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武居由樹×江川優生 K-1新時代を支える2人が初のクロス対談

2019 8/11 11:00高須基一朗
初のクロス対談を行った武居由樹(右)と江川優生Ⓒ©mariko matsubayashi
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Ⓒmariko matsubayashi


武尊の長期戦線離脱で「新生K-1」を支える第二のカリスマとして連勝を重ねる武居由樹が、「KRUSH」 王者である後輩の江川優生を迎えての初めてのクロス対談がSPAIAで実現した。二人のカリスマがK-1新時代を語る。

寝食を共にした青春時代

―なんとSPAIAで初クロス対談ということで、今や「K-1」に「KRUSH」の顔役のお二人にご出演いただきました事を感謝いたします。

武居祐樹(以下、武居)―本当に、よくよく考えると二人では…初だよね。

江川優生(以下、江川)—はい、ジムの(古川)会長とは、一緒に取材に対応ってことはありましたが、二人でゆっくり腰を据えて話すのは初めてかと。

―お互いがお互いに対して、こういった機会でないとなかなか言えないと思うので、選手として優れている長所をどうでしょうか?

武居―(江川選手は)試合中、とにかく冷静で、セコンドの言うことを的確に試合でやっていますよね。そして拳がとにかく硬い。それとスネの骨が強くてローとか食らうと痛い。受けていてもダメージが出る。頭がいい。

―それを受けて江川選手は率直にどうでしょうか?

江川—何より、この階級でスピードは日本人では一番かと思っています。一緒に練習をして、つくづく思うのは、付いていくのに必死なんですよね。パンチのスピードは、本当に速いです。あとは、武居選手の圧力のかけ方ですね。選手を後退させる圧力が何よりすごい。そして詰め方が巧いですね。

―武居選手の参考にしているところとかありますか?

江川—最後のフィニッシュですよね。仕留めるところをしっかり仕留める。両国国技館大会のトーナメント3試合で、全てKOって…簡単に見えますけど、すごいことですからね。

―圧力とプレッシャーをかけて行けと、古川会長から言われてるのですか?

武居―いや…そんな事ないんですよ、実は。距離感とか間合いを大事にしているので、そこまで前に出ろって言わないですかね。

江川—むしろ真逆で、1ラウンドは、動きや約束事を決めて戦うことが多い気がします。

武居―作戦があって、戦略があって1ラウンド目は時間を使うって感じですかね…(江川選手の顔色を見ながら)

―お二人は苦楽を共にして同じ家で共生しており、兄弟みたいな関係と伺っていますが、先輩後輩の関係は存在していますか?

江川—間違いなく先輩・後輩の関係です。

武居―そうでもないような…。

江川—敬語ですし。

武居―毎日一緒にいるし、中学生からいるんで…。僕が中学3年生の時に、彼は中学2年生ですからね。寝る時も同部屋で、食べる時も一緒だし。敬語は敬語ですけど、たまにひどいこと言いますからね(笑)

江川—いやいや、そんな事ないはずです(失笑)

―青春時代を共に過ごしているのだから、思春期の時は兄弟喧嘩みたいなことは起こるんですか?

武居―ここの二人ではないですかね。

―同門であるパワーオブドリームのジムで、逆に喧嘩になった際に仲裁に入ったりとかは、どうですか?

武居―高校時代に、同じ同門の一つ年下の選手と喧嘩になったことが練習中にありますけど、すぐに仲直りするって感じでしたね。

江川—会長は、止めるっていうよりは、「ほっとけ」、「やらせておけ」って、子供たちの喧嘩にあえて口出ししないって感じで。

武居―それで、ひと段落した段階で、最後は会長の鉄拳を食らうっていう(笑)。最終的に、めちゃくちゃ怒られて一件落着ですね。ここの二人は、一度もないね(笑)

江川—そうですね。

武居―あ、ただ他は酷いよね。この前も…。

江川—いや、それは!

ファミリーで勝ち取ったベルト

―この数分の対談ですごく信頼関係が強いのが分かったところで、これまでのK-1、KRUSHでの経歴について触れていきたいと思います。江川選手に西京春馬選手との試合について聞きます。KRUSHタイトルマッチ(2019年1月)で西京春馬選手(武尊選手と同じジムのクレストの選手)に勝った時に、お二人ともに感情がグッとこみ上げてなのか、感極まって熱い涙がにじみでいる瞬間があったと思うのですが、この時の心境を教えてください。

江川—もう半年も経過したんですね。早いな~。

武居―僕が一度、判定で負けている選手ですし、試合前に優生が調子悪くて、勝てるのかな?って不安が続いていたんですよね。会長も準備不足に不安を感じていたように思いましたし、動きが良くなくて、これでは勝てないってことが多かったんですよね。それが本当に試合の2週間前ぐらいの話で。

そのタイミングで、僕自身も前年度の年末に試合が終わったばかりだったので、一緒に練習もできなくて、ちょっとだけ口を出したぐらいだったんです。ただ、会長が不調なところに気付いてくれて、修正が出来たんですよね。時間がない中でギリギリとはいえ修正が出来て、それがあって勝てたので。自分も感動しちゃいましたね。

―ファミリーで勝ち取った勝利と感じましたが、それはどうでしょうか?

武居―昔から優生は天才型とかではなくて、練習でもやられるって感じではないですけど、主導権を握れない練習が多いので。それに中学時代は試合でも結果がなかなか繋がらなかったんですよね。そういった苦悩が続いて、それでも格闘技を辞めずに、苦労と努力をしてきていたのを僕は知っていますからね。それでベルトを巻いた瞬間は、色々とこみ上げてくるものがありますよ。

―判定ってなったときは、会場でどういった感じでしたか、セコンド陣営は?

江川—(会長から)獲ったぞって言われましたね。ただ、まだ気は抜くなよって続けて言われましたね。あのときは、本当に会長にも喜んでもらえて笑顔が出たんで良かったです。

武居―僕の試合の時なんて、まったく笑顔ないですからね(笑)

強烈な左フックを放つ江川優生ⒸM-1 Sports Media

ⒸM-1 Sports Media

―やはり会長の接し方も、選手によって若干の違いは感じますか?

武居―いや…どうだろう…優生の試合のほうが、安心して観ているような気がしますね。

江川—確かに、表情的には自分の試合の時のほうが険しくない表情な気もします。

武居―試合中、自分が全然、会長の言葉を聞けていないで試合しているので、それもあると思います。

―そうなると試合で熱くなってしまいます?

武居―自分は、そうですね。スイッチ入ると熱くなって突進していますね。ただ、現在の新生K-1で活躍するチャンピオンクラスの選手は、時に感情むき出しに戦うスタイルを皆さん持っているように感じますよね。その狂気的なものが拳に宿っているのかなと思うのですが、どうですか?

武居―対戦相手を委縮させるために絶対に必要な要素の一つかと思いますね。

江川—それは自分にも絶対に必要なことだと思っています。

―お二人がジムで練習する際に、マス(フォーミングなどを中心に動きを確認する実戦形式の練習)が多いですか?それともガチ・スパーリング(実戦さながらな練習)ですか?

武居―その中間の、マススパーって感じですかね。

江川—スピードの技の出し合いみたいなもんを中心に戦っています。

―試合前は、マス・スパーリングを毎日やるような練習ですか?

武居―なんとなく階級は合わせて、同じぐらいの選手同士でやりますけど、けがをしている選手以外は、ほとんどのプロ選手と順番にやりますね。

江川―プロ練習になると、うちはプロ選手6人しかいないので、みんなで回していく練習が多いですね。

―お二人がチャンピオンベルトをもって、ジムの練習性は増えましたか?

江川―子供の練習生が増えた気がしますね。自分たちが影響を与えたとは思えないですけど、そう感じますね。

武居―たまに子供たちの練習している姿を見ると、見慣れない子供がチラホラいるので、ジムの生徒は増えている実感はありますね。

―今は衣食住を共に過ごしている選手は、何人ぐらいいるんですか?

武居―現在は3人ですね。ただ夏休みになって、子供たちが悪さとかすると、宿泊する子供が増えたりしますかね。

江川―あとは週末とか。

武尊の引退試合の相手になりたい

―今、お二人がベルトを巻いている現状で、世界の名だたる海外選手と戦いたいのか?それとも日本人対決を望むのか?率直に如何ですか?

武居―僕は、間違いなく日本人選手とではなく世界と戦いたいですね。正直言って、今の階級では日本人で戦いたい選手はいないので、強い海外選手とやっていくのがいいんじゃないかと思っていますね。

江川―自分はまだ、KRUSHのチャンピオンになっただけなので、まずは村越選手とやりたいですね。その次に、自分はまだ外国人選手と戦った事がないので、次に外国人選手とやりたいと思っていますね。じきに、そういった時が来るのかなと思いますけどね。

―あとは階級の壁を越えて、武尊選手との対戦というのは、今までもさんざん聞かれてきていると思うのですが、どうですか?

武居―なんとなく、やっぱりK-1の舞台で出場すると必ず活躍するので、いろんな意味で意識してしまいます。

―やるとするならば、早くやりたいですか?

武居―そうですね…(少し考える時間を置いて)自分とは「K-1」で考えると二階級の体重差があり、すごく大きな問題があるので、正直いって武尊選手と戦える存在ではないと思っています。なので、武尊選手が引退を考えたタイミングで、自分が引退試合の相手に選ばれるぐらいの存在になっていたらいいなと考えています。体も時間をかけて大きくしていって、周りからもそう思ってもらえるように1試合、1試合を勝ち続けていきたいですよね。武尊選手に、「武居と戦いたい」って思ってもらいたいです、本音は。

武尊への思いを明かした武居由樹ⒸM-1 Sports Media

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―今の話を聞いて、江川選手はどう感じますか?

江川―格闘家として、そこに行きたいですけど、僕はまだまだなので話にも出せないです。

―ただ、タイトルマッチで西京春馬選手に勝っているので、どちらかというと武尊選手と同じクレストのメンバーの選手たちからは、狙われている立場もあるかと思うのでが、そのあたりはどうですか?

江川―そうなんですかね…。僕はそんな風に対抗意識をもってやっていることはないので、一戦一戦、主催者が提示してくれたマッチメイクには断る理由がないです。

―会長から、中学時代から今に至るまでに一番・印象に残った、心に響いた言葉なんぞあったら、教えてもらえたりしますか? 武居選手は10年近くの付き合いとなると思うんです…掲載できる話でお願いします(笑)

武居―いっぱいありすぎて…なんだろう。いろんなこと言われるんで。

江川―自分は、二回目に負けた時ですかね。会長から「もう一回頑張ろう」って、詳しく一字一句覚えているわけではないですけど、かけられた言葉ですね。

―武居選手は悩んでいますね…。

武居―なんだろう…。自分は複雑な家庭環境の問題があったので、会長に引き取ってもらって、高校生ぐらいの時に「まだ俺がお前を守ってやるからな」って言われたのは、本当に嬉しかったですね。本当の親子みたいな感情が生まれっていうんですかね。

―やはり古川会長の存在って大きいですよね。そして、ベルトを守る立場になっているお二人ですが、その重みってどう感じていますか?

武居― K-1のチャンピオンに一度なったら絶対に負けてはいけない存在なんだと思うんですよね。K-1の価値って僕が負けたりして、絶対に下げたくないので。そして勝ち続けるからこそ、K-1のベルトの価値も上がり続けると思うんです。当たり前のことですけど、僕は絶対に負けたくないです。それぐらい重いものですよ。

―タイトルマッチなど、ベルトの重みがプレッシャーとなって寝れなかったりしますか?

武居― 今回(両国大会)は、正直言って試合が近づくにつれて寝れなかったですね。練習がキツ過ぎてってこともあったんですけど、すごくプレッシャーで毎晩のように試合の夢を見ました。

―夢の中でダウンしてパッと起きたりするってことですか?

武居―そうですね、そういった夢を見る時もありました。試合で勝った夢も負けた夢も両方を見ましたね。

―江川選手は先輩のそういった話を聞いて、ベルトの重みをどう感じますか?

江川―初の防衛戦の時は、会見でプレッシャーないと言いましたけど、今考えると、それなりにありましたかね。でも、そういったプレッシャーがあって自分は強くなれている実感があるので、そこを大事に乗り越えて戦っていきたいですね。

―江川選手は、何回ぐらい「KRUSH」の防衛をしたいですか?それとも「K-1」へ舞台を変えて挑戦したいですか?

江川―自分は、はっきりしています。すぐにでも「K-1」へ出たいです。

―直近の両国大会では武居選手は3KOと、これに対しては満足していますか?

武居―正直言って満足していないですね。ホッとはしています。優勝できて一安心と思うところが正直な気持ちです。

―けがもほとんどないですよね、今回の両国大会では?

武居― そうですね、大けがは全くないです。

―あれだけ強いパンチを打っていて拳は大丈夫ですか?

武居―今回は大丈夫でしたね。

―武尊選手が拳をけがしている状況を考えると、武居選手も年々、破壊力が増していると見受けられるので、強いパンチを打っている状況を見ると、心配になるのですが、対策はどうですか?

武居―正直不安もありますけど、トーナメントになったら3試合で、1試合毎に腕一本ずつは覚悟して戦っていますね。なので、試合中や大会でけがしても、それで戦うってことも想定してやっていますね。

―江川選手はどうですか?武居選手同様に、破壊力には定評があるとかと思うのですけど、拳のケアなどは?

江川―自分は大きなけががないので、特に拳が気になることはないですね。去年1年間は、左の拳を練習中にけがしたので、思うように強く打てないで試合をしていたので、それぐらいですかね。

古川会長への恩返しは…

―パワーオブドリーム(両者の所属ジム)の方針として、試合では前へ前へ突進してKOを狙えというセコンドの方針が多いんですか?

武居―そんなことないんですよ、実は相手がちょっと効いたなってときほど、まだ倒すタイミングではないって言い続けていることが多いですね。じっくり倒す指示が出ますね。

江川―倒せるかなって思う時も、会長からは「まだ早い早い」って言われる事が多いですね。そういわれると、冷静に対戦相手を見ることが出来るので、やっぱりすごいなって思いますね。

―仕留める時にはじっくり行くってことなんですかね。

武居―会長は、KOよりも判定での勝利が良いって方なんですよね。判定での確実な勝利が強いって思っていますね。1Rで倒しても意味ないって言われたりしますね。もっと練習した技をしっかり出し切って勝てって言われます。いろんな技術で圧倒して勝つ、試合をコントロールをしている選手になってほしいって思っていますね。

―お二人にとっても古川会長との出会いが、今の格闘家人生を大きく飛躍させたことかと思うのですが、恩返しは何を考えていますか?

武居―家…(笑)

江川—別荘…(笑)

—何ですか、それは?

武居― K-1チャンピオンになったのは恩返しかと思うんですけど、ファイトマネーで家買えって。

江川—僕には、「別荘」を買えって(笑)

―え!?(笑)会長の家と別荘ですか!

武居―ハイ(失笑)冗談なのか…本気なのか…わからないんですけど、結構、昔から言われているんですよね。

江川— 自分はプロになる前から言われていますよ、実は。

―では整理しますと、足立区の本宅は武居選手からプレゼント。避暑地などの会長がお好みの場所の別荘は、江川選手からプレゼント。これ記事にしちゃいますけど、大丈夫ですか? (笑)

武居―まったく問題ないです。現役中に頑張ればいいので。

―今年は下半期に入り、お二人ともに今年は残り…おそらく1試合ですかね。まだ対戦相手など決まっていませんが、意気込みを如何でしょうか?

武居―現段階で、僕らのジムの選手は勝率で100パーセント勝っているので、このまま連勝を続けていきたいですね。あとは「K-1 AWARDS」で最優秀選手賞もらいたいです。それから、ベストGYM賞を会長へ。

江川―それ自分も思っていました。そのためにも、年内1試合は絶対に負けられないです。チームとして結果を残したいですね。

―お二方、長時間にわたり、ありがとうございました。家と別荘を購入された際には取材させてくださいね(笑)

和やかムードで対談した武居由樹(左)と江川優生Ⓒ©mariko matsubayashi

Ⓒmariko matsubayashi