「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

ラグビーW杯初の8強へジャパンの命運握る天才SO田村優

2019 6/30 15:00田村崇仁
ジャパンのキック戦術の命運を握るSO田村優Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

大観衆くぎ付けにしたイタリア戦

一昔前なら考えられないような変幻自在のキックが飛び出す。ラグビーの2019年ワールドカップ(W杯)日本大会まで約3カ月。ホスト国として初のベスト8進出を目標に掲げるジャパンでキック戦術の命運を握る30歳の司令塔がSO田村優(キヤノン)だ。

前回大会の15年W杯イングランド大会では1次リーグ3勝1敗としながら、勝ち点差で8チームが出場する決勝トーナメント進出を逃した。キックの名手は狙ったスペースを足技で次々と突き、打ち出の小づちのような引き出しの豊富さで攻撃をけん引。世界もうなる天性のセンスと卓越した技術でチームをリードする。

ジョセフHCはキック多用

鮮烈なインパクトを残したのは昨年6月9日、大分で行われた日本-イタリア戦だ。大観衆はジャパンの背番号「10」にくぎ付けとなった。

後半21分、左サイドからアイコンタクトを確認すると、右タッチライン際に大きく約40メートルのキック。楕円のボールは低い弾道を描き、サイドライン際のスペースに立っていたフッカー堀江翔太(パナソニック)へ。ピンポイントで決定的なパスを受けた堀江があうんの呼吸で内に返し、WTBのレメキ・ロマノラバ(ホンダ)のトライにつなげた。

正確無比なキックがあってこそ、生まれたビッグプレー。前回のW杯イングランド大会で日本を指揮したエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)はパス&ラン主体に組み立てた。ジェイミー・ジョセフHCはキックを多用する戦術で田村を重用し、今や日本代表の中心的な存在になっている。

五郎丸の後継者

15年W杯で一躍時の人になったFB五郎丸歩(ヤマハ発動機)が務めたプレースキッカーも受け継ぐ。イタリア戦では7本中6本を成功。身長181センチ、体重92キロの体はラグビー選手として決して大きくないが、全体練習後もプレースキックを納得するまで蹴り続ける姿がある。

SOはもともと密集から出たボールをSHから最初に受け、攻撃の起点となるのが役割だ。田村はボールを保持した際の思考を「常にキックとパスとランのオプションがある」と説明。瞬時に最良のプレーを選択し、視野の広さと戦術眼で判断を組み合わせていく。

海外でもSOが花形

SOはラグビーにおける花形ポジション。ラグビーの「母国」イングランドの英雄でキックの名手、ジョニー・ウィルキンソンは「世界一の司令塔」と呼ばれた。2003年W杯決勝で初の世界一に導くDGを決めた劇的なシーンは今も色あせない。プレースキックの助走前に「集中力を高めるため」と両手を胸の前で組み、拝むようなしぐさも有名だった。

現在は優勝争いの本命で3連覇を狙うニュージーランドのボーデン・バレット、アイルランドのジョナサン・セクストンが実力的に二枚看板。前回W杯で2連覇の原動力となったニュージーランドのSOダン・カーターもキックの精度とパスセンスで輝きを放った。

日本では才能あふれる松尾雄治や平尾誠二らが一時代を築いている。

中学までサッカー、父はトヨタ監督

日本の司令塔に成長した田村は中学時代までサッカーに没頭し、キックの精度を磨いた。ラグビーを始めたのは国学院栃木高に入ってから。高校時代は有名でなかったが、明大進学後はFBやCTBもこなす多才な選手に成長した。

もともと父の誠さんはトヨタ自動車の日本一に貢献し、監督も務めたラガーマン。その才能は大学、社会人と高いレベルで花開き、15年W杯では日本代表で南アフリカ戦に後半から途中出場。歴史的勝利を成し遂げる一員に成長している。

リーチ・マイケルも認める「天才」

17年にはキヤノンに移籍してプロ選手となり、一つの夢を果たした。不動の司令塔はサンウルブズにも4年連続で選ばれ、大黒柱リーチ・マイケルも「天才」と称するほど信頼は厚い。

楕円のボールはコントロールがトップ選手でも非常に難しいが「バウンドまで計算できる」という正確さが大きな武器。グラウンド上に転がして味方にパスを送る「グラバーキック」や地面でワンバウンドさせて蹴り込む「ドロップキック」など多彩なキックを自在に操り、アジア初開催となる地元日本で2度目の大舞台に備える。