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日本代表とは違う?全日本大学サッカーってなに?

2017 8/17 16:20柴田カズヤ
サッカー キック
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様々な「全日本大学サッカー」

今回は「全日本大学サッカー」について紹介するのだが、みなさんはこれがどのようなものかご存知だろうか? 全日本とつくくらいだから代表チームのことなのではないか?と思う方もいるかもしれない。これは半分正解で半分ハズレだ。 「全日本大学サッカー」を冠にしているものは選抜チームや大会などいくつかある。
まず、大会に関しては毎年冬に行われる「全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)」、夏の大学日本一決定戦である「総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント」がある。この2つの大会は大学の主要大会であり、日本一を目指して各地の大学がそのタイトルを狙う大きな大会だ。
一方の選抜チームに関しては「全日本大学選抜」がある(厳密に言うとサッカーの文言は付いていない)。これはその名の通り、大学の日本代表となる。選抜チームではデンソーカップやユニバーシアードなど海外の選抜チームと戦うことになる。
ちなみにオリンピック日本代表やユース日本代表に用いられるU-23日本代表やU-20日本代表にも大学生が選抜されることがある。しかしこれらの代表チームは全日本大学選抜とは別になる。 確かに年代は被っているのだが、U-23やU-20にはプロ選手も選ばれるし、場合によっては能力の高い高校生なども選ばれる。
一方で全日本大学選抜は名前の通り「大学」の選抜チームなので選手は大学生のみになる。 大学選抜は参加する大会やメディアでの報道も少ないため、この選抜チームを初めて知ったという人もいるのではないだろうか。
次章以降では、各大会や選抜チームが参加する大会について詳述する。

大学の対抗戦!インカレと総理大臣杯

ここでは「全日本大学サッカー」の冠を持つ大会について書きたいと思う。先ほども紹介したが、インカレと総理大臣杯だ。この2つの大会は大学ごとの参加になるため、大学対抗戦となる。
インカレは2016年までに65回開催されてきた。65回大会のうち優勝回数は関東リーグ所属チーム58回、関西リーグ所属チーム9回、東海リーグ所属チーム1回(両校優勝含む)と関東が他の地域を大きく引き離している。また、大学ごとの優勝回数では早稲田大学12回で1位、筑波大学が9回で2位、中央大学が8回で3位とこちらも関東勢が上位を独占している。
一方の総理大臣杯は、これまでに40回開催されていて、優勝回数はそれぞれ関東29回、関西10回、九州1回とこちらも関東勢が飛び抜けている。大学別に見ても1位が駒澤大学と順天堂大学の6回で、一見すると関東勢が大学サッカーで圧倒的に強いように思われる。
しかし、近年の両大会においては、阪南大学や関西学院大学、大阪体育大学など関西勢の優勝が増えてきており、関東一強の時代ではなくなりつつある。 これらの大会で活躍した選手の中から多くの全日本大学選抜候補が出てきているし、さらにはJリーガーとして活躍している選手もいる。これらの大会に注目しておくと未来の日本代表選手を見つけることができるかもしれない。

国の威信をかけて戦う全日本大学選抜

インカレ、総理大臣杯が大学対抗の試合であるなら、選抜チームで戦う全日本大学選抜は国別対抗戦となる。インカレや総理大臣杯で戦ったライバル校の選手が大学の枠を超えてチームメイトとなり、今度は国の威信をかけて戦う。
具体的な大会は先ほども少し紹介したが、毎年春先に行われるデンソーカップ、大学日韓定期戦、2年に1度開催されるユニバーシアードの他にも、2016年にはU-19全日本大学選抜がアジア大学サッカーチャンピオンシップに参加している。
デンソーカップは各地域の大学選抜チームが参加する大会だ。各地域は北海道・東北、関東(2チーム)、東海・北信越、関西、中国・四国、九州に分かれていて、これに全日本大学選抜が加わる形で計8チームとなる。この8チーム2グループに分け、4チームによるリーグ戦を行い、リーグの順位によって順位決定戦を行う。2010年までは全日本大学選抜は参加していなかったが、2011年から参加すると2016年までの6大会中4大会で優勝するなどその力を存分に発揮している。
デンソーカップの後には韓国の大学選抜との日韓定期戦が行われる。この定期戦は2004年に始まり2017年の大会で14回目を迎える。日本と韓国で交互に開催されていて、2016年までの通算成績は日本6勝、韓国5勝、2引き分けとなっている。数字だけ見るとほんの少し日本の大学選抜の方が強い!と思ってしまうが、これまで両国とも自国開催の試合の時には必ず勝利していて、2016年は日本開催の試合であったこともあって日本は通算成績で勝ち越しているが、2017年は韓国開催ということを考えると、その実力は全くの互角と言っても過言ではない。
ユニバーシアードは全日本大学選抜が戦う大会の中で最も大きな大会だ。ユニバーシアードは「学生のためのオリンピック」と呼ばれていて、2年に1度開催される。サッカーは1979年から行われていて、途中で開催されない大会もあったが、前回の2015年大会で16回目を数えた。サッカー競技では16カ国が参加するこの大会において日本はこれまでに、5回の優勝を果たしている。この5回という数字は各国の中でもトップの成績だ。

なぜ世界一になることができるのか?

日本のフル代表はこれまでW杯に5回出場しているものの、ベスト16が最高成績だ。この成績と比較するのは間違いなのかもしれないが、全日本大学選抜は世界一のタイトルをこれまでに5回も獲得している。規模も、注目度も全く違う大会ではあるが、日本のサッカーが世界一に輝くというのはなんとも誇らしいものだ。
では、なぜ全日本大学選抜は結果を残すことができるのだろうか?それは、日本のサッカー事情によるところが大きいと考えられる。 日本で学生がサッカーをプレーする場合その選択肢として、大きく分けて学校の部活とクラブチームの2つがあり、この2つにはいずれも高いレベルのチームがあり、レベルの差はないと言える。一方で海外においては、クラブチームがほとんどで、能力の高い選手はユース(高校生年代)を経てプロになる選手が多いため大学のチームに能力の高い選手が所属しているケースは稀になると考えられる。
日本の大学サッカー部に所属する選手は、元プロの指導者や人工芝のグラウンドなど恵まれた環境でプレーしているだけでなく、多くのJリーガーを輩出し、中には即戦力としてJリーグのスタメンになる選手もいるなどそのレベルは非常に高いといえる。 大学サッカーという他の国には見られないある意味特殊な構造を持つ日本だからこそ、ユニバーシアードにおいて世界一のタイトルを手にすることができたのだ。

大学サッカー人気から見る今後の展望

多くのプロ選手を輩出し、世界一のタイトルも獲得している大学サッカーだが、その注目度は決して高くない。 2016年12月に行われたインカレの決勝、筑波大学対日本体育大学戦に訪れた観客は5850人。一方で2017年1月に行われた全国高校サッカー選手権大会の決勝、青森山田高校対前橋育英高校戦に訪れた観客は41959人と大学サッカーの7倍以上の人数を集めている。
注目度には差があるが、試合内容としては大学サッカーも魅力的な試合を展開しているといえる。以下はインカレで優勝した筑波大学の小井土正亮監督の言葉だ。

「大学サッカーの注目度、今置かれている立ち位置を上げたい。もっと大学サッカーが注目されてもいい。高校サッカー選手権決勝で5万人の中で戦った選手がいて、それだけの価値のあるプレーをしてくれている」

出典: 日刊スポーツ

インカレの決勝には2014年度の高校選手権で決勝を戦った星稜高校の鈴木大誠選手と前橋育英高校の鈴木徳真選手が筑波大学の選手として出場していた。2人が高校選手権の決勝で戦った時の観客数は46316人だ。このことからわかるのは、インカレに出場している選手のレベルが低いというわけではなく(むしろ高校よりもレベルは高い!)、大学サッカーの魅力が多くの人に伝わっていないという問題が浮かび上がる。
大学サッカーのレベルは何度も言うように、卒業後即戦力でJリーグのチームに入団する選手がいたり、インテルの長友佑都選手やマインツの武藤嘉紀のように大学を経由して日本代表になる選手もいたりするなど間違いなく高いだ。
一方で高校サッカーのように試合が全国中継されることはなく注目が集まりにくい現状がある。テレビで放送されることがベストとは言えないし、大学連盟でも様々な情報発信を行っているため、正解が何かと言うことはできないが、少なくとも今の大学サッカーの現状はある意味もったいない状況だ。
元なでしこジャパンの宮間あや選手は以前インタビューにおいて女子サッカーを文化にしたいと語っていたが、大学サッカーも同様に文化として多くの人々に知ってもらえるようになることが求められるのではないだろうか?