Jリーグがモデル、地域スポーツを志向
日本ラグビー協会の清宮克幸副会長は、新設するプロリーグを、世界的なリーグにするという壮大な構想を抱いている。それが本当に可能なのか、サッカーといった他の競技の事情と比較しながら、考えてみる。
日本ラグビーのプロ化は、プロ野球といった日本に複数あるプロスポーツリーグの中から、サッカー・Jリーグの地域に根ざした成功をモデルにしているようだ。現在のラグビートップリーグは、Jリーグ発足前の日本サッカーリーグによく似ている。
Jリーグ創設時は、運営の不安定化などを理由にプロ化に反対する実業団チームがあったが、結局オリジナル10と言われるクラブの殆どが、母体となった企業の支援を受け続けたことで今もリーグに残っている。
プロ化すると各チームは企業から切り離され、別法人組織になる。Jリーグでは企業名がチーム名に入ったクラブはないが、ラグビーでは企業名は許されるのだろうか。これが許されるかどうかはクラブの収入に大きく影響してくる。チーム名に企業名が入ることは看板として大きな役割を果たすからだ。海外のラグビーチームは、企業ではなく、地域から生まれたものがほとんどだが、スポンサー名を冠している場合もある。
日本では、地域と共に戦うことを決めたJリーグに従い、企業はクラブ名から看板を外したが、一方でバックアップを止めることはなかった。計画を進めていた頃は、まだ、バブル景気が弾けておらず、日本の企業が十分な体力を備えていたこともあったかもしれない。
現在の日本は、経済が右肩上がりの頃とは様子が異なる。しかし、Jリーグが成功したことで、地域に根差すスポーツというものを市民が理解しているのは好材料だ。
Jの番人、サッカーにも存在感ある企業チームあり
余談だが、プロスポーツとして大きく発展した日本のサッカーには、プロチームより強いのではないかという企業チームがある。JFLの本田技研だ。サッカーどころの静岡県にあり、Jリーグ入りしていれば、かなりの強豪クラブになっていたことだろう。現在でもカップ戦でJクラブと対戦し、ジャイアント・キリングを起こしたというニュースがよく報じられる。本田技研は、ラグビーにも力を入れており、ユニークな存在であり続けるに違いない。
ラグビーチームは大所帯、開催できる試合数は少ない
類似点の多いサッカーとラグビーだが、違いも間違いなく存在する。出場選手はサッカーの11人に対してラグビーは15人。ラグビーの各ポジションは比較的特化しており、1人の選手が担当できることは限られているため、それぞれのポジションに控え選手が多めに必要だ。小柄なバックスの選手がフォワードをするというのは、かなり無理がある。経験が浅いまま、スクラムを組むのは、身体的に大きな危険を伴う。そして、大柄なフォワード選手は、パワーで押すために特化するトレーニングをしているため、バックスとして俊敏に走り回るのには、必ずしも適しているとは言えない。
ラグビーは、肉体的消耗が激しく、コンタクトも多いことから、怪我人が出るのも日常茶飯事だ。したがって、50人以上の選手を抱えるチームもある。また、競技の専門的な内容に対応するために、コーチやスペシャリストも細分化され、大所帯になる。人員はサッカーの倍くらいになる。
その上、体力的な事情で、野球のように毎日試合をして興行は出来ない。プレーできる試合数は、ルーツが同じ競技サッカーと比べても半分くらいだ。これが収入や人件費といった運営面に与える影響は間違いなく大きいだろう。
年俸の相場は低め、世界の一流選手を集めることも可能
一方で、Jリーグとは年俸にも大きな開きがある。ラグビー・ユニオンには、長らくアマチュア規定があり、1995年にようやくプロ化に踏み切ったという経緯がある。プロ化してまだ日が浅いこともあり、一流選手の年俸でもサッカーやアメフットといった他のフットボール競技と比較しても一桁は少ない。
サッカーやアメフットと同等の年俸を用意することは現状では難しいが、ラグビーに専念してメシが食えるというリーグを実現することは可能ではないだろうか。また、すでにトップリーグでも世界の一流選手が活躍しているように、プロリーグでも招聘することは可能なはずだ。
地域に根差したスポーツを受け入れる土壌もあり、年俸の面でも他のメジャースポーツのような巨額の資金が必ずしも必要なわけではない。あとは試合回数や収入といった運営面だが最初の数年は、Jリーグ発足時同様、企業の支援と地域にどこまで浸透できるかが課題になりそうだ。