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サッカーから学ぶスポーツメンタル 「ハイプレッシャー」にどう振る舞うべきか?

サッカー,スポーツメンタル
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サッカーワールドカップで「ハイプレッシャー」と向き合う

W杯サッカーは4年に1度の開催で、オリンピック、W杯ラグビーと並び世界三大スポーツイベントである。出場する選手や監督をはじめとしたスタッフは国を背負って試合をする。その為、相当な「ハイプレッシャー」と戦わないといけない。

スポーツ選手は、「技」や「体」と共に「心」を磨いている。いわゆる「メンタル」である。メンタルトレーニングを導入する選手も以前より多くなった。もちろん「ハイプレッシャー」との向き合い方も日頃から取り組んでいる。では、どのように日頃から取り組んでいるのだろうか?株式会社アイディアヒューマンサポートサービス(東京都渋谷区)のスポーツメンタルトレーナー、田中誠忠(たなかのぶただ)さんに聞いてみた。



「ハイプレッシャー」にかかった時こそ「自己分析」が大事

トップ選手になればなるほど「ハイプレッシャー」を受け続ける。言い換えると「ハイプレッシャー」を受けるぐらい実績を作ってきた選手とも言える。田中さんは「ハイプレッシャーを感じた時こそ、どういう選手になりたかったのか? なぜこの競技をしたかったのか? もう一度その時のミッションに立ち返り、ハイプレッシャーを受けた時にどうなるのか分析することが重要だ」と話す。いわゆる「自己分析」である。

プレッシャーを受けた時に「勝てるかな?」という不安になり、練習やっても仕方ないとモチベーションが下がる。きつい練習から目を背け、自分が頑張る事より相手を蹴落として勝った方が良いと考えてしまう事もあるだろう。
田中さんは「自己分析をジュニアの時から継続する選手は、自分自身のメンタルが進化していることを肌で感じることができる」と話した。継続して「自己分析」をすることの重要性は、継続した本人が一番実感をしているようだ。



「自己分析」の後は「勝つための行動」

自分自身の分析をした上で、次に取り組みたいのが、どのように「行動」をするのか。田中さんは「行動のマネジメントが必要」と話す。具体的には「勝つために必要な行動をする」とした。
アスリートは不安をかき消すために、オーバーワークをしがちだ。しかし、トップアスリートになると「体力もメンタルもあるのでオーバーワークができる」という傾向があるようだ。

では「勝つために必要な行動」とは何だろう? 深夜まで練習することなのか。体の手入れをすることなのか。不安があればメンタルトレーナーに相談することなのか。どれも「必要な行動」となる要素である。田中さんは「勝つために必要な行動は得意な練習ばかりをすることではない。
まわりから「よく頑張っているな」と褒められ、満足感はあるが達成感とは違う。自分の課題を見つけ、やるべき行動に目を向けることが行動のマネジメント」と話す。目の前にある課題を克服することに主眼をおいて「勝つために必要な行動」をすることが望ましいようだ。



「勝てる保証」はないが「チャレンジできること」に価値を持つ

ここまで「自己分析」をし「勝つための行動をする」と書いてきたが、「勝てる保証」はどこにもない。どのくらいの期間で、どれだけのボリュームで練習をすれば「勝てる」という保証もない。W杯サッカーでも各国を代表するスター選手が一堂に勢ぞろいし頂点を目指すが、王者になれる国はただ一つである。今回32か国参加しているが、1か国が勝者で残りは敗者となる。

日本代表に選ばれるためには何が必要か? 田中さんは「自分が目標にチャレンジをすることに価値を感じているか」とした。勝つかどうかわからない。選ばれるかどうかわからない。しかし、選ばれるためにチャレンジをすることでやりがいを持つこともできる。そして、楽しみや価値を自分自身がどれだけ自覚できるかだ。 「ハイプレッシャー」がかかる中で、試合前に「勝てるか?」と思いながらも、日本代表に自分がチャレンジをしたいというミッションがあるはずだ。「自分は日本代表にチャレンジできる人」と思うことが大事だ。

「日本代表にチャレンジできる人生なんて、滅多にない。たとえ選ばれなかったとしても、そのステージに自分自身が立っている事が重要」と田中さんは話す。多くの人に応援されながらも、県大会決勝などにチャレンジできるステージを作り上げたのは選手本人である。だからこそ、チャレンジすることに喜びを感じてほしいのだ。



「ハイプレッシャー」にどう振る舞うべきか?

田中さんは「ハイプレッシャー」に向き合うために、振る舞う「やり方」ではなく、自分自身の「あり方」が重要だとした。 「あり方」とは「自分を何者として扱っているか」ということを指し、今回の場合は「チャレンジできる自分として扱う」ことを意味する。そして「試合の結果によってもたらされたあり方が作られるのではなく、毎日の練習から自分自身の『あり方』を作る事が大事」と田中さんは力説する。

例えば、50mダッシュを10本行う練習があったと仮定する。10本目まで如何に全力で走り切るという毎日のチャレンジをやり切れるかが大事になる。田中さんは「日々の練習から全力で出し尽くして、自分はできるという『あり方』を作っていく。自分のあり方を育てるのは試合の結果による自信から作るわけではない。日々の練習でどれだけ妥協せずにやりきったか、1本のシュート、1本のダッシュ、やり切った自分を作り上げてきたか。日々の積み重ねからハイプレッシャーを受けても、全力でやり切った経験が支えてくれる。それが嫌いな基礎練習だったとしても、メンタルを鍛えると思って取り組んでほしい」と話した。

チームスポーツの場合、選手は勝敗で評価を受け、個人成績でも評価が付けられる。自分自身の全力を出し切るためには、日々の練習から「あり方」を作っていく。たとえ「ハイプレッシャー」を受けていても、日頃の経験から「ハイプレッシャー」と感じなくなり、自分自身のパフォーマンスを出すことも可能になる。

世界で戦うアスリートは、様々な「ハイプレッシャー」と向き合いながら、競技をしている。彼らは見えないところ、つまり「日々の練習」から「技」「体」と共に「心」も鍛えている。勝ち負けやパフォーマンスだけではない、そこに至る彼らの想いを感じながらスポーツ観戦をしてほしいと願うばかりだ。

田中誠忠

Ⓒマンティー・チダ