不作と言われた時代に終わりを迎えるイングランド
2017年に開催されたU20-W杯は、イングランド代表の優勝で幕を閉じた。
イングランド代表はグループステージを1位で抜けると、決勝トーナメントでも粘り強さを見せて勝利を積み上げた。このグループステージでは3試合5得点1失点、勝ち点は7。きっちりと決めるべきところで決めて、抜け出した印象を受ける。
イングランド代表は、A代表の方がW杯やEUROで思うような成績を出せておらず、長年若手が不作とされてきた。しかし、今回のU20代表のタイトル獲得を受け、A代表への戦力の底上げが期待されている。
特にドミニク・ソランケ選手(以下、敬称略)の活躍は印象的だった。彼は4得点を挙げ、大会のMVPに選出されている。その中でも準決勝のイタリア代表を破った2得点は素晴らしかった。相手GKからのボールをふかすことなく冷静にゴールに沈めた1点、遠い距離からの強烈なミドルシュートでの1点。しっかりとゴールに迫る意思が感じられる素晴らしい得点だった。
さらには、どこでボールを持っても有効的なドリブルやパスを繰り出し、味方を活かす術を持っていることを示した。背番号10の名に恥じない素晴らしい出来だった。
彼は2017-18シーズンから、トップチームでの出番が期待できないチェルシーFCを脱し、リヴァプールFCでプレーすることが決定している。
この大会での活躍もあり、彼には大きなプレッシャーがかけられることも予想されるが、それに負けずに頑張ってもらいたいものだ。
世界を驚かせたベネズエラ代表の大躍進
イングランド代表の成長もかなりのニュースではあったが、それ以上に驚くべきはベネズエラ代表の活躍だ。彼らのA代表もイングランドのA代表と同じく国際舞台では良い成績を残してはいない。
しかし、このU20代表の方は違った。グループステージでは3試合3勝10得点、失点はなんと0。攻撃面と守備面双方でずば抜けた強さを発揮した。決勝戦ではイングランド代表に敗れ2位に終わったが、確かな手応えを得た大会となったはずだ。
特にバヌアツ代表を相手に7点を挙げた試合は圧巻だ。縦横無尽にボールを回し続け、思うがままにゴールを奪っていった。
そもそもベネズエラでは、サッカーは不人気のスポーツだった。ベネズエラと言えば野球の方がイメージが強い方も多いだろう。
しかし、大の野球ファンだった前大統領の死から3年経ち、コパ・アメリカでの躍進、プレミアリーグでのサロモン・ロンドン選手ら活躍の影響を受け、少しずつではあるが確実にサッカー人気が膨らんできた。その成果がここにきてU20代表で爆発した印象だ。
スピード感溢れるサッカーは観ていて飽きない。まさに南米ならではのサッカーという印象だ。
準決勝のアメリカ代表との試合でも、2-1で勝利した。引いて守るアメリカ代表に対し次々とクロスを放り込み、試合を支配していた。
なお、日本代表も決勝トーナメントの1回戦で敗れている。
不振のリーグとは無縁のイタリアU20代表
イタリアのリーグであるセリエAは、ユヴェントスFCを除いて戦力のダウンが続いている。
多くのスター選手が流出し、クラブの看板と呼べるような選手が不足。当然収益も期待できず、経営が厳しいクラブも少なくない。かつての黄金時代は遠い日のことのようだ。
名門と呼ばれたACミランやインテルナツィオナーレ・ミラノは、上位を争ってはいない。常に寂しい風景が広がっている。
しかし、U20代表の方は不振とは無縁のようだ。結果的には3位で大会を終えたが、未来は明るい。ロランド・マンドラゴラ選手のパスワーク、ベストイレブンにも選出されたNEXTロッベンことリカルド・オルソリーニ選手(以下、敬称略)の突破力は素晴らしかった。
オルソリーニは縦への突破力に加えて、カットインしてのゲームメイクが非常に上手い。自身にマークを引きつけて、味方の攻撃をサポートすることができる。まだ若い相手DF達は彼の動きに翻弄され、いくつもの危険な場面を作られた。オルソリーニの方は弄ぶかのようにキレキレな動きを続けていた。
また、今回の大会には出場していなかったものの、ジャンルイージ・ドンナルンマという天才GKもイタリア代表に存在している。彼はすでにA代表でもプレーしており、これからのサッカー界のトップを走るであろう逸材だ。
彼らのような有望な若手が存在する国のリーグは、いつか必ず日の目を見る。今は不振であっても、彼らがベテランと呼ばれるようになる頃には、世界の勢力図を塗り替えている可能性は大いにある。
惜しかった日本代表!久保建英にかけられた期待
日本代表は、決勝トーナメントでベネズエラに敗れてしまった。しかし、延長戦に持ち込んでの敗北だっただけに、その先に進めなかった可能性はゼロではないだろう。むしろ攻撃力の爆発していたベネズエラをここまで抑えた守備陣のクオリティの高さは賞賛すべきだ。前半18分のGK小島亨介選手のセーブも素晴らしかった。
後半63分には久保建英選手(以下、敬称略)を投入。久保は、今回の日本代表では唯一の2000年代生まれだ。U20の代表と言うことで緊張もあったのか、この試合では思うように試合に絡むことができなかった。試合はこのまま膠着状態に陥り、延長戦に突入したのだった。
久保は他のU代表やJリーグでもプレーしていることもあり、疲労が溜まっているような気がしてならない。FCバルセロナでの経験を積んだこともあり、「日本のメッシ」として大きな期待も寄せられている。
このU20代表での不調は非難できない。いくら有望とはいえ若過ぎる。あまりプレッシャーをかけることなく、長期的な目で育てていきたい存在だろう。
U年代を観て描く勢力図の下書き
この大会ではイングランド代表やベネズエラ代表のように、これまで思うような成績が出せなかった国の代表が素晴らしい結果を残した。
すでに述べた通りだが、若い世代が活躍し着実に育っていくことでA代表も強くなることは言うまでもない。A代表で活躍する選手達は、当たり前のことだがやがて衰えて引退していく。そうなった時に次の代表、これからのサッカー界を担うのは若い選手達だ。
今後のサッカー界では、当たり前の強豪と呼ばれていた国が落ちぶれることもあり得る。サッカー界の勢力図は永遠ではない。こういったU年代で行われる大会の顔ぶれや試合展開を観ることで、勢力図の下書きは確実にできあがっていく。
若い彼らのこれからの成長に期待したい。