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東京五輪、高まる延期論…中止なら経済損失7.8兆円?

2020 3/13 17:00田村崇仁
採火式に参加した野口みずきⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

トランプ米大統領も1年延期論

世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスの感染拡大を「パンデミック(世界的大流行)」と表明したことで、今夏の東京五輪開催への懸念が一気に高まってきた。

東京五輪の採火式は3月12日、古代五輪の発祥地、ギリシャ西部のオリンピア遺跡で行われ、ギリシャ国内の聖火リレーが異例の無観客と不安に包まれる中でスタート。しかしこのタイミングでトランプ米大統領も「1年延期した方がよい」との考えを表明。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は「7月24日の開幕へ全力で取り組む」と不安の打ち消しに躍起だが、全世界を巻き込む新型コロナウイルス感染拡大の終息は見えず、五輪の「中止」や「延期論」はやまない。風雲急を告げてきた。

そんな中、SMBC日興証券は3月6日、新型コロナウイルス感染が7月まで終息せず、東京五輪・パラリンピックが開催中止に追い込まれた場合、約7.8兆円の経済損失が発生するとの衝撃的な試算を公表した。五輪に絡む損失は大会運営費に加え、訪日客を含む観戦関連支出で計6700億円。国内総生産(GDP)を1.4%程度押し下げ、日本経済は「五輪ショック」で大きなダメージを受けるとの見方が有力だ。

NBA、MLB、LPGAにフィギュアまで…

トランプ大統領の発言は、北米のプロスポーツ界が選手にも影響が出た新型コロナウイルスの感染拡大を受けて非常事態に陥ったことが引き金になった形だ。

米プロバスケットボールNBAは3月12日からの中断を即座に決定。米大リーグ機構(MLB)も3月26日に全30球団で一斉に迎える予定だったレギュラーシーズン開幕を最低2週間延期すると発表した。米女子プロゴルフ協会(LPGA)は4月2日開幕予定だった今季メジャー初戦のANAインスピレーション(カリフォルニア州)などツアー3大会を延期すると発表。メジャーには畑岡奈紗、渋野日向子が出場予定だったが、五輪のランキング争いにも影響が出そうだ。

3月18日からモントリオールで開催予定だったフィギュアスケートの世界選手権も男子で冬季五輪2連覇の羽生結弦(ANA)、女子で紀平梨花(関大KFSC)らトップ選手による熱戦が期待されたが、中止に追い込まれた。

高橋理事は「1年より2年延期が現実的」

東京五輪・パラリンピック組織委員会の内部からも観測気球のように延期論が出ており、世界各国に波紋が広がっている。広告代理店、電通元専務でスポーツビジネスに精通する理事の高橋治之氏は3月10日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)でインタビューに応じ、新型コロナウイルス感染拡大の五輪への影響について「中止はない」とした上で、個人的な見解として今夏の開催が断念された場合は1年か2年延期が現実的な選択肢との考えを語った。

その上で高橋氏は「来年のスポーツイベント予定は大半が決まっており、延期の場合は2年後の方が最も調整しやすい」との考えも示した。

数カ月の延期で秋開催が困難とするのは、米国や欧州のプロスポーツと開催時期が重なり、IOCに莫大な放送権料を支払っている米テレビ局への配慮を理由に挙げた。米NBCユニバーサル(NBCU)は2022年冬季五輪から32年夏季五輪まで夏、冬合わせて6大会の米国向け放送権を一括して76億5000万ドル(約7800億円)で獲得している。

大会を中止、もしくは無観客で実施した場合は経済的損失も大きく、現実的ではないとの声は根強い。延期論は4月から5月になっても事態が収束しなければ現実味を帯びてきそうだ。

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