広島のプロスポーツチームには類似点がある
── 2013年に出版された『我らがカープは優勝できる!?』に続いて、今回も広島に関する本を執筆されましたが、そのきっかけは何だったんでしょうか
今回の執筆は、近年の広島東洋カープの活躍と、それに伴う盛り上がりを一度まとめたいと考えたのがきっかけです。
様々な情報が記事やテレビでも発信されていますが、学術的な視点のものは少なく、経営に関してのデータや文献を洗って、この盛り上がりを生み出したものが何なのか一度分析してまとめておきたかったんです。
そのようなテーマで調べていたところ、Jリーグのサンフレッチェ広島やBリーグの広島ドラゴンフライズにも、経営という点で見ると似通った部分があることに気づき、そこに広島の特有のDNAというか文化のようなものがあるように感じました。
── その似通った部分というのはどういったところになるのでしょうか
そうですね。広島型のスポーツマネジメントっていうものの特徴として、セ・リーグ、パ・リーグが別れてからの1950年から現在まで、東京や大阪のような大都市圏を除いて同一のプロスポーツチームが継続して存在しているのは広島以外にありません。福岡や仙台などの都市は最初からプロスポーツチームがあったわけではありませんでした。
そういった中で、地方都市の中でも独自の文化と時代を経てきた、というのが私の見立てです。
なぜ広島だけ続いていたのか、というところで考えると、やはり原子力爆弾の投下という負の遺産、文化がある中で、スポーツが市民の心の支えになったというところがあると思います。その中でスポーツと市民の距離が近づき、スポーツに対する熱意だけでなく、地域の一部という意識、地域で支えようという強い意識が生まれました。
それがサンフレッチェや、ドラゴンフライズが地域に生まれたときも同様に働いています。創設当初は赤字で、経営者が交代したり、スタジアムの老朽化であったり様々な経営上の課題がありました。それらの逆境を市民の方々と一緒に乗り越えてきたという点が非常に特徴的です。
他にも、親会社に頼らない地域密着型の独自採算型の経営も特徴です。カープもそうですが、サンフレッチェも同じように地域に愛され支援されて今の姿があります。サンフレッチェはマツダのサッカークラブから生まれましたが、バブルが弾けてマツダが下り坂になったタイミングで、Jリーグ創設への動きがありました。
広島は最後の最後まで加入するかどうかで迷っていましたが、その時も母体であるマツダがコミットしない中で、地域の企業がスポンサーになり、市民の応援もあってサンフレッチェが誕生しました。
広島型のスポーツ経営は親会社、スポンサーに依存しない
── 市民のサポートっていうのは資金的な面でもあったのでしょうか
カープの樽募金のような資金的な支援というより、Jリーグ加入に向けて市民が署名活動を行ったり、熱心なサポーターが多くJリーグ創設当初でも他チームの試合と比べても入場者数が多かったりと、そこには市民の支えがありました。
ドラゴンフライズも、一年目から大赤字になり非常に苦しい状況だったのですが、市民の有志の方たちが経営面でも支えました。今は浦社長という30代の若手の方が経営されていますが、NOVAグループの子会社ながらも独立採算型で運営されています。
このように親会社や大きなスポンサーに頼らない、継続可能な運営を各クラブが工夫しながら行っています。

(2月29日に刊行される藤本氏の新刊)
── 広島型の経営というのは、独立採算型で親会社があっても頼りきった関係ではないんですね
そうですね。それが非常に特徴的なところだと思いますし、少ない経営資源で最大限の成果をあげています。カープは創設当初、後援会制度や、市民の持株制度など、ヨーロッパのサッカークラブのソシオ制度のような画期的な取り組みを行っていました。
サンフレッチェは中山間地域に日本屈指の育成クラブを作り上げ、少ないコストでチームを強化することに成功しました。ドラゴンフライズはTwitterやFacebookなどのSNSでのフォロワー数がB2トップと、新しいサービスも利用して集客につなげています。
経営の工夫や独自の戦略を継続して行ってきたというのも広島型のスポーツ経営の特徴です。
── 一番読んでもらいたい部分はどこで、読んでもらいたい人はどういった方でしょうか
そうですね。題名にもあるんですが、「逆境」がテーマになっていて、成功事例ではなく経営的に苦しいもしくは厳しい事例を多く載せている本になっています。成功っていうのは地域性など様々な要素にも影響されるので全員の参考になるものは少ないからです。
これからスポーツマネジメントの世界に入ろうとしている人に、「こういうことをやっちゃいけないんだ」ということだったり、失敗してピンチが来たときには「こうやれば乗り切れるかもしれない」ということだったり、逆境をどうやって乗り越えていくのか、その失敗の過程、立て直していく過程というのをこの本を通して伝えられればと思います。
スポーツクラブが逆境に陥ったとき、一番大事なのはどれだけ地域の公共財となれているか、地域のシンボルであれるかどうかだと考えています。どの企業にも浮き沈みがあるので、企業の下にいる間にどれぐらいのファンと地域の信頼を得られるか、といったところが非常に大切です。
地方でスポーツマネジメントに携わる方や、スポーツで地域を活性化させようとしたい人に読んでいただければ嬉しいです。
<プロフィール> 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。