縦に速い攻撃、攻守の切り替えのスピードがポイントとなった今大会
今大会を戦術的に振り返ると、2014年の優勝国ドイツや2010年の優勝国スペインがボールを保持しながら戦うチームだったことからガラリとかわり、自陣でブロックを作り相手を引き込んだ状態からカウンターを狙う「縦に速い攻撃」を行うチームが躍進をみせた大会だった。勝負を分けるポイントとなっていたのは「攻守の切り替えのスピード」だったと言えるだろう。
ⒸSPAIA
優勝したフランスもその2つに則ったチームだった。全7試合中ボール保持率が50%を超えたのはグループリーグの2試合(オーストラリア戦、デンマーク戦)と準々決勝ウルグアイ戦の3試合のみ。今大会での平均ボール保持率が約47%で、準決勝、決勝の2試合は共に30%台でしかない。
際立ったフランスの戦術的柔軟性
ただし、フランスの強さを表すのはこれだけでは十分ではない。フランスが参加国中最も優れていた点は「戦術の柔軟性」だった。それを最も象徴していたゲームが準決勝のベルギー戦だろう。
戦術的な優位性を活かしブラジルを下したベルギーは準決勝フランス戦ではまた新たなプランを取っていた。守備時は前線にアザール、ルカク、デ・ブライネを並べトップ下にフェライニを置く4-2-1-3。攻撃に入ると右WGのデ・ブライネが中央に下がってトップ下でフェライニと並び、守備時には右SBのシャドリが右WGに上がってくる3-2-2-3の形を取ってきたのだ。
ⒸSPAIA
序盤はこのベルギーの変化に混乱させられることになるフランス。しかしここからの対応は実に早かった。全体のブロックを下げアザールとシャドリのWGに素早いアプローチを仕掛けることで中盤のボールを奪う場面を増やすと、20分を過ぎた頃からはチャンスの数でも上回ることになる。
ならば、とベルギーは60分に守備的MFのデンベレに代えてメルテンスを投入。デ・ブライネを中盤に下げ、高さのあるフェライニとルカクを前線で並べる2トップに。高さで勝負しようという狙いだ。しかしこれに対してもフランスはすぐさま対応。同じく高さのあるポグバが最終ラインに入って跳ね返す。
フランスはベルギーが仕掛けてきた形をことごとく対応。結果1-0で下したのだ。
キーマンはオリビエ・ジルー
こういった戦術的な柔軟性はここ数年のUEFAチャンピオンズリーグなどクラブレベルでは必須とされる項目となっていた。しかし代表チームのましてや強豪国でここまでの柔軟性をもたせることは不可能に近い。というのも代表チームでは各クラブのエースが複数人集まるからだ。
代表監督に求められるのはそれらの選手を同時に起用すること。もちろんメンバー選考は監督の専任事項となるので起用しない判断をすることもできる。しかし代表監督はクラブ監督とはことなり国民やメディアからの多くのプレッシャーにさらされる。
その結果、どうしても優先されてしまうのはスター選手を同時に起用すること。となると戦術的な柔軟性をもたせることは難しくなる。
もちろんフランスのデシャン監督もこのプレッシャーを受けていたことは予想に難くない。オーストラリアとの開幕戦、フランスはスタメンにデンベレ、グリーズマン、エムバペの3トップ、中盤でポグバ、トリソ、カンテを起用した4-3-3を採用。スター選手を同時にピッチに並べやすい布陣を選択してきたからだ。
ⒸSPAIA
しかしこの試合、勝利したものの厳しい試合になったことで2戦目からはCFにジルーを起用した4-2-3-1に変更した。その結果デンベレやトリソらは出場機会を減らすことになった。ジルーは最後までノーゴールだったにもかかわらず、デシャン監督はジルーを起用し続けた。
これは32歳のベテランながら献身的なプレーを見せるジルーが入ることで、精度の高い4-4-2の守備ブロックが完成し、攻撃では前線で身体を張ってターゲットになる選手が生まれたからだ。これにより戦術的な幅が大きく広がったのだ。
大会通じて無得点、さらには枠内シュートも0とFWとしては不名誉な記録も残したが、フランス優勝のキーマンはジルーだった。