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伝統の英国サッカーがW杯優勝を阻む イングランドが国際大会に弱い理由とは

2018 7/13 12:51Takuya Nagata
イングランド代表選手,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

クロアチアが延長戦の末、2-1勝利で初のワールドカップ決勝戦進出

2018年ワールドカップロシア大会は7月11日、準決勝クロアチア対イングランドの試合を行い、クロアチアが同国史上初のワールドカップ決勝戦進出を決めた。

イングランドが前半5分に、得意のセットプレーからDFキーラン・トリッピアーが直接FKを決めて先制するも、後半23分右サイドからのクロスにFWマリオ・マンジュキッチが左足を伸ばし、クロアチアが同点に追いつく。1-1で迎えた延長戦後半4分に再びマンジュキッチ。一瞬のすきにDFラインの裏に抜け出すとワンタッチでゴールファーサイドに流し込みイングランドを破った。

クロアチアは16日午前0時(日本時間)からフランスと決勝戦。イングランドは、14日23時からベルギーと3位決定戦を戦う。

一皮むけたイングランド

イングランドは2017年のU 20ワールドカップとU 17ワールドカップで優勝しており、そのまま育成世代での成果がロシア大会に反映されている。出場したA代表も、ナイジェリアの25.9歳に次いで若い2位タイの平均年齢26歳というチーム構成。ガレス・サウスゲート監督の下、チームの一体感があり、高次元で展開されるイングランド・サッカーが国際大会でどこまで通用するか注目されていた。

イングランド代表は、世界屈指の実力と人気を集めるプレミアリーグのスター選手が多くいるが、今まで国際大会では不完全燃焼で敗退することが多かった。伝統的に大柄な体格を武器とした守備には定評があるが、攻撃が単調で強豪国の守備を崩せず、PK戦で敗退するというのが一つのお約束になっていた。

しかし、今大会のイングランドは、得点王ランキング首位のハリー・ケインを擁し、得点力、決定力の高さが際立つ。そしてコロンビアとの決勝トーナメント一回戦では、ワールドカップで初めてPK戦で勝利を収め、不名誉なジンクスを打ち破った。

国際大会にイングランドがやはり弱い理由

いつもとは違う。そう感じさせたイングランドだったが、準決勝では決勝トーナメント2戦連続でPKにもつれ込み消耗の大きかったクロアチア相手に、後半で追いつかれ延長戦で逆転負けを喫した。

世界中の有力選手が集まる最高峰のプレミアリーグがありながら、イングランド代表はなぜ国際大会で優勝できないのか。それには様々な要因があるが、一つはイングランドのスタイルだ。イングランド国内では、イングランド・フットボールとコンチネンタル・フットボールとプレースタイルを大きく2つに分けて考える。つまり、欧州大陸のサッカーとイングランド・サッカーは別物だというのだ。

国際大会では明らかなファールのような激しいフィジカルコンタクトでも、イングランドでは笛が鳴らず流されることが多い。英国は山が少なく、シーズン中の冬季は雨が多いとう環境条件のため地面の状態が悪く、プロからアマチュアまでぬかるんだピッチでプレーしている。 グラウンドが悪いと足技が利かないため、そこで多用されるのが、フィジカルを重視したキック&ラッシュという戦術だ。重馬場のような地面で自陣ゴールに近いエリアで細かいパスをつなぐとボールは失速しやすく、カットされ失点を招くリスクが高い。そのため味方へのボールの受け渡しを度外視し、とにかくロングフィードで一気に前線までボールを送り出すという戦法が編み出された。

監督により違いが出るが、プレミアリーグでの戦術も、基本的にこのスタイルを超一流選手たちが洗練させたものと考えてよい。当然、イングランド育ちの選手で固められる代表チームには、このスタイルが浸透している。今大会でのイングランド代表も、ロングパスと高さを多用したダイナミックな攻撃で相手ゴールを陥れた。

一方で、2018年ロシアW杯のイングランド全試合のアタッキングサードのパス成功率に注目すると、イングランドが相手を上回ったのは、ワールドカップ初出場で明らかな格下のパナマ戦(6-1勝利)のみ。しかもその差は僅かに0.9%(イングランド79.5%:パナマ78.4%)だった。敗れた準決勝クロアチア戦は、イングランド63.6%に対して、クロアチアが67.5%。つまり、どれだけ一流になろうと、イングランドの選手は、つながるか分からなくても前線にボールを放り込んで、そこでこぼれ球を拾えばよいと考えている。いたずらにポゼッションを失った結果、クロアチアに逆転を許してしまった。

サッカー母国のプライド貫いて覇者になるか、スタイルの変更か

イングランドはまたしても国外での国際大会初優勝はならなかった。ちなみにイングランドの国際大会優勝は、母国開催の1966年ワールドカップのみである。

1930年にワールドカップ第一回大会が開催された際、イングランドはサッカー発祥の地である母国イングランドが一番強いに決まっているとし、出場すらしなかった。この母国のプライドは現在にも脈々と受け継がれている。

プレミアリーグの年俸が他のリーグより高い上に、スタイルが特殊なことから他国でイングランド選手が活躍している例は少ない。国際大会で優勝するためには、年俸が低くても思い切って海外リーグに挑戦する心意気も必要かもしれない。欧州大陸のサッカーを吸収した選手が多くなれば、イングランドが地元以外のワールドカップで初優勝する日も来るに違いない。

その一方で、イングランドがプライドを貫き、どこまでイングランド・フットボールを進化させるかもみてみたい気もする。