男女の歪さを正すべき、思いがけない支持の声
アルゼンチン女子サッカー屈指の強豪でブエノスアイレスを拠点とするウルキザ(UAI Urquiza)をシーズン途中で退団させられたマカレナ・サンチェス(27歳)は、女子がプロサッカー選手として認めてもらえないのは、男女不平等だとしてクラブとアルゼンチンサッカー協会を相手取り、在籍した7年分の支払いを請求する訴えを起こした。
リーベル・プレートやボカ・ジュニアーズを差し置いて、昨季アルゼンチン女子リーグで優勝し、コパ・リベルタドーレスへの出場権を得たウルキザ。一方で、同クラブの男子チームは、アルゼンチン3部のプリメラBメトロポリタナに所属し、女子の栄光には見劣りするが、プロチームとして運営している。
マカレナ・サンチェスの手当てが、交通費補助として月に400アルゼンチンペソ(約1000円)支払われるだけなのと比べると、何ともイビツに映る。
マカレナ・サンチェスは、「男子の方がいい給料をもらって、いい環境でサッカー選手として生活しているのは納得いかない。女子の方がいい結果を出していて、国際大会にも出場している。しかし、女子は劣っていると見なされている。環境もよくない、プロとしてやっていく条件が揃っていない。」と主張。
この発言だけだとクビになり、言いがかりをつけているとも感じられるが、続けてこう述べている。「それでも、うちはまだいい方。他のクラブは、選手が練習着やチーム運営を維持するためにお金を払ってプレーしている。クラブやアルゼンチンサッカー協会は、女子をプロ選手として認識しておらず、女性の権利が踏みにじられている。男尊女卑以外の何ものでもない。男性の職業とされていたものに女子が入ってくるのを好ましく思っていない。女性にもプロ選手になる権利がある。」
マカレナ・サンチェスは広い視野でアルゼンチンサッカー全体の変革を求めているのだ。この訴訟に対し、本人も驚くほどの支持をアルゼンチンの多くのサッカー選手、チーム、女性権利団体が表明している。
日本サッカーにも男女差別があった
サッカー界の男女差別について、日本にもスポットが当たったことがある。
それは2012年ロンドンオリンピック。男子チームがビジネスクラスでロンドン入りしたのに対して、女子はエコノミークラス。男子は23歳以下の若手選手が中心で構成されていたのに対し、女子はフル代表が参加。しかもこれは、女子が世界一になった翌年の出来事だった。
英国メディアが取り上げたことで日本の男女差別が世界に注目される形となり、帰国便は男女ともビジネスクラスになった。
母国イングランドで過去に露骨な差別、女子サッカー禁止
日本の男女差別を指摘した英国だが、20世紀に入り、サッカーの母国イングランドでは、さらに露骨な男女差別があった。
第一次世界大戦で男子が国を留守にすると、女子サッカーの人気が上昇し、5万人の観衆が集まる試合もしばしばだった。しかし、女子サッカーの人気の高さに危機感を持った男子チームの運営者などの思惑により、1921年にイングランドサッカー協会(FA)は、女子サッカーチームのグラウンドの使用を禁止してしまったのだ。
1970年に禁止令が解除されるまでイングランドの女子サッカーは暗黒の時代を経験した。2008年にFAが公式に謝罪し、禁止令解除から半世紀近くが経過するが、イングランドの女子サッカーは、当時の人気を取り戻すには至っていない。
平等の精神のもと社会全体で女子サッカー支援を
プロスポーツが成り立つには、実力だけではなく、どれだけ集客が出来て、スポンサーがついて、放映権料が入ってくるかといった、収益と言うシビアな面がある。
アメリカンフットボールでは、下着をまとった容姿の優れる女性が行う大会「ランジェリーフットボールリーグ」が興行として成り立っているが、サッカーでは国際サッカー連盟(FIFA)のブラッター前会長が、女子サッカー人気向上のために、肌露出の多いピチピチのユニフォームを提案したところ、セクハラ発言として猛反発に遭った。
現状、男女サッカーには大きな格差が存在する。それを全て一斉に是正するのは無理があるだろう。しかし、女子サッカーの発展のためには、社会全体で根気強く改善を進めていく姿勢が求められる。