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シュールの極致?今年のWWEレッスルマニアは無観客試合で決行

2020 4/1 17:00高橋テツヤ
ぎっしり埋まるWWEの客席ⒸBjoern Deutschmann/Shutterstock.com
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ⒸBjoern Deutschmann/Shutterstock.com

コロナ禍直撃で収録分を後日配信

米プロレスメジャー団体、WWE年間最大のイベントにして、世界最大のプロレス大会でもある「レッスルマニア」(以下、マニア)が、今年も間もなく開催される。

36回目となる今回のマニアは、フロリダ州タンパのレイモンド・ジェームス・スタジアムに7万人を超える観衆を集めて行われるはずだった。しかしご多分に漏れずコロナウィルスの影響を受け、今年のスタジアムイベントは中止に。代わって、フロリダ州オーランドにあるWWEの練習施設、パフォーマンスセンター(以下、PC)で無観客試合として行われることとなった。

マニアといえば、フットボールスタジアムいっぱいの観客、花火やロックバンド、大型スクリーンを用いた派手な演出、最後列の観客にも届くようなメリハリの利いたアクションでおなじみの、とにかくスケールの大きなページェントであるため、これが無観客で行われるというのは、プロレスファンにとっては想像の斜め上を行く一大事である。

しかも今年のマニアは、すべて事前に収録したものを、日本時間の4月5日、6日の2日間に分けて放送・配信するというから、何から何まで前代未聞である。

米疾病管理予防センターが、50人以上参加のイベントの中止を勧告、トランプ大統領も10人以上の集会は行うべきでないと発言して以来、WWEでは毎週全米各地の大会場から生中継しているレギュラー番組「Raw」「Smackdown」をすべてPCでの無観客試合の録画放送に変更、少人数のスタッフが連日にわたって急ピッチで番組製作を行い、3月25日にPCがあるフロリダ州オレンジ郡で外出禁止令が発令されるまでの10日間ほどで、Raw3本分、Smackdown3本分、そしてマニアの収録をすべて完了したとされる。

米メディア酷評…プロレスの無観客試合は「まるで演劇」

すさまじい突貫工事での収録には、WWEのすさまじいまでの“Show Must Go On”精神を見せつけられた思いだが、他方で既にRawやSmackdownで放送され始めた無観客試合に対しては、「余りにもシュールすぎてついていけない!」と米メディアで批判が巻き起こっている。

「試合前のベビーフェイスとヒールとの舌戦はいいとしても、いざ試合が始まると、観客がどれほど試合をもり立ててくれていたのかということにすぐに気がつく。実況アナウンサーの絶叫も、リング内の受け身の大きな音も、圧倒的な沈黙を打ち消すには全く足りない」(USA Today)

「プロレスは元々ちょっとシュールなものだが、空席に囲まれて繰り出されるパワーボムやレッグドロップのシュールさはまさに別次元だった」(Entertainment)

「マニアで対戦する予定のジョン・シナとブレイ・ワイアットが技巧を尽くして罵倒し合うシーンは、まるでシェイクスピアの演劇のように見えた」(HuffPost)

「WWEの無観客試合は、究極にそぎ落とされたプロレスだった。そこにあるのは、リングと、マイクと、レスラーだけだった。結果的にWWEは、いつものグラジエーターなスペクタクルというよりも、テクノロジー企業の新製品発表会のようだった」(Vulture)

さらに大御所プロレス記者のデイブ・メルツァーは、「WWEのライバル団体AEWや日本の新日本プロレスのような、スポーツライクに技を競い合うスタイルのプロレスは無観客でもまだ見やすいが、作り込まれていてパフォーマンスの自由度が低いWWEは演劇的で奇妙に見え、まるでアマチュアアワーだ」と酷評している。

筆者も番組を一部視聴したが、まるで観客がそこにいるかのように、いつも通りに観客にリアクションを求める選手が複数いるなど、無観客試合への対応が間に合っていないような不自然さが気になった。それにしても、悪役が悪いことをしても、善玉が怒りの逆襲に転じても、客席から何の反応もないというのは確かにシュールな光景であり、観客のリアクションがプロレスにとっていかに本質的なことなのかを再認識させられた思いだ。

WWEの底力に期待、そして日本人選手の出場は?

それでも、カメラの位置を移し、引きの絵を減らして選手のアップを増やしたり、空席をシートで覆って目立たなくしたり、一部の選手がリング下で拍手喝采やガヤを飛ばすようになるなど、回を追うごとに工夫もなされるようにはなってきている。果たしてWWEは、世界トップブランドのイベントを無観客でどのように見せてくれるのか。傑作になるのか、駄作になるのか。今年のマニアは、ある意味ファンにとって見逃せない、歴史に残る大会になりそうだ。

最後に、日本人WWEスーパースターのマニアでの対戦カードについては、本稿執筆時点では正式発表されていない。ただ一部の早耳系のメディアは、アスカとカイリ・セインがタッグチーム、カブキ・ウォリアーズとして女子タッグタイトルマッチに出場予定だと報じている。

また、今年のWWE殿堂入りが決まった新日本プロレスの獣神サンダーライガーも、通例であればマニアに先だって行われる表彰式典に出席するはずだったが、表彰式自体が後日に延期されている。

新型コロナウイルス感染拡大による影響まとめ