日本戦の最後の形をベースに挑んだベルギー
ベスト16での日本との激闘も記憶に新しいベルギーはベスト8で優勝候補筆頭のブラジルと対戦。2-1でブラジルを下し32年ぶりとなるベスト4進出を決めた。日本との激闘を経て1つ進化したベルギーがそこにはいた。
優勝候補筆頭のブラジルとの対戦に際し、ベルギーは先発メンバー、システムの変更を行ってきた。
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先発から外れたのは、日本戦を含めこれまで3試合に先発していたメルテンスとカラスコ。代わりに入ったのは日本戦で途中出場を果たしたフェライニとシャドリ。日本戦で逆転に成功した11人だ。
そして布陣もキックオフ直後こそ、これまでと同じ3-4-2-1だったが、右WBのムニエが右SBへと下がりベルトンゲンが左SBへとスライドし、4-3-3の形にシフト。中盤ではアンカーにヴィツェルが入る形も日本戦での終盤の形と同じである。
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ただしこの試合の4-3-3はさらなる変化を見せていた。
それは中盤から前の布陣。ヴィツェルの前、インサイドハーフに入るのはフェライニとシャドリ、そして前線の3トップは左にアザール、右にルカク、そして中央にデ・ブライネという並びに。これまでのベルギーならば中央に構えるのは190cm / 94kgの屈強なフィジカルにスピードとテクニックを兼ね備えたルカクだった。しかしこの試合ではルカクはあえて右に配置し、デ・ブライネを0トップ気味に中央に入れてきた。
ルカクとアザールの2人でブラジルの4バック全員を止める
ベルギーのこの布陣は見事にハマった。
最終的にはボール保持率でブラジルが58%、ベルギーが42%となった様に、この両チームが得意とする戦い方ではブラジルがボールを保持する時間が長くなる。
そしてブラジルのボール保持攻撃でポイントとなっているのは両SBの攻め上がり。4-3-3の布陣を敷くブラジルは、3トップの両サイドに入るネイマールとウィリアンが中央に入り、その外側をマルセロとファグネルの両SBが上がり攻撃の幅を作る。
そこでベルギーが狙ったのは、ブラジルの両SBに3トップで蓋をすること。
3トップの中央に入るデ・ブライネは守備時に中盤の3人を助けるため下がってくるポジションを取るが、右のルカクと左のアザールは前線に残る。この2人が攻め残る形はこれまでの試合でも行っていたが、ブラジル戦では攻め残る場所をサイドに変えた。
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これによりブラジルのSBは前線に上がる機会を制限された。目の前にルカクとアザールが常に残っているからだ。
また右にルカク、左にアザールという左右の配置も十分に計算されたものだった。
アザールは世界屈指のドリブラーであるが、ブラジルの左SBマルセロも世界屈指の選手である。そんなマルセロに足りないものがあるとしたらサイズ。174cm / 80kgのマルセロに対して190cm / 94kgのルカクをぶつけ、アザールの相手としたのは今大会で「ダニ・アウベスの代役」として右SBを務めるファグネル。つまり両サイドで1対1の勝算があるマッチアップとなっていた。
そしてこのサイドの質的優位は、SBがCBのサポートを必要とするため最終ライン全てに影響を与えることとなる。
その結果自由を得たのが前線中央から少し下がり目のCF(0トップ)としてプレーしているデ・ブライネ。デ・ブライネが少し下がり目の位置を取った時には本来ならCBがアプローチをかけるべきなのだが、前に出るとSBのサポートポジションを取れなくなるため出られなくなっていた。
ベルギーはこの中央で浮いているデ・ブライネを起点に立ち上がりからブラジルに対し何度もカウンターを繰り出すことに成功。先制点はCKからフェルナンジーニョによるオウンゴールだったが、このCKを獲得したのは浮いたデ・ブライネからパスを受けたフェライニによるシュートだった。
さらに進化したCKからのカウンター
またベルギーはもう1つ策を用意していた。その策とは日本戦で決勝ゴールに繋がったCKでの守備。日本戦で成功した相手CKからのカウンターを明確に狙っていた。
ベルギーはCKの守備でルカクを前線に残した。高さが重要となる相手のCKでは通常190cmの選手を前線に残すことはありえない。しかしこの試合では169cmのメルテンスに代わって194cmのフェライニが先発出場。ルカクが下がらなくてもフェライニさえ下がればこれまでの試合と同じレベルの高さは担保できていることになる。
その結果これまでの試合でルカクが担っていたペナルティーエリア内での守備はフェライニが担当し、メルテンスが担っていた前線に残る役目をルカクが担当。
これが31分にデ・ブライネが決めた追加点につながった。ブラジルのCKを跳ね返したボールを前線でルカクがしっかりと収め、さらにここから反転しボールを持ち出した。これによりデ・ブライネが上がる時間を作り強烈なミドルシュートへと繋がった。
2点ビハインドとなったブラジルは、この後4-4-2に変更することでカウンターの起点となるデ・ブライネを封じ、さらにルカクに対してはCBのミランダをマッチアップさせる形で対応。アザールのサイドにドウグラス・コスタを投入することで1点を返したものの反撃もここまで。
ベルギーもベルマーレンを投入しCBがずらりと並ぶ5バックで対応しそのまま2-1での逃げ切りに成功。ベルギーは会心の勝利でブラジルを下し、1986年メキシコ大会以来32年ぶりとなるベスト4進出を決めた。
日本戦までは、強烈なタレントを武器に相手よりも自分たちの都合を優先させた「傲慢なチーム」だったベルギー。しかしベスト16で日本にその隙を突かれ敗退寸前にまで追い込まれたことで、タレントと戦術が高いレベルで融合した「ホンモノの強いチーム」へと進化していた。