔選手対し最終的に出した条件は年俸1億2千万円、一方ジュビロ磐田からのオファーは8千万円。単純な条件面では横浜F・マリノスの方が上だ。
しかし中村俊輔選手がこの決断を下したのは純粋にサッカーに向き合うという部分、そしてジュビロ磐田の監督を務める名波浩氏の存在が大きかったのだろう。
中村俊輔選手がジュビロ磐田の加入会見で、加入の要因となった要因は「門を開けて待っている」という名波監督の言葉を聞いて中村俊輔選手は「挑戦してみようと思った」と語っている。
その会見で「僕は選手にどんな外的要因が降り掛かっても、守る自信があります」と語る名波監督の存在は、横浜F・マリノスではフロントとの関係に苦しんでいた中村俊輔選手にとって大きな存在だったことが伺い知れる。
日本代表で中村俊輔選手を開放した名波浩選手
この2人の関係、現在の名波浩監督と中村俊輔選手という関係で考えると実際に対戦したのは2016年の1年だけだから、今回の決断にとってそれほど大きな要因では無いだろう。
それよりもこの2人にとって印象的だったのは日本代表のチームメイトだった時。
特に2000年のアジアカップで圧倒的な強さで優勝したチームで見せた2人のコンビネーションは歴代の日本代表でも最も印象的なもので、この大会のイラク戦で見せた中村俊輔選手のFKから名波浩選手がダイレクトボレーで決めたゴールは日本代表史上最も美しいゴールの1つだった。
この2人の関係を考えるにあたっては、当時の日本代表で中村俊輔選手が置かれていた立場も考える必要がある。当時トルシエ監督により左サイドのポジションを与えられていた中村俊輔選手。しかしまだ若かった彼は得意な中央ではなくプレーが限定的になってしまう可能性のあるサイドでのプレーに窮屈さを感じていた。
しかしそんな中村俊輔選手をこのアジアカップで大活躍するまでに導いたのはボランチに入った名波浩選手。名波浩選手は中村俊輔選手と頻繁にポジションを入れ替えることで中村俊輔選手のプレーを輝かせる事に。
おそらくこの当時の両者の関係。そして現在の中村俊輔選手の環境が今回の移籍劇の決め手となったのではないだろうか。
ジュビロ磐田にとっても大きい中村俊輔選手の加入
今回の移籍劇は当然ながら、中村俊輔選手が名波浩監督率いるジュビロ磐田を選択したというだけでなく、ジュビロ磐田が中村俊輔選手を必要としたということでもある。
そしてそれは今シーズンの始動日に練習場に700人ものサポーターを集めたという話題性だけでなく、戦術的な要素も大きな要因の1つだ。
昨シーズンのジュビロ磐田はJ1残留、勝ち点40を目標にスタートした。そして結果は無事残留は果たしたものの、ファーストステージでは目標を上回るペースとなる勝ち点23を獲得し快進撃だったがセカンドステージは勝ち点13にとどまる事に。勝ち点をペースを下げてしまった要因の1つはトップ下でプレーしていた小林祐希選手の海外移籍だった。
トップ下を務める事ができる選手はそんなジュビロ磐田にとって必要だったポジション。そんな中で中村俊輔選手は小林祐希選手の抜けた穴を埋める以上の活躍が期待できる、チームにとって必要な選手だったのだ。
中村俊輔選手の獲得で期待できる若手の成長
また現在のジュビロ磐田は、経験は浅いが可能性もある選手が数多く所属するチームでもある。特に期待を集めているのはプロ入り2年目となる小川航基選手と、昌平高校からプロ入りとなる針谷岳晃選手。この2人は今年開催されるFIFA U-20ワールドカップでの活躍を期待される選手でもある。中村俊輔選手の加入はこの2人に大きな影響を与える可能性がある。特に小川航基選手は将来の日本代表をも支える可能性があるストライカーとして昨シーズンプロ入り初年度から活躍を期待されながらも上手くいかなかった1年を過ごしており、本人としても今年にかける思いが強いだろうから、そんな小川航基選手にとって日本屈指のパサーであり、年は離れているが高校の先輩でもある中村俊輔選手の存在は大きいはずだ。
またもう1人の針谷岳晃選手は昨年U-19日本代表に選出されると瞬く間に注目を集める様になったゲームメイカー型ボランチ。そんな針谷選手にとって日本屈指のゲームメイカー中村俊輔選手と共にプレーする機会を得たことは財産以外の何物でもない。
野獣系ストライカー川又堅碁選手の再ブレイクにも期待
またジュビロ磐田は日本代表経験もある川又堅碁選手も獲得している。
昨シーズンまで前線でチームを支えたジェイ・ボスロイド選手が昨シーズン限りで退団しており、フォワードの軸として期待されての獲得。
しかし昨シーズンのの川又選手は、所属チームの迷走もあり日本代表に選出されていた一昨年よりも出場機会が減少、日本代表からも離れている。
しかし持ち味であるスピードやフィジカルの強さ、泥臭さは健在。ファジアーノ岡山でブレイクのきっかけをつかみ、2013年にアルビレックス新潟でブレイクした当時のプレーを取り戻す事し再ブレイクを果たす事ができるかにも期待が集まる。
中村俊輔選手がコンスタントにプレーし、川又選手が躍動する時、ジュビロ磐田は黄金期復活に向けての大きな一歩を踏み出すことになるかもしれない。