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10億円イベント「ONE」両国国技館大会の熱き闘い

2019 10/16 17:00高須基一朗
両国国技館大会では熱い闘いが繰り広げられたⒸONE Championship
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ⒸONE Championship

前日の台風19号の影響で第1部は観客まばら

旗揚げから100回目のメモリアル・イベントが日本開催ということで、非常に注目度が高かったアジア最大級の格闘技イベントの一つである「ONE Championship」が10月13日に両国国技館で開催された。

8時から第1部がスタートして14時に終了。第2部が17時からスタートで22時終わりと、長時間を両国国技館で過ごすというビックイベント。全出場選手のファイトマネーや賞金、制作費を含めた総費用は10億円以上というから、ONEが格闘技産業で積み上げてきた実績が窺い知れる。

ただ、大会前に気がかりだった点は、前日に大型台風19号が関東を直撃した影響によって、大会開催が可能なのかということだった。実際に台風通過後には、両国国技館の停電という予期せぬ出来事が勃発。当日4時間前の朝方4時の段階でようやく電力が復旧し、ぎりぎりの判断で予定通り朝8時から第1部をスタートした。

それでも台風19号の残した影響は大きく、東京のいたるところで交通網がマヒ。最寄の両国駅まで電車が全く動いていないという状況で、メディアの取材陣ですらも十数名がチラホラと来場する程度だった。

午後に入り電車が復旧したタイミングで次々とメディアも来場したが、第1部の客数は10分の1程度と少なかった。これについてもONE運営サイドは迅速な対応を取り、午前中の第1部のチケットについては全額払い戻しに応じることを前日の段階で発表した。

アンジェラ・リーがリベンジ

第1部のトリプルメインイベントの3試合で初陣を切ったのは、今年初旬に、青木信也を逆転KOで沈めたクリスチャン・リーが、強豪アサラナリエフを相手にライト級ワールドグランプリトーナメント決勝を戦った。当初、決勝戦はエディ・アルバレスであったが、大会直前の怪我で欠場。急遽、アサラナリエフが繰り上げで決勝の舞台へあがってきた。

試合は、壮絶な殴り合いで互いを削り続けた消耗戦だったが、辛くも判定でリーが勝利してグランプリ決勝戦を制覇した。試合直後にリーが5回も嘔吐を繰り返したと、記者会見で明かしたことで分かる通り、ぎりぎりの攻防であったのは間違いないだろう。

そしてメイン2試合目は、日本でも知名度の高い元UFC世界王者のデミトリアス・ジョンソンが終始相手をコントールして危なげなく得意の寝技地獄に引き込み、有利に試合を進めて判定勝利。

第1部を締めくくる最終試合にはクリスチャン・リーの妹でもあるアンジェラ・リーが登場。こちらも激戦となったが、最終5R残り15秒でバックを取りチョークスリーパーによって一本勝ちで締めくくった。昨年度の両国国技館大会でKO負けを喫したション・ジンナン(中国)に一年越しのリベンジを果たし、リング上で大粒の涙を流していたのが印象的だった。

修斗とパンクラスの対抗戦はイーブン

続く第2部は交通網の不通も復旧し、17時の開始時点で会場は満席。第1部の状況とは打って変わり、会場のボルテージも上がる。修斗とパンクラスの対抗4番勝負は、それに呼応するかのように好勝負が続いた。

序盤はパンクラス勢のライト級の久米鷹介とウェルター級の手塚裕之が2連勝となるが、3試合目に登場した佐藤将光が修斗の看板を背負って意地の戦いを見せる。ブラジル人ファイターのをハファエル・シウバをKOで撃破し、1勝2敗とした。

ここまでの3試合全てが名勝負で、序盤とはいえ、他団体ならば間違いなくメインイベント級の試合である。そして勝利者ボーナスがファイトマネーとは別に540万円なので、選手のモチベーションも非常に高い。

ラストの4試合目には、パンクラス前田吉郎の愛弟子と北方大地が登場。対するはONEではおなじみの猿田洋祐。団体の看板を背負っての最終戦というプレッシャーもあり、両者ともに1Rは動きが硬かったが、2Rに入り、身体が動くようになった猿田がマウントになった最初のタイミングで、左のパウンド一発で相手の顎を打ち抜き失神KO勝利を飾った。

これにて4戦2勝2敗となり、修斗とパンクラスの対抗戦はイーブンで幕を閉じた。

大会中盤から終盤は、これまた100回記念にふさわしく、怒涛のメインカードと知名度抜群の選手が次々に登場した。まずはV.V MEIこと山口芽生。3R15分間、相手のジェニーファンを寝技に引き込みコントロールして判定勝利を挙げた。

勝利後にマイク向けられると、午前中の第1部でアンジェラ・リーがアトム級のタイトルを獲得したことを踏まえて、同階級である山口芽生がアンジェラに対戦要求。ただ、試合内容がお粗末だったこともあって、リング上のMCがこれについて話を広げることもなくシャットダウンした。今後、アンジェラに対戦要求のラブコールは届くのだろうか。

「地の利」活かして世界王者

そして、ここからはキックボクシングにムエタイ、更にはMMAの世界王者が立て続けに誕生。キックトーナメント決勝戦には、K-1 WORLD MAXで魔裟斗引退後に最後のK-1 WORLD MAXミドル級王者に輝いた経験があるペトロシアンが、久々に日本の地でONEのフェザー級に登場。対戦するのはフランスのテクニシャンのサミー・サナだ。

試合展開は、サウスポースタイルのペトロシアンが常に左ストレートをカウンターで合わせてくるので、サナが手の長さを活かした得意の右のストレートを出しにくい状態が続く3R9分間だった。

幾度となくペトロシアンが左ストレートをきっかけにコンビネーションで3発、4発と顔面とボディに打ち分けてポイントを稼ぎ、判定勝利。芸術的なボクシングテクニックは健在で、見事に約1億円の優勝賞金を手にした。

またムエタイ・フライ級タイトルマッチでは、過去に那須川天心を「KNOCK OUT」の舞台で対戦して苦しめたロッタンが登場する。この階級でムエタイルールのオープンフィンガー着用だと、ロッタンはもはや無敵。

本来は、ナックル部分が薄いオープンフィンガーグローブであれば、1発入ればどんなに打たれ強い選手も失神する可能性は極めて高いのだが、ロッタンの打たれ強さは尋常なレベルでなく、相手のゴンサルベス(ブラジル)がどんなに強いフルスイングの強打を当ててもロッタンは動じることなく前へ突き進む。結果、スプリット判定であったがロッタンの勝利となった。

続いて「HERO☆S」で山本KID徳郁と名勝負を繰り広げたビビアーノ・フェルナンデスが、MMAタイトルマッチで登場。対するは昨年度の両国大会で無効試合となった際の対戦相手、ケビン・ベリンゴン(フィリピン)だった。

遺恨が残る一年越しのリマッチとあって、両陣営のセコンドも熱のこもった声が飛ぶ中での試合は、ビビアーノが相手をコントロールする場面が多く、一瞬のスキをついてバックを取った刹那にチョークスリーパーでタップアウトし、勝利をつかんだ。

終わってみれば日本で知名度の高い選手たち3人が、3シリーズで世界王者に輝いた。地の利とはよくいったもので、日本になじみのある選手たちは、どこか試合を有利に運ぶ傾向があると感じる3試合だった。

メインはミャンマーの英雄アウンラがTKO勝利

そして、この余波を受けて青木真也が登場。青木とは決して相性が良くないストライカーのホノリオ・バナリオを相手に変則肩固めにて、わずか1分足らずで勝利。両国国技館での開催のONEで青木は2年連続で一本勝ちとなった。

前日に「RIZIN」で同時代を生き抜いてきた川尻達也が電光石火のパウンドで完膚なきまでに殴られ続けて負けた。その翌日の試合ゆえに、複雑な思いをもって試合に挑んだはずだ。

川尻の試合前の“煽りV”でも友情出演ともとれる流れで青木が登場し、青木流の毒舌を貫きつつも、どこか愛がある激励のコメントを川尻に送っていたことを考えると、この川尻の敗戦をひきずらないことは考えにくい。団体の垣根を越えて大きなプレッシャーがかかる中での試合で、わずか1分足らずで勝ち抜くメンタルの強さが青木の真骨頂だとあらためて感じるものだった。

そして第2部のメインイベントに人気絶頂のミャンマーの英雄アウンラが登場。1Rは互いに距離が遠かったが、2Rに入ると踏み込みが一歩分深くなったことでパンチの応戦がスタート。どちらが倒れても強烈なパンチが飛び交う中で、変則的なバックエルボーをこめかみに当てたアウンラが、そのまま畳みかけてパウンドを打ち込んでTKO勝利。二階級制覇の王者らしく、メインにふさわしい素晴らしい内容だった。ONE日本開催は、昨年に続いて、全試合が名勝負の100回記念大会となった。