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【アジアカップ】カタールやベトナム、躍進の裏にある国家規模の育成プロジェクト

2019 2/5 11:00橘ナオヤ
カタール代表,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

カタールが大会初優勝

AFCアジアカップ2019は、中東の小国カタールが初の決勝進出で、過去4度優勝経験のある日本を3-1で下し、初優勝を果たした。今大会、日本はサウジアラビアやイランというこれまで苦戦を強いられてきた国々に快勝した反面、ベトナムやカタールといったサッカーでは強い印象のなかった国々に苦戦を強いられた。その背景には、各国独自のサッカーを目指す大きなプロジェクトの存在があった。

カタールの「帰化選手軍団」はお国柄

カタールは帰化選手の問題が騒がれているように、多くの代表選手が海外にルーツを持つ。そのため、「身体能力に長けた選手を買いあさる帰化選手軍団」と言われることもある。その指摘はもっともだが、これはカタールという国らしい戦略でもあるのだ。

もともとカタール国民は人口が少なく、その多くが富裕層である。ブラジルやアフリカ諸国のように国民がスポーツで成功を掴もうという野心を抱く環境ではない。また多くの移民労働者を受け入れており、外部から人材を受け入れることに抵抗がない。

そのため、国のスポーツを強化しようというプロジェクトにおいても、国内から才能を発掘するのではなく、有望な若手を家族ごと移住させるという手法が違和感なく受け入れられる。移住者にカタール国籍を与え、親には仕事を、子どもには後述するアカデミーで一貫した育成を施すことで、代表チームの強化を図ってきたのだ。

欧州仕込みのアカデミーで育ったアリやアフィフが躍動

また決勝で見せつけられたように、カタールは戦術のチームだ。このチーム作りの背景には、一貫した育成に基づく「カタールサッカー」構築プロジェクトの存在がある。

カタールにはアスパイア・アカデミーというフランスのクレール・フォンテーヌ、クラブで言えばバルセロナのラ・マシアのような、欧州型の一貫した育成アカデミーがある。バルサユース、そしてこのアスパイア・アカデミーでコーチ経験のあるフェリックス・サンチェス・バス監督は、2013年からアンダー世代の代表を指導していた。

大会記録を更新して得点王に輝いたアリと、アシストランキングで1位になったアクラム・アフィフは7年間、世代別の代表で共にプレーしている。アリの9得点のうち、アクラム・アフィフのアシストから生まれたゴールはなんと5つ。息がぴったりの二人は、ともにアスパイア・アカデミー卒業生だ。彼らは国が目指すサッカーの形を叩き込まれていたからこそ、決勝の舞台でも戦術的な意思統一ができていた。

このようにカタールは国をあげて一貫した戦術をチームに植え付け、2014年にはAFCのU19選手権で初優勝した。そして今回、ついにアジア王者に輝いた。ワールドカップ2022年大会ではホスト国として初出場。さらなる野望を抱き、今後も力をつけていくだろう。

ギグスも参画する国内最大アカデミーがベトナム躍進を目指す

もうひとつ注目したいのが、準々決勝で日本と対戦したベトナムだ。決勝トーナメント1回戦のサウジアラビアや準決勝のイランと異なり、日本はカタール、そしてベトナムにも個々のタレント力ではなくチーム力に苦しめられた。

ここにも育成システムの充実化と、「ベトナムのサッカー」を形作る大きなプロジェクトの存在がある。国内最大のサッカーアカデミー「ベトナムサッカー選手才能開発投資ファンド(PROMOTION FUND VIETNAMESE FOOTBALL TALENTS:PVF)だ。

PVFはベトナム最大の財閥、不動産大手のビングループが出資する民間の組織だが、その実態はまるでナショナルトレーニングセンターのようだ。2008年の設立以来、全国から優秀な少年を育成し、国内のアンダー世代の大会では常に優勝候補。そして国内、日本や韓国を含むアジア各地のリーグに選手を輩出している。

自前のプロクラブは持たず、ベトナムサッカーのレベルをあげることを目標に掲げている。それはすなわちベトナム代表チームの進化を意味し、民間組織ながら、ワールドカップ2030年大会にベトナム代表が出場することをPVFの目標としている。

ヘッドコーチのホアン・アイン・トゥアンはU-20代表監督も兼任し、ベトナムで唯一のDFB(ドイツサッカー連盟)のA級指導者ライセンスを持つ。堅守速攻のスタイルでチームを史上初のU-20W杯出場に導いた。

また、PVFのテクニカルディレクターには元日本代表監督フィリップ・トルシエ氏、そしてアカデミーディレクターにライアン・ギグス氏、テクニカルアドバイザーにポール・スコールズ氏という元マンチェスター・ユナイテッドの二人が就いている。ギグスはPVFの新施設お披露目のイベントに際し、「いずれは、マンチャスター・ユナイテッドでもプレーできる選手を輩出したい」と意気込んでいる。パク・チソン、香川真司に続くアジア人選手はベトナムから生まれるかもしれない。

「日本のサッカー」を作るプロジェクトの必要性

今大会は出場国数の拡大によるレベル低下が懸念されていたが、カタールやベトナムのほか、タイやUAEなど東南アジアや中東諸国の躍進が目立った。アジアサッカーは日進月歩で進化しており、日韓やオーストラリア、イランが頂点を争う時代は終わった。日本はこれまでのように才能ある選手を輩出するだけではアジアの頂点に立つことだけでなく、W杯出場権獲得も難しくなるだろう。

意思の疎通に苦労しない日本人指揮官であれば良いということではないし、監督の国籍や気性の問題でもない。その時々の「自分たちのサッカー」ではなく「日本のサッカー」を戦術の観点から築くためには、育成年代から一貫して続ける必要がある。日本がそうしていないとは言わないが、この問題を改めて気づかされたのが、この敗戦の一番の収穫だ。年代別代表だけではなく、Jリーグも含む日本サッカー全体が取り組むべき問題としてもう一度見直す必要がある。

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